12.政府のAIを創った人
『本日は、政府直轄のAI『アーガス』の開発チーム主任である
『よろしくお願いします』
『まずは、アーガスの本格稼働についてお伺いします。アーガスは視覚情報をもとに犯罪を未然に防ぐAIということですが、その技術の特長を教えてください』
『アーガスは高度な画像認識技術を使用して、街中に設置されているカメラの映像をリアルタイムで解析します。例えば、人の動きや表情、行動パターンなどを分析し、異常な動きを検出します。更に、ネオオプティクスデバイスからの視覚情報も同様に解析され、個人の視点から見える情報を補完します。これにより、通常の監視カメラでは見逃されがちな細部も捉えることができます』
『なるほどですね‥。そうすると、具体的にはどのような犯罪行為を防ぐことができるのでしょうか』
『例えば不審な人物の動きや異常な集団行動を検出することで、テロ活動や暴力事件を未然に防ぐことができます。また、日常的な犯罪行為、例えば窃盗や暴行なども早期に発見し、警察に通報することができます。最大の特徴としては、個人のネオオプティクスに直接情報を送信することも出来るので、危険な行為に及ぶと予測された場合は、警告を表示したり、緊急の場合は視界を奪うことも可能です。これにより、犯罪の未然防止が大幅に進むことが期待されています。犯罪発生後の迅速な対応も可能になるため、被害を最小限に抑えることができます』
『素晴らしいですね。ただ、一部の人々からはプライバシーの侵害を懸念する声も聞かれます。その点についてはどうお考えでしょうか』
『その点は非常に重要です。アーガスはプライバシー保護を最優先に考えています。データの収集と解析は厳格な管理のもとで行われ、個人情報の流出や不正利用を防ぐための万全なセキュリティ対策が施されています。また、データの保存期間も限定されており、不要なデータは自動的に削除されます』
『安心しました。最後に、アーガスの今後の展望について教えていただけますか』
『アーガスはまだ進化の途中です。将来的には、さらなる精度の向上や、他のデータソースとの連携を図り、より高度な犯罪防止システムとして機能することを目指しています。また、国際的な協力を通じて、世界中で安全と安心を提供できるようになることを期待しています』
『ありがとうございました。これからのアーガスの活躍に期待しています。政府直轄のAI『アーガス』の開発チーム主任、二階堂さんでした』
それまで一緒にテレビを観ていたじいちゃんが突然、えらい剣幕で叫びだした。
「なにが安心じゃ! 都合の良いことばかり並べ立ておってからに! まったく‥政府に良いように使われとるのが分らんのか! 修一の馬鹿タレが!!」
「‥知り合い、なんですか? 二階堂修一って人‥」
天野のおじさんが俺の隣にきて、小声で言った。
「息子さん、なんだよ」
え゛!?
じいちゃんの息子ってことは、もしかして、リサのお父さん?
リサの様子を見ると、寂しげな笑顔で頷いて「二階堂 理沙です」と、小さく手を上げて名乗る。
そういえば、フルネームは初めて聞いたような‥。何やってんだ俺‥‥。
「えーっと‥それって‥色々マズい状況だったりするんじゃ‥」
「あたしは!‥お父さんを信じてる‥から。今はあんなだけどきっと‥きっと何か考えがあってやってるんだって‥」
リサは唇を噛み締めながら辛そうな表情を浮かべる。
「ふん! あのバカ息子にそんな考えなんか無いんじゃ。政府の言いなりなんじゃよ。」
じいちゃんは完全にぶち切れている。
政府の重要人物の身内が、反政府組織にいるってことが‥政府に筒抜けなんじゃないかと心配したんだが、今はこれ以上触れないようにしようと思った‥。
◇
二階堂氏がテレビで言っていたように、世の中の犯罪は劇的に減っていった。
悪いことしようとしているヤツの視覚情報や位置情報までもバレバレなんだから、何もできないよなぁ‥。
知能犯というのか何なのか‥巧妙な手口による犯罪は度々ニュースになったけど、犯人はすぐに特定された。
同様の手口や類似した犯罪は未然に防がれるようになった。
交通事故も減ったし、ニュース番組はほのぼのとした話題ばかりになった。
案外、悪い世界でもないような気がしてくるのは、リサのお父さんが関わっているからなのかもしれない。
街を歩けば相変わらず、政府の洗脳ポスターで溢れている。
こんなことしなくても、犯罪も事故も減った今の世の中なら、賛同する人の方が多いんじゃないだろうか?
