妖怪 雨女
慣用的に雨「女」と書かれるが、実際には性別は限定されていない。
『妖怪 雨女』は、実際に雨を降らせる能力ではない。もしもそんな能力があるなら、それに取り憑かれた人々は、渇水で困っている夏の四国や近畿の水瓶である琵琶湖の中ほどにある島、
いまだ妖怪事象と、本来の自然現象を科学的に峻別できなかった近代以前の人々は、もしかしたら『妖怪 雨女』が憑いた人を、そのような場所に監禁したこともあったかもしれないが、現在ではナンセンスである。
『妖怪 雨女』は、自然現象として降っている雨について、「わたしが雨女だから降ってるんだ」と人間に思い込ませる妖怪である。
それだけのことなのでたいした害はないように思われているが、本人にとっては大変な痛手で、「出かけるたびに雨が降る気がする……面倒だから出かけない」など、消極的になってしまうことから発生する機会損失、消費の縮小によって喪われる内需の額は、年間二千億円(※)にも達するという。
この妖怪の厄介なところは、ひとたび憑かれるとまわりの人間も「彼/彼女は雨男/雨女だから」と噂し合い、認識を相乗効果で強めてしまい、なかなか憑きものが落ちないところにある。
たまたま出かけた日、三日続いて晴天が続き、「あ、私の雨女は返上かな」と思っても、まわりの認識はすぐに変わらないため、四日目で雨が降ると、「あ、やっぱり私は雨女だったんだ」と、逆戻りしてしまう。
この妖怪は古くから観測されているが、近年、ひそかに観測事象が拡大傾向にあるらしい。
妖怪事象総合博物館研究員
そう、2020年と言えば、2019年末に確認され、現在に至っても蔓延している新型コロナウィルス感染症の感染が、世界に拡大した年でもある。
この不思議な一致に、『妖怪 雨女』のなんらかの意図を感じることができないだろうか。雨宮竜宮は東北大学妖怪学部および恐山のイタコと連携して、引き続き調査を行いたいと抱負を述べている。
もしかすると、『妖怪 雨女』は、人間が外出して疫病に罹るのを予防しようとしているのかもしれない。
※経済産業省調べ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます