第26話 二百十日

台風の影響で海はかなり時化しけていた。

北海道に台風は来ない、っていうのは

かなり昔の事だろう。地球温暖化の

せいなのか、最近の台風は矢鱈と

巨大化してるってネットニュースで

その比較を見た事がある。

 まさに、直径が従来の倍以上ある

台風が列島を縦断すれば、否が応でも

巻き込まれる範囲は広くなるだろう。



浜で揉めていた奴等を、取り敢えず

業後の店に連れて戻って、そこで

何となくの情報共有を図った迄は、

まあ良かったが。


あの、二尾富子やおびくに。マジですげぇわ。

とかいう年齢だけでなく、

やる事なす事まるで人の範疇にない。


  それにしても。


最初から彼女が  って気付いて

いたのが俺の他には宮司と菅原巡査。

それに権堂、ってのが又ホラーだよな。

嘘みたいだけど、貝殻ソファのもう

一方は、彼女が 声 を発して初めて

姿らしい。

 百目木教授は狼狽えるし助手の二人は

怯えて泣き始めるし…。それを宥める

菅原巡査は気の毒だったけど、結局は

濤祓なみはらえ』の儀式前後一週間は、調査も

中断でカタがついた。すげぇだ。


尤も、それは進路を真っ直ぐ日本縦断に

据えた 馬鹿デカい台風 の影響も

ある。それはそれで頭の痛い事だった。


『濤祓え』つまりは直ぐそこまで

迫っている。


あの後、俺の携帯にちょくで掛かってきた

電話がまさかのからで、

こっちが思っている以上に【猫魔岬】を

楽しみにしている様子が言葉の端々から

伺い知れた。

 一瞬、どうしたものかと思ったが。

寧ろ何も無い方が何かと 構想 が

湧くらしい。只、既に列島縦断を決め

込んだ 台風 が気にかかった。


向こうも馬鹿じゃねえから、台風の

進行状況を睨みつつ来るだろうが。





そんなこんなで。俺は『恐怖!呪いの

網元屋敷』に来ていた。これ、権堂に

だけしか言ってねえのに、何故だか

最近、巷で流行り出している。全く

油断も隙もない。


「あら、いらっしゃい支店長さん!」

二尾の女将が明るく迎えてくれる。

「今日はなした?」割と広いロビーは

相変わらず人っ子一人いない。特に

この時期は閑散期に違いないけれど。


「札幌から知人がこっちに来るんです。

宿を是非この歴史ある旅館にしたいと

先方からの強ってのご希望もあって。

今、部屋って空いてますかね?」

「勿論だべさ。支店長さんの知ってる

方なら、サービスさせて貰うっけ!」

「良かった。有難う御座います。」

「でも、一体何だってこんな時期に

こっちさ来るんだべか?海は時化るし

見る所もないしょ?」「それが…。」

言いかけた所に携帯に電話があった。


「ちょっと失礼します。」言って俺は

電話に出る。相手は筧会長で、何と今

もう既に北海道入りしていると言う。

敢えて千歳ではなく帯広空港を利用し

トマムや富良野の現状を視て、現在

札幌にいるとか言ってきた。


流石は天下の 筧地所 の三代目。

年齢としに反して物凄い行動力だ。

 田坂達が携わるTOBも、そろそろ

仕上の頃合いだから、きっと向こうも

本腰入れて  の検討に入ったに

違いなかった。


北海道は  なんだろう。


但し、それが【猫魔岬】と決まった

訳じゃない。きっちり この町 の

ポテンシャルを見せないと、そこは

巨大法人の代表なのだ。あくまでも

採算性と持続性は重視されるだろう。

 だが、この台風の中を態々来るって

いうのは、まさに新月の『濤祓え』が

目当てなのは言うまでもない。


新月に岬の神社から千本鳥居の間に

篝火を焚くのは、この『濤祓え』が

元になっている。由良宮司から色々と

聞かされた『根古間神社』の神事は

元々、の儀式だ。


「なした?さっき言ってたお客さん?」

女将が心配そうな顔で聞いて来る。

「ええ。もう札幌に来てるって言うんで

びっくりですよ。」「あらま。ウチは

いつでも構わねえさ。この時期は大体

閑古鳥しょ。来てくれるのは、なまら

有り難いべさ。」「新月の『濤祓え』を

観たいって言うんですが、台風の進路も

気になるし…。」

「アレは本来、しょ。

ウチでお祀りしてる『玉依毘賣たまよりひめ』は

猫魔大明神のって事になってるっけ

海さ還る儀式だべ。」「えッ?!それ

初めて聞きましたが…その、玉依毘賣?

こちらでお祀りしてるんですか?」

「そうだべさ。ウチの  で

まあ、みたいなもんだべな。」


又もや素敵な パワーワード が

複数飛び出したが。「それ…マジで?」

「マジも何も!玉依毘賣ってのはまあ

通称だけどね。」


最後の『御柱』だった

     二尾の  さ。








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