テレビ番組や動画配信には頻繁に、二階堂氏が姿を現し、アーガスの功績をアピールしている。
しかし、ある日、違和感に気付いた。
ちょっと前のワイドショーか何かで、アーガスの是非について否定的な意見を言っていたコメンテーターがいたのだが、いつのまにか賛成派にまざって笑顔を晒している。
ヤラせ番組だったとも考えられるけど、何らかの圧力や‥洗脳されたのかもしれない。
『悪い世界でもない』と思えてしまっている自分の思考が、もしかしたら、いつの間にか洗脳されているのかもしれないという不安に襲われる。
‥アイリス、俺は‥洗脳されていたりするのかな?
《『今の時点で精神的に汚染された痕跡はありません。
アーガスに対して肯定的な意見を持ち合わせること自体は間違ったことではありません。
ただし、それはある局面からのみの判断に基づいた肯定となります。
多角的な情報から危険性に関しての認識も持つ必要があると考えられます』》
‥危険性って、例えばどんなことだろ?
《『まず考えられるのプライバシーの侵害です。
収集された情報が適切に処理されているという保証はありません。
次に否定派の意見があまりにも世に出ないことも、ある危険性を示唆しています。
それは完全なる情報操作です。
否定派の意見が世に出たとしても即座に抹消されます。
同時に、その意見を排出した者の身元は容易に特定されます。
その後その者がどうなるかは、想像にお任せします‥』》
‥拘束されて洗脳されるか、最悪の場合‥消される。
《『アーガスがどれだけ優れたAIだったとしても、それを管理、運用するのは人間です。
もしもアーガスが、悪意のある人物、あるいは権力の手に渡った場合のリスクは甚大です。
対抗する手段はほぼ無いと言えるでしょう。また、仮に、心正しき人物、または権力の元で稼働し続けたとします。その場合、人類の思考力は著しく低下していくと思われます』》
ふと、健太と玲奈の姿が浮かんだ。いつも冗談を言い合っていたのに、ある日を境に、冗談のひとつも喋らなくなってしまった。まるで決められたこと以外は何もしないロボットのように‥。
‥そうか‥そうだよな。平和になったって一面しか見てなかったわ。ありがとな、アイリス。
《♡♡♡》
《『お礼を言われると嬉しい。嬉しいとはこういうこと、なのですね』》
‥お?また相性レベルが上がったりするかな?
アイリスは嬉しそうに、視界の隅を飛び回っていた。
◇
数日後───
土曜日で学校は休みなので、朝からアークライトへ。
「おはようございます!」爽やか元気に挨拶してオフィスに入ると、なんだか空気が張り詰めている。
「あの‥何かあったんですか?」近くにいた拓哉さんに小声で訊いてみた。
「ウチのサーバー? か何かが、昨夜くらいから妙な動き方をしてるんだって。もしかした政府のハッキングを受けてるのかもって‥今、必死になって調べてるとこ」
忍さんと天野のおじさんがパソコンに向かって物凄い勢いでキーボードを叩いている。
藤堂のばあちゃんは山積みになった古い書類を片っ端から眺めていた。
奥のサーバールームから、じいちゃんが顔を出す。
「原因はこれかもしれんな。古いメインフレームが勝手に動き始めておるぞ」
何が何だかわからない俺とリサは部屋の隅に移動して、ただただ様子を眺めるしかできない。
黒崎のおばさんがお茶を淹れてきてくれた。
「わたしも一緒、何やってるのかチンプンカンプンさね。邪魔にならないとこでじっとしてるのが一番」
そう言ってお茶を啜った。
しばらくすると、オフィス内の大モニターに、何世代か昔のカクカクしたポリゴンの顔が浮かび上がった。
それを見たリサが驚いた顔で呟く。
「お父‥さん?」
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