第14話 輝く太白星
この【猫魔岬】随一の旅館である
呪いの網元屋敷 こと『渚亭』まで
来たものの、目当ての百目木教授は
札幌に帰った後だった。多分、新月の
データを大学に持ち帰って分析する
為だろう。そっちもメチャクチャ
気にはなったが、今は兎に角、新月に
岬で行われる朱い鳥居のライトアップ
画像が欲しかった。
だが、これぞ『猫魔大明神』の助けか
旅館の女将が以前に撮ったという写真を
何と無償で提供してくれるという。
「…本当にいいんですか?コレ頂いて
しまっても。」なんと、女将が出して
来たのは、ロビーど真ん中の額縁に
入った拡大版だ。
「なんも!前にウチさ泊まった写真家の
お客さんが撮ってくれたヤツ。ネガが
あるっけ、構わないさ。そんな事より、
こんな寂れた漁師町の行事に興味持って
貰えるなんて。それに支店長さん、
なまらイケメンっしょや!」
女将の
丁寧に包装して俺にくれた。
「実は、前の支店長さん…あんまり
ウチらの評判よくなかったべさ。何か
暗くてねぇ、課長さんがいい人だっけ
良かったべと思ってたんだけど、その
支店長さん、いつの間にか…ねえ。」
接客業だからというよりも、単なる
噂話好きだろう女将は饒舌だった。
「…大変ご迷惑をお掛けしました。」
「いやいや、ここ【猫魔岬】はあんまり
大きな声で言いたくないけど、自殺の
名所みたいになってるしょや。」
女将は声を密める。
「警察から様子のおかしな客が
いたら声掛ける様に言われてるべさ。
結構ここら、人がいなくなるんだわ。
銀行さんにも来ないかい?警察。」
そんな話をしていたところで突然。
俺の携帯が鳴った。支店 からだ。
「ちょっと失礼します。」俺は一旦、
女将に断ってから電話に出る。
「…あ?何言ってんだ?分からねぇよ。
え?何それ…まあ兎に角、戻るわ。」
電話口は権堂だったが、サッパリ要領を
得ない。俺は女将に再度お礼を述べて
店へと戻った。
「只今!戻りまし…た?」
ドアを入った瞬間、何とも言えない
異様な空気が。
「…どうした?」「藤崎ッ…支店長!」
明らかに挙動のオカシナ権堂が、何と
俺の所に走り寄って来る。「何…っ!」
ていうか、まさか抱きつくなよ?
反射でオマエのこと殴り倒すぞ、俺。
「お化けが出たんだべさ!」テラーの
下田さんが半笑いで被せて来るが。
「お化け?」ナニ言ってんだ?てか
マジなら是非とも見てえだろうが。
「どういう事ですか?下田さん。」
「さっき若い女の子が三百万現金で
欲しいって言うっけ。今ホラ、詐欺が
横行してっしょ?そったら経緯でせめて
ヨテで、って事になったしょや。で
念の為、権堂課長に面談して貰ったさ。
したっけ、お客さんが帰った後に…。
座ってた椅子が!海の水で濡れてて!」
「うわあああ!やめてくれやマジで!
俺、名刺渡したべや!どうしたら…。」
突然、権堂が余計な口を挿む。ここは
もう軽くスルーで。
「知ってる人?」下田さんに尋ねる。
「いやぁ、あんな若い子ここらには
いないんでないかい?それに標準語
喋ってたから、内地から来た人だべ?
何でも…親戚の新築祝いで渡すとか
言ってたっけ。」「で、ヨテは結局
作らなかったんですか?」「そう。
権堂課長が面談してる最中に、もう
いいわ、って帰っちゃって。」
俺は明らかに動揺している権堂に
言った。「…どう考えても、うちの
客だろ?自分の口座から出金しに
来てるんだから。」「…でも!」
「でも、じゃねえよ。俺、前の店で
幽霊が勝手に口座作って五億も現金で
ブッ込まれたのを経験してるから。
その程度じゃ驚かねえし…。」
言いながら、俺はパソコンで履歴を
検索する。
「…二尾?これって『網元屋敷』の
女将さんの親戚か何かか?」口座の
名義は
「本人確認しました?」「いや、まだ
出金するかどうするか、判断して
貰ってる最中だったっけ。」下田さん
申し訳なさげに言うが。「いやこれ
普通に権堂だろ、本確すんの。」
「…。」ま、別に不備じゃないけど。
…って、え?俺は画面を二度見する。
そうこうしていると、
開いた。
「いらっしゃいませ!」言った後で
一同、たじろぐ。
入って来たのは狩衣装束に烏帽子を被り
態々大幣まで持った由良宮司だった。
…お祓いすんのかよ。でも、これ
絶対、経費じゃ落ちねえからな?
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