第21話 法照寺怪談会

夏休み気分が全然、抜けない。

こんな事は、この十年来初めてだ。

それだけ余裕があるんだろうか。

実際、そんな事ないのにな。


この 変な は、一体何だ?



六本木に始まって、都心部を中心に

渡り歩いて。剰え年々のノルマは

億単位で上がって行った。そして、

異例の昇進辞令。


ずっと前から決まっていたんだろう。

中長期をかけた 銀行改革 が。


社会の公器 と言われた銀行は

資本主義の煽りを受けて、いつしか

金融サービス業となり、遂には

在り方 自体が検討される様に

なっていった。


想像も出来ない程の皺寄せと歪みは

現場と、支店周辺の顧客や

載し掛かる。


頭領は、この状況を知っていたのか。

護摩御堂家の血筋に洩れず早世した

俺等の 親父 が


    もし今、此処に居たら。


もっと広い視野で物事を見なければ。

更に高い所からの俯瞰が絶対的に

必要になる。それは 今 だけでなく

未来 を想像する事。自らの在る

処だけでなく  に於いてだ。



「何ビビってんだよスーパースター。」

「…優斗。」「お前が緊張すんのは

見たくない。それか、にでも

抜擢されたか?」「いや。てか、俺

緊張してんの?」「何で俺に聞く?」

「いや…全然、自覚なかったわ。」

「…。」田坂は口元だけで笑う。



『法照寺』での怪談会開催の連絡が

来たのは、あれから割と直ぐだった。

田坂と岸田が【猫魔岬】に偵察を兼ね

夏休みの珍旅行に来た折に大体の

 は出来ていた。


 筧地所の筧俊作が、個人的に俺に

興味を持ってくれたのは僥倖だ。


このを、どうにか更にこっちに

引っ張れないか。それも【猫魔岬】の

ポテンシャルが、関わって来る。



今回の『怪談会』は、予め依頼された

数人が 話し手 として手持ちの怪談を

語るのだ。

 参加者は元『櫻岾支店』の面子、

『護摩御堂屋敷』『旧櫻岾支店』を管理

運営する公益財団法人『櫻護』の有志。

それから麻川住職のファンや檀家、

ゲストとして何名かの

その中には 筧会長 も含まれていた。


 広い堂内は既に行燈が点在していて

和紙を透過する茫んやりとした光で

不気味にライトアップされている。



「ご無沙汰しております、御住職。」

俺は本堂の前で麻川住職を見つけた。

「これは藤崎さん!北海道から遠路

ご参加下さるとは…。田坂さんも!

お忙しいのに本当に有難い事です。」

住職、エラい喜び様だが、それは

こっちも同じだ。

「いよいよですね…御住職。マジで

楽しみにして来ました。」あれから

ほんの半年も経たないというのに。


「藤崎さん!」岸田が俺らを見つけて

駆け寄って来た。「おぉ、岸田さんも!

今日は皆様、楽しんで行って下さい。

 私はこれからお手伝い下さる方々と

打ち合わせがありますが、西瓜が

向こうに冷えていますから是非。

 今回の怪談会は、私の知己である

 が段取を組んでくれて

いるんですよ。きっと楽しんで頂けると

思います。」麻川住職はそう言うや

本堂へと入って行った。


「あ!あの人が筧会長です。」「!」

岸田が目敏く門の辺りを指す。まさに

今、車から降りて来たばかりの男。

メディアや何やで顔だけは知っていた。

あれが、日本最大手の不動産会社

『筧地所』の会長。「…。」田坂の

寄越した視線で、俺も動く。



「筧会長!お疲れ様です。今日は

宜しくお願いします。」流石は速い。

こういう所は 法営の部長付 だな。

「ああ、田坂君。それに岸田君も。」

「こいつが同期の藤崎です。」「?!」

いきなり?しかも田坂ナニこいつ、

馴れ馴れし過ぎやしねえか?


「お目にかかれて、大変光栄です。

北海道の『猫魔岬支店』支店長を

しております、藤崎諒太と申します。」

「筧俊作です。お噂は予々かねがね。史上

最年少支店長。しかも、【櫻岾】の

奇跡を起こした 張本人 だ。」

「…いえ、そんな。」『櫻岾支店』

売却の小競り合いをしたの、まさか

根に持ってねえよな…?ていうか、

俺がになってンのかよ。

ヤベえな。


「藤崎さん。」「はい?」無駄に笑顔を

作ってみるが。「一つお聞きしたかった

事がある。」「何でしょうか?」緊張、

やっぱりしてんのかな、俺。

「貴方にとって、とは?」「は?」

「田坂君から、貴方も都市設計には

ご関心があると聞いている。勿論、

私もずっと  で生きてきた。

今回、貴方に会えると知って、先ずは

それについて伺ってみたいと思った

次第です。」「はぁ。」又いきなりの

正念場。優斗の野郎、

吹き込んだんだよ…無茶振り過ぎる!


建築…って。俺は只、珍しい建物とか

見るのは確かに好きだけど。





「建築とは……、ですかね。」



言った瞬間の田坂の顔は。多分、俺

一生忘れないだろうな。









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