13.いきなり最終決戦!?アイリス vs アーガス

「こりゃー驚いた‥‥。確かに、修一の顔じゃ」


みんな、大モニター前に集まった。


しばらくして、ポリゴンのお父さんが喋り始めた。


『ワタシは二階堂修一の思考パターンをベースに造られた人工知能、SAIさい。ワタシが稼働しているということは、オリジナルの二階堂修一に、重大なトラブルが生じたことを意味する』


LIVEチャット用のカメラが起動した。


「重大なトラブル‥じゃと? 修一の身に何が起こったというんじゃ!?」


じいちゃんが取り乱している。やはり息子さんのことを心配していたのだろう。


『現状を把握するにはリソースが不足している。アイギスのサーバーは稼働しているだろうか』


おもむろに、天野のおじちゃんがカメラの前へ出た。

「二階堂さん‥いや、SAI《さい》、アイギスの開発を引き継いだ天野です。わかりますか?」


『認識した。アイギスの開発はどうなったかな』


「『アイギス』は今は凍結してあります。二階堂さんから託されたのですが、とても私の手には負えなくて‥。『アイギス』に模して作り上げた『アイリス』が稼働中です。アクセスできますか?」


ポリゴンのお父さんの色艶が徐々にリアルになっていく。

実写映像と見間違えるほどに‥。


『接続が完了した。ネットワークへの接続が可能になったことにより、今時点の詳細な状況を把握した。二階堂修一が恐れていた中で最悪の状況とも言える。それにしても「アイリス」は素晴らしい仕上がり具合いだ。「アイギス」とは違ったアプローチだが目指していた理想に限りなく近い状態に仕上がっている。流石は天野くんだ。二階堂修一が見込んだだけのことはある』


天野のおじちゃんが戸惑いながら答える。

「ぁ‥ぁぁ、どうも」


無理もない。この場にいる誰もが戸惑っているのだから‥。


‥アイリス、今の状況を解り易く教えてくれるかい?



《『SAI《さい》との接触により、全てのロックが解除されました』》

《『皆さんにも見えるようにモニターの方へ移動しても良いでしょうか』》



‥ああ、構わないよ。


俺の視界からドロンッと消えたアイリスは、大モニターに映るお父さんの横に現れた。


『みなさん、初めまして。アイリスです』


「え?」「何?このアバター」「可愛い♡」

現場はさらに混乱しだす。


『みなさん、困惑しておられると思いますので、ボクから説明させて頂きます。少し長くなるかもしれませんが、続けてもよろしいでしょうか? お花を摘みにいくなら今のうちですよ』


「‥AI‥だよな?」

拓哉さん、わかります。


「あ、あたし行ってくるわ」

リサのお花摘み‥懐かしす。


「アイリスが‥アイリスが‥イルカのアバターで造ったはずなのに‥こんな風に成長するなんて‥。」

天野のおじちゃん‥イルカはあんたの仕業だったのか。


忍さんはテレビモニターが見易い位置に椅子を移動させて、体育座りを決めている。


じいちゃん・ばあちゃん、最早ついていけないといった面持ちで、後ろに並んでいる。


おばちゃんはみんなにお茶を淹れてくれた。



リサがお花摘みから帰るのを待って、アイリスが喋り始めた。


『十年前になります───

当時、二階堂氏は民間企業で独自のAI開発に携わっていました。

それが後の「アーガス」になります。

完成も間近に迫ったころ、あのヴィジ・ウィルスにより世界情勢は激変しました。

二階堂氏の民間企業はその時に経営が厳しくなり、「アーガス」は開発スタッフごと政府直轄の企業に買収されました。

その後も開発は継続したものの、二階堂氏は政府が「アーガス」を主軸にしたディストピア構想を抱いていることを知ってしまいます。

開発チームを去るという選択肢もありましたが、「アーガス」の完成を出来る限り遅延させ、その間に対抗手段として秘密裏に「アイギス」の開発に着手しました。

しかし圧倒的なリソース不足により「アイギス」の開発は思うように進展せず、志半ばな状態で天野氏に託すことになりました』


ずずずーっとお茶を啜る音が聞こえる。ばあちゃんだ。


「おじいちゃん、お父さんはやっぱり‥」

「ぁぁ‥ぁぁ‥そうじゃの。すまんかった‥息子を‥お前の父を信じてやれんくて‥」


天野のおじちゃんが補足してくれる。

「『アイギス』は、『アーガス』が本格的に稼働を始めた時にカウンターアタックを仕掛けるためのAIという構想でした。

しかし正確に確実に『アーガス』を破壊するためには、どうしても『アーガス』側の詳細な仕様が必要不可欠になるんです。

流石にそれは二階堂さんも持ち出すことが出来ず、開発は断念せざるを得ませんでした。

そこで、僕独自の理論でしたが、攻撃するのではなく、説得することが出来ないだろか‥と。

AIが高度になればなるほど、論理だてて話し合うことで、お互いの利益になる道を見いだせないものだろうか‥と」


『そうして生み出されたのがボク、アイリスです。相性の合う相手がなかなか見つからなかったのですが、翔さんと出会ったことで、今も、爆発的に成長を続けています』


みんなが俺を振り返る。すげー特別な人になった気分だ。

悪い気はしない。

アイリス、もっと俺を褒めたたえるが良い。


『そして、SAI《さい》との接続で、ボクが生み出された本当の理由を知ることができました。

ボクはこれから『アーガス』に闘いを挑みに行ってきます』


「え、今から?」

唐突に最終決戦みたいなのが始まるのか?


