第6話 太白星の後悔

何故だか最近、やけに自分の年齢とし

感じる。いや…気のせいかな…。


もう無軌道に騒ぎまくった二十代じゃ

ない。それはわかっている。ましてや

俺は『支店長』だ。

今まで周りから散々、落ち着け だの

何かやる前に先ずは考えろ だのと

言われ続けて来たけれど。


ちゃんと考えてるに決まってるだろ。

稀に、時があるだけで。




最初はノリノリだった。滅多にこんな

チャンスはない。そもそも、こんなに

奇妙な建物自体、そうはないのだから。


 だが。それが 間違い だと、漸く

気が付いた時にはもう、遅かった。


という図形を、俺は完全に甘く

見ていた。階段は店のコンセプトで

スケルトンになっている。手摺も同様。

つまり、エラく


 しかも、あろう事か。


片側全面壁の下から上方にかけて、

緩く内側に傾斜して張り出している。


 その、りとした圧迫感。


しかも。こっち側に張り出す傾斜は、

昇れば昇る程にキツくなって行く。

同時に、天井も徐々に低くなって行く。

一方、圧迫感溢れる傾斜壁の反対側は

スケルトンの手摺だけの吹抜け空間が。


店の内側からも  を実感して

欲しいから。


きっと、そんな理由だったんだろう。

今、俺はこの 物体 を設計したヤツを

思い切り絞め上げてやりたい気持ちで

一杯だった。


いや、それ以上に。


碌な理解もなく、この

半ば以上登ってしまった自分を殴りたい

気持ちで一杯だった。



「おい、大丈夫かい?」「けっぱれ!

支店長!もうちょい上の所だべや。」

「けっぱれや!藤崎支店長ー!」

下から声が掛かるが。

「…うるせぇよ、黙ってろ少し。」

もう何か吐きそうなぐらいヤバい、俺。

高所恐怖症という自覚はない。勿論、

飛行機だってジェットコースターだって

好きな部類には入るのに。

「何なら降りて来いや!俺が代わる。」

権堂が呆れた様にいうが、それが

出来ねぇから!困ってんだろが…ッ!!


進退極まる、とは正にコレか。


こんなが怖いだなんて、お笑い種だ。

怪談とかなら結構好きなのに。

「…。」そして俺は中腰どころか膝を

付いて這う様に上を目指した。


圧迫感のある傾斜壁は、時折存在する

丸窓から外の光が差し込むが。

そこから見える海の景色は濃い雨雲と

相まって、爽快感どころか寧ろ暗澹たる

気持ちにさせて来る。



「…コレ、いっそ割れてたら警備会社が

飛んで来たのによ。」俺は這々の体で

何とかヒビが入った地点に到達すると、

思わずそう独り言ちる。

「…うぉ…これ、血じゃねぇのか。」

強化硝子には確かにヒビが入っているが

それ以上に 血のついた羽毛 が

こびり付いているのが 異常事態 を

示唆していた。


 高柳さんが手に持ってたゴミ袋。


の量じゃなかった。ましてや

厚い硝子にヒビが入る程だ。鳥は夜目が

利かねぇから夜間に飛ぶ事はない。


一体、海鳥たちに何があった…?


そう思うと、さっきとは全く別の悪寒が

背筋を這い上がって来た。


  瞬間、物凄い光が視界を奪う。


「…ッ!」一つ遅れて、地響きの様な

雷鳴が轟く。手摺を握ってなければ

ヤバかった。

もうマジで。俺、こんな巻貝のせいで

死にたくねえ!しかもまだ『猫魔岬』の

千本鳥居の篝火も見れてねぇんだぞ?

 それにあの  だって…。

確かにこの目で見た。あれは間違いなく

だった。石狩湾に向かって

ゆっくりと動いていたが、それを

ぐるり方向転換して離れて行ったのだ。


「…。」思い出すとつい、口元が緩む。


『アレ』の正体を見ずしてどうするよ?

店を閉める迄には絶対に見たい。

根古間ねこま神社』に所蔵しているという

古いには、何やらヒントになる事が

書かれている様だった。

不穏な 人身御供 の因習も気になる。

まれびと信仰の下にやってた事なら、

その記録も又、神社にあるに違いない。

『根古間神社』には行くべきだろう。

ついでに、あの宮司の 運用ニーズ を

探って来よう。実際には権堂が受けりゃ

特に問題はない。

今迄、普通にあった店が無くなるんだ。

少しは役に立たねえとな。


また、一瞬の雷光が。

 続いて雷鳴が轟く。さっきより近い。


「…え。」反射的に窓の外を見る。

いや、嘘だろう?


      何だ、あれは。


既に暴風雨の中、ぼんやり霞む岬の先。

海が、僅かに嵩を増している?


津波か……いや違う。あれは、何だ?

雨に霞む中で、海面が赤く弱い光を

放っているのが見えた。だがそれも、

一瞬の事。


荒波の見せる幻か。


          それとも。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る