【備忘記録】本のページに挟んである著者のメモ

 「飛ぶ妖怪」の末尾に記載されていた文章、作者である私は書いた記憶がない。

 下記の部分だ。


          □□□□□

 話は鳥擬態型飛ぶ妖怪に戻るが、このタイプは鳴くことがある。

 妖怪自身がさみしいからである。

 ただし、はぐれて飛ぶことでも分かるように、集団で行動することに慣れておらず、鳴き方も巧くない。そのため、同じ鳥からは警戒されてやはりひとりぼっちである。

 人間は、そんな飛ぶ妖怪を見たなら、見ない振りをしてほしい。

 決して声を掛けてはならない。

 そう、だれも彼らには触れられないのだから。


 …………どうか。

 オマエモサミシイノカ、などとは、決して……


          □□□□□


 出版社から送られてきたゲラを見返してみたが、最終のゲラに私の字で書き加えた痕跡はたしかにあった。

 とすれば、私は最後のゲラを読んでいた時に、これを書き加える必要を感じて修正をお願いしたのだろう。

 だが、記憶にはない。

 だいたい「妖怪自身がさみしいからである」という断定は、なにを根拠としているのだろうか?

 そのような論文を読んだ記憶がないが、私は毎年、数多くの学術論文が発表される妖怪事象学の、かなりの部分を読んでいる。

 最終のゲラのまえに興味深い説を読み、取り急ぎ書き加えたけれど、いま、そのことをうっかり忘れてしまっているだけなのかもしれない。

 仮にそういうことだとしても、最後の二行はどういう意味なのだろうか?

 どういう意図をもってこれを書いたのか、いっこうに思い出せない。

 この本が重版するときには、削除すべきだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る