第12話 太白星の閃き
全く、このガチ下がったテンション
一体どうしてくれるんだよ…カンカン。
そう思いつつ、六本木にある例の
カフェ・バーで俺は ヤツ を
待っていた。
高層ビルが建ち並ぶ都会の街並みや
週末を謳歌する人々の雑踏に、俺は
ふと、【猫魔岬】の寂れた浜辺と
岬の神社の千本鳥居。それと真逆の
『猫魔岬支店』の 非現実的 な
佇まいを思い出す。
あの、
違和感なく インスタスポット に
なれンのによ。「…。」
「何、薄ら笑いしてんだよ!お前の
笑いはヤバいからやめろ、ってんだろ
諒太!」ぼんやりと表の景色を眺めて
いたら、声がかかった。いつもよりも
心なしか弾んでいる。
同期の
情報交換を続けていた。それは俺らの
初任店、六本木支店にいた当時から
かれこれもう十年以上続く習慣だ。
「元気そうで何よりだな、優斗。」
「お前こそ。もっとゲッソリしてると
思ってた。今日は、お前が泣いて喜ぶ
ゲストもいるぞ!」「…?」
「…藤崎さん。」田坂の後ろから岸田が
ひょっこり顔を出す。
【櫻岾】で俺がOJTを見てやってた
一年坊主だ。今となっては遠い昔のこと
みたいに思えるが、ほんの数ヵ月前の
事なんだよな。
「オマエ田坂と仕事してるんだって?」
「はいッ!」何で俺の顔見てうるうる
してんだコイツ。マジキモいからよせ。
「まあ、積もる話も山程あるから先ずは
何か頼むか。」言うや、田坂がスマホを
出すが。「僕が、注文します。」え?
早っ…既に画面を出している?
最近の若いヤツって、侮れねぇ。それか
田坂の指導の賜物か。
「藤崎さん達は食べたいもの、言って
下さいね。」岸田が、これ見よがしに
言ってくる。いやいや、そんな短期間で
成長とかしねぇからな?ヒトって
いうのは。そう思いつつも。
「岸田もしっかりして来たじゃねえか。
田坂の指導か?」
「…まあな。」てか、何でオマエが
ドヤ顔で返すんだよ、優斗。
「実は。こないだの一件から筧さんに
気に入られてさ。」「筧って、あの
筧地所の筧俊作会長か?」「そう。」
珍しく田坂が自慢気に話すが、コイツが
こういう時は、大体ヒトをネタにする
前振りだ。いつもは俺が槍玉に上がるが
どうやら別のネタ元を見つけたらしい。
そう思っていた所で、オーダーした物が
運ばれて来る。
「それじゃあ、再会を祝して!」田坂が
言うのを嬉しそうに岸田が見つめる。
どっちが先輩だか、わからねぇな。
俺らは各々グラスを重ねる。
「…で?」俺は 筧サン の、続きを
促した。「実は筧さん、今回のTOBが
終わったら完全に経営から退く積もりで
いるらしいんだよ。」田坂が言うが、
日本屈指の不動産会社だ。
「オマエ、それいいのか?俺なんぞに
ほいほい話して聞かせて。守秘義務って
モンがあるだろが。」「いいんだよ。
お前にも今後やんわり関わる事だ。」
「…はッ?」ナニ言ってんだ?コイツ。
「だから、筧さんにお前の事を話したら
物凄く興味持ってさ。」
何でコイツはいつもこうなんだ…?
ていうか、何で俺だよ?ここは普通に
岸田じゃねえのか?
「…あの『櫻岾支店』の売買騒動で
徳永弁護士達とも繋がりが出来て。
そこでもお前の名前が出るだろ?」
田坂はそう言いながら、俺の皿に
ピクルスを寄越して来る。
「そこでも、って何なんだよ?他でも
あんのかよ…で?それとこの俺とが、
一体どう関わるんだよ?」
「会いたがってる。お前が北海道に
栄転して、物凄く残念がっててさ。
諒太も建造物とか都市設計とか、
それに民俗学とか…玄人裸足でよく
知ってんだろ。あと、怪談。」
怪談 って。
コイツはどうして昔から俺の事を。
何でもかんでもお見通し、ってのも
実は、相当に考えものだよな。
「筧さん、ビル持ちだろ?元々が
ここ、六本木から渋谷方面にかけての
大地主だったんだよ。し、か、も!
筧地所の持ち物で、ガチの怪談物件も
あるらしいんだよな。」「ええ、僕も
この間、聞かされましたよ。物凄く
怖かったです!」岸田が追従する。
コイツ等に 守秘義務 って言葉は
ないのかよ?客も含めて…。
「…で?」「今度、『法照寺』で夏の
怪談会やるだろ。そこで是非、お前を
引き合わせたいんだよ。な?これって
ウィンウィンだろ?」田坂はそう言って
俺の顔を見る。「俺が筧に会った所で、
お前らの商売が上手く行くかは全く
別の…。」
いや、いやいやちょっと待て!
「是非とも俺を紹介してくれ!」
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