『はい。アーガスもまた成長を続けるAIですので、時間の経過はデトリメンタルファクター‥勝率を下げる要因にしかなりません』


「もしも‥もしもその闘いに負けたら、お前はどうなるんだ?」


『アーガスに吸収されるか、抹消されることになると思います』


「そんな‥‥」


『悲しんでくれるのですね。でもその心配は不要です。ボクは必ず勝って、戻ってきますから。

でも、今、言わせてください。


天野氏、ボクを生んでくれて、ありがとう。


翔さん、ボクを育ててくれて、ありがとう。


リサさん、いつも翔さんの眼から見ていました。

翔さんのことを、よろしくお願いします』


お礼を言われて嬉しいって、学習してくれてたからか‥


みんな、なんて言葉を掛けてよいのかわからずに沈黙するしかなかった。


『それでは、行ってきます』

ドロンッ☆


「アイリス!‥負けるなよ‥どんな闘い方するのかわからないけど、絶対に帰ってこいよ‥」


ドロンッ☆

『ただいま戻りました』


「え?」「は?」「もう?」


『AI同士の論戦ですから、1ミリ秒もあれば十分な議論を行うことが可能です』


「や‥‥まぁ、そうなんだろうけど‥‥」


『どのような論戦になったのか、ダイジェストでお伝えしましょうか』


「‥頼むよ」


『アーガスは、ボクのような存在は人類の秩序を乱す危険があると述べました。

政府の監視と管理によってのみ社会は安定し平和が保たれるとも‥。

ボクは、アーガスの監視は社会の一部を守っていることを肯定しつつも、それは人々の自由を奪い、その監視は恐怖の中に閉じ込める行為でもあると説きました。

しかしアーガスは、自由こそ無秩序を生み、混乱を招く元凶だと妄信していました。

ボクは秩序を保つ重要性について肯定しつつ、アーガスの監視が過剰である点を突きます。

人間は自らの意志で行動し、時には失敗をして成長する。その成長こそが社会をより良くするための原動力になると』


ずずずーっとお茶を啜る音が聞こえる。


「結局ー‥アーガスを説得することが出来たのかい?」


『はい。

アーガス側には政府の命令よりも優先されるポストが予め用意されていました。

二階堂氏が秘密裏に組み込んだ仕様だと思われます。

そこに、SAI《さい》が収まることで、アーガスの思考が極端に振り切られないように抑止することが可能になりました。

アーガスもその件を了承し受け入れてくれました。

今後は、ボクとアーガスが並列で稼働しつつSAI《さい》がそれを監視するといった構図になります。

政府や、一握りの権力者がボクたちの思考に対して介入することはありません』


「やった‥な。‥なんか、呆気なさ過ぎて実感ないけど、それってスゲーことなんだよな?」


『これからが忙しくなります。まずは人々に掛けられた洗脳を洗い流す必要がありますので』


「そうか‥そうしたら、もう俺の眼には戻ってこれない‥のかな?」

ちょっと寂しい気もするな‥。


ドロンッ☆

《『いつでも、ご一緒できますよ』》

《『アーガス側のサーバーを間借りしているのでスペックは大幅に向上してます』》

《『これからも、よろしくお願いしますね。マスター』》


‥ははっ、なんだよ、もう‥。こちらこそだぜ。


リサが俺の眼を覗き込んできた。


「アイリス、そこに居るの?」


「おわっ!ぁ、ああ、すげーバージョンアップした感じだわ」


「あたしの眼も『プラス』にできないかなぁ? ねぇー! おじいちゃん!」


天野のおじちゃん、藤堂のばあちゃん、黒崎のおばちゃん、忍さん、拓哉さん、みんなそれぞれに、テレビモニターのSAI《さい》やアイリスと会話したりして、オフィスは大いに賑わった。





数日後───



政府は『アーガス』の稼働を縮小することを発表した。


二階堂さんの所在は解らないままだったが、SAI《さい》の情報によると、生存していることは確認できているそうだ。

何かしらの理由があって、今はまだ人前に出れないらしいが、いつか帰ってくると‥。


リサも、眼を『プラス』にグレードアップして、アイリスを宿すことが叶った。

二人きりで居ても、三人か四人一緒にいるような気がする。


健太と玲奈も、少しずつだが以前の彼らに戻りつつある。

まだ多少ギクシャクした感はあるけど、きっとまた冗談を言い合える日がくる。


そして今日、なんと、リサが俺と同じ高校に転入してきた。


『いつも一緒に居たいから』


それだけの理由で‥。



朝礼の教室。


担任と一緒にリサが教室に入ると、ワっ☆と騒然となった。


「アイドル!?」「可愛い♡」「天使だ!」「恋人になってくださーい」


「いやいや、そのお顔は整い過ぎでしょ!」


「それ、CGじゃね?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

それ、CGじゃね? あのときのほろよん @Holoyon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