第20話 太白星、叱られる

全くもって、こんな破茶滅茶破天荒な

大バカ野郎共、見た事ねぇべ。

それが揃いも揃ってウチの役職者とは。

 アイツ等が海から上がって来た時には

この世の終わりの様な気すらした。


「…で、そのは、見て

いるうちに消えてしまった、と?」


岸田が呼んだ警察の、ぶっちゃけ

『猫魔岬派出所』の菅原巡査の言葉が

更に俺の目眩を誘った。

奴等が足に引っ掛けてきた、まるで

ヒトの髪の毛みたいな  は

陸に上がると、あっという間に


    溶けてしまった。


それも皆んなの目の前で、だ。当の

二人は揃いも揃って何が起きたのか

分からない様なツラして、逆に警察

呼んだ岸田の事を責め立ててたが、

それは余りに酷というもの。

 何とか、海藻を見間違えました!って

俺が平謝りして穏便に済んだんだべ。

菅原巡査は仕事の兼ね合いや何やで

なまら知ってたから良かったが。

これもし  の土左衛門でも

引いて来たりしたっけ…そう思うと。


例え偶然だとしても。天下の本丸から

怒号の呼び出し喰らうのは目に見えて

いる。つまり、余計な事に無闇に首を

突っ込むな、と。如何にも銀行らしい

理不尽さだ。


一方で、由良宮司はあの

を『猫魔大明神の髭』だ!って

興奮してる。これ又、不用意に触れて

良いモノじゃねえとか言って、

を上げると主張するっけ。

警察の事情聴取から解放されたかと

思ったら、今度は神社に強制連行

される運びとなった。





「凄いな、この神社は狛猫なんだな。

赤坂や新宿にもあるけど、ここの猫、

味があっていいな。」田坂が目敏く

神社の狛猫を見つけて言った。

「おお!分かる人にはわかるんだべ。

ここの狛猫は『猫魔大明神』の眷属で

明神様の肉を分け与えられたっけ、

不老不死の猫さ。」「え!そんな話も

あるんですか?ソレ、まるで人魚の

肉を食べた八百比丘尼みたいじゃ

ないですか!」藤崎…又余計な事を。

「そうだべや!祝詞の後で、又

ゆっくり話さしてやるべや?」

「マジですか!」「それ、是非とも

聞かせて下さい!」「僕も聞きたい!

後で何か良さげなキャッチコピーに

出来そうですね。」藤崎の発言に、

田坂と岸田が追従する。


 コイツ等、マジで能天気かよ。


「…ていうか!てめぇ等なあ!!」

俺は思わず声を荒げた。「……?」

何だべ、その目。「ちょっとは立場さ

考えねえと!藤崎は支店長だべや!

田坂は法営の次席部長ッ!もし万が一

土左衛門とか引いてみろや!お前等、

本丸から呼び出し喰らうぞ?自己管理

どうの、って。海で泳ぐなとは別に

言わねぇけど、もっと自制して行動

しろや!」つい、言ってしまったが。


冷静に考えたらコレ、誰も悪くない。

しかも結果オーライだが、土左衛門に

エンカウントした訳でもねえしょ。




「…権堂さん、すみません。僕からも

お詫びします。」奴等が文句垂れながら

風呂場へ去ると、岸田が言った。

「先輩方は【猫魔岬】の調査に身体を

張ったと思って下さい。それこそ、もし

この【猫魔岬】が、古き時代の歴史や

風情を残しつつ、最先端の超映える

レジャースポットとして認知されたら

凄く良いと思いませんか?」

「…それは。」「僕等は非公式に今、

その商談を進めているんです。勿論

カタチになりそうなら、本丸を巻き

込んだ正式なにしたいと

考えています。」


この、岸田という若造。本当にまだ

入行二年目かよ?初任店で藤崎から

仕込まれたって言ってたっけ。

俺はふと、藤崎に最初に言われた

言葉を思い出す。


   一華、咲かせてやろうぜ。


「…マジで言ってんのか?それ。」

「勿論です。」即答。しかも岸田の

目は真剣だ。コイツ…とんでもねぇ

若造だべや。いや、とんでもねえのは

アイツらの方か。



「権堂、オマエも汗流させて貰ったら

どうだ?岸田も。」いつの間にか

神社の風呂場を借りて小ざっぱりした

藤崎と田坂が、例の如く小競り合い

しながら戻って来た。

「いえ、大丈夫です。僕達は変なモノ

憑けて来てないんで。」岸田が返す。

「言い方!」「ホントそれな。優斗と

仕事する様になってからコイツ何か

辛辣じゃね?」「お前が育てたんだろ。

いい感じに反面教師で。」「あぁ?」


「いいから…もう!お前等、宮司が

待ってるっけ。」「権堂、オマエも

一緒にいたんだ。全員だぞ!祈祷。」

藤崎が言う。「何で俺まで…。」

「怖い目に遭うかも知れねえぞ?あの

化け物女、オマエん所に来るかも!」

「…ッ!やめれ!」「誰だ?それ。」

田坂までが聞いてくる。



「二尾富子。権堂のコト気に入ってる

だ。」







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