第10話 魁星邂逅
拠点長会議は今迄WEBでやっていた。
それが今回、又しても本丸に招集が
かかる様になったのは、コロナ禍が
落ち着いたとかでも何でもない。
日本の国債利上げに比例して銀行の
収益が上がったからだろう。
そんな金あンなら、もっと有意義に
使ったらどうなんだ?
良識ある拠点長らは皆そう思って
いるだろう。それでも企業が金を使う
様になった事は悪くない。俺が一人
本丸に呼ばれただけでも出張費として
あちこちに金が落ちるって訳だ。
そして今、俺は又もや本丸の大広間で
大して面白くもない懇親会の立食に
不承不承で参加していた。
小田桐さんとは、あれからもちょく
ちょく連絡は取っていた。今でこそ
本丸で役員補佐を務めているが、元は
『櫻岾支店長』であり、今は亡き頭領に
仕事のイロハを習った点でも名実共に
俺の
支店長になった今、当時の彼の苦労が
顕然と理解出来た。
「藤崎君!」漸く手が空いて自由の身に
なれたのだろう。小田桐さんが俺を
見つけて声をかけてくれた。
「ご無沙汰しています。お元気そうで
何よりです。」「君も思っていたより
元気そうで良かった。」相変わらず
困った様な顔で笑う。
「支店長というのは確かに全責任が
双肩に乗っかってきますが、周りに
助けて貰って初めて成り立ちます。」
小田桐さんはそう言うと声を潜めた。
「こんな所に来ている場合じゃないと
思ってるのでしょうが、気分転換には
良いかも知れませんよ?」「…。」
本店上層階にあるレセプションルーム。
数週間前、俺は此処で頭取から辞令を
受け取った。そして今、日本全国の
拠点長と、その配下にいる支店長が
一同に会している。
「そう言えば、この夏『法照寺』で
怪談会を大々的にやるそうですよ。」
「マジですか?」「ええ。麻川住職も
お盆前後は忙しいので詳細が決まれば
連絡が来るでしょう。」
「懐かしいな。寺には岸田を連れて散々
通いましたからね。」俺は【櫻岾】での
アレコレを思い出す。
「そう言えば、藤崎君。岸田君とは
連絡取っていますか?」「え?まぁ。」
「岸田君は今、田坂君と一緒に仕事を
しているみたいですね。」すっかり
存在を忘れてたけど、岸田。そういや
俺が【猫魔岬】に異動してから早速
そんな報告が来てたっけ。忙しさに
感けてLINEでアッサリ返したが。
「田坂は俺の同期の中でもダントツで
デキる奴ですから。ガッツリ法人周り
勉強するには打ってつけですよ。」
「法個売買案件の様ですが…元々
トレーナーが藤崎君だから、しっかり
やっているでしょうね。何だか私も、
小淵沢さんから色々と教えて貰った
当時を思い出します。」
「……。」
《銀行は、社会の公器やからな?》って
割と口癖みたいに言ってたよな、頭領。
既に『猫魔岬支店』の閉店は決定して
いる。これは絶対に覆せない。だが、
地域の理解を得るのは難しい。何せ
メガバンク という妙なブランド感が
独り歩きしているのだから。そして、
あの『根古間神社』の由良宮司。
寂れた町をどうにかしたいと、新月の
度に千本鳥居に篝火を焚いている。
並大抵の作業じゃない筈だ。
「あー!いたいた。こんな隅っこに!」
突然、場違いにオメデタイ声がした。
そして俺は 最も会いたくない奴 に
見つかった事を悟った。小田桐さんも
何をか言わんや の顔だ。
「神田専務。ご無沙汰しております。」
取り敢えず、淡々と頭は下げる。
「何だよ、いつ挨拶に来るかと思って
待ってたのに。こんな隅っこで小田桐と
昔話に興じているなんて。」笑顔だが
相変わらず目は笑っていない。
「申し訳御座いません、御歓談中でした
ので、お邪魔してはいけないと思い。」
わざとガン無視しておりました、俺。
「いやあ、藤崎君に会えるのを楽しみに
していたんだよ。【猫魔岬】は、どう?
写真で見たけど、如何にも藤崎君好みの
外観だろう?」「…ええ。お陰様で。」
ふざけんなよ?あの巻貝支店の地獄の
内側螺旋階段を登らせてやろうか?
「あの辺は海外からのインバウンドは
全然擦りもしないの?最近では未確認
巨大海洋生物現わるとか、ちょっと
話題にもなってるよね。」「はい。」
ていうか、テメェが旗振ってんだろ、
店舗削減計画の。
いや…もしかして、ワンチャン?
「でも、あそこに店を置くメリットは
全くないけれどもね。」「……。」
そりゃそうだろな。
それぐらい俺にも分かってる。
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