妖怪 トマト
読者のみなさまは、トマトの花の付き方、熟し方をご存じだろうか?
トマトは、茎の股から花のつく枝を出し、その枝先に花を付け、咲かせる。
大玉のトマトなら2~3、中玉なら5~6。ミニトマトなら伸びた枝の左右入れ違えに10から20、花を付け、茎に近い方から花を咲かせて実を結んでいく。
トマトが赤くなるまでの日数は、一般的な目安としては、ミニトマトや中玉トマトは開花してから約40日、大玉トマトは約50日かかることが知られている。
実はトマトの色づきには開花してからの積算温度が関係している。大玉トマトの積算温度は1100度~1200度であり、一日の平均気温が二十三度とすると、大玉トマトの赤く熟すまでがおおむね50日というのはここから導き出されている。
家庭菜園をしていてトマトを育てたことのある方には身に覚えがあるだろうが、トマトは花が咲いてから熟すまで、結構時間がかかる野菜である。
『妖怪 トマト』はトマトに憑依した妖怪である。たとえばミニトマトの房のうち、真ん中や一番先っちょに実ったトマトがはやく赤くなるとしたら、それは『妖怪 トマト』の憑依である可能性が非常に高い。
さきにも述べたように、ミニトマトの開花は房の茎寄りの蕾から、房の先端へと開いてゆくことが知られている。と、すれば一房をまるごと収穫すれば、茎寄りの実は熟しすぎ、先端の実はまだ未熟となるはずだが、スーパーや百貨店で売られている「房なりトマト」は、不思議にもほぼ均一に熟している。
この均一さは農家が『妖怪 トマト』を巧く呼び込んで、房の先端の実に憑いてもらっているという噂がある。
もちろん噂である。かりに本当だったとしてもどうやって呼び込んだのか、企業秘密である。(※)
(トマトのビニールハウスのなかで、妖怪を呼び寄せる効果が高いとされる蚊取り線香を焚いて作業している農家さんが怪しいのではないかと睨んでいるが、これも確実な証拠はない)
なお、『妖怪 トマト』はトマト本体が熟すと憑依をやめてどこかに去ってしまうという特性も観測されているため、トマトの購入者が間違って妖怪の憑いたトマトを口にすることはないと言って良いだろう。
どうしても『妖怪 トマト』の憑いたトマトを探し出したい場合、この妖怪は大気中は移動できるが、水中は移動できないので、未熟なトマトの実を沸騰した湯に浸けて7日間、茹で続けるとよい。
『妖怪 トマト』は、通常のトマトが赤くなる目安である積算温度が1100~1200度のところ、積算温度が700度に程度で赤くなろうとする。 が、普通のトマトは熱湯で7日も茹で続けると融け崩れてしまうから、それと分かるのである。(※※)
※親切な農家さんは、「房の一番茎寄りのトマトが赤く色づいてきた頃、房全体にビニール袋をかけてトマトのもつエチレンガスで熟すのを促進するんだよ」と教えてくれるかも知れない。しかし、それが正しいとすれば、もしかすると『妖怪 トマト』はエチレンガスの濃度の高い大気に寄ってくるとも言えるのではないだろうか。
もしくは、蚊取り線香で『妖怪 トマト』を呼び出して憑依させ、逃げ出さないようにポリ袋をかけている可能性もある。
※※怪しいと睨んだトマトが無実で、融け崩れてしまった場合は、スープにして食べると良いだろう。
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