妖怪 摩天楼
読者のみなさまは『妖怪 夕涼み』の章の注釈で言及した妖怪事象総合博物館研究員
本章は1992年の幽怪賞を受賞した、その内容である。
『妖怪 摩天楼』は、妖怪事象関係者のあいだでは高層ビルなどに憑く妖怪である、とされている。
夏の晴れた昼下がり、ふとだれかに呼ばれたような気がして、高層ビルの谷間で空を見上げて目眩を覚えることがあれば、視界に映るビルのどれかに『妖怪 摩天楼』が憑いていることが多い。
『妖怪 摩天楼』が憑くビルを人間が見上げることで、なぜ人間側に目眩が起きるか、その機序は完全に明らかになっているとは言い難い。
ポイントはふたつある。
まず、ひとつは
「ふとだれかに呼ばれて」
という点である。これはおそらく『妖怪 摩天楼』の仕業であろう。
二つ目は
「目眩を覚える」
ここだ。
これまでの考えでは、『妖怪 摩天楼』は書いて字の如く、「天を、
5年に及ぶフィールドワークによって(※)『妖怪 摩天楼』の呼び声によって空を見上げ、目眩を覚えた人のなかですくなからぬ割合が、その後、一ヶ月以内に医療機関のお世話になったという衝撃の結果が出ていたのだ。
その原因はさまざまだが、熱中症、過労等による体調不良、貧血などである。
そうなのだ、空間の歪みによって引き起こされた目眩ではなく、人間が抱える内的要因によって覚えた目眩である可能性が非常に高いのだ。
『妖怪 摩天楼』によって引き起こされる真の事象は、「ふとだれかに呼ばれて」、ここである。
凧葦羽舞は、『妖怪 摩天楼』は人間の体調不良を心配し、警告してくれているのだ、と論文中で結論づけている。
どうしてそのようなコトを成すのか、それについてはいまのところ判明していないが、心配性でお節介な妖怪であるのは間違いないようだ。
※2024年現在ではSNSを通じてのアンケートなども有効だったかも知れないが、凧葦羽舞の調査当時は本邦においてのインターネット掲示板黎明期にあたり、利用者数もまだまだすくなく、不特定多数を相手にした調査には向いた媒体ではなかった。
凧葦羽舞は路上アンケートや学校機関での生徒へのアンケート依頼のほか、雑誌『ムー』の読者投稿欄への投稿は何度か行い、この件の調査に対する有効回答を得たという。
そのアンケートとはこのようなものだった。
それは妖怪からのメッセージかも?!
あなたはなんとなく天空があなたを呼んでいるような気がして空を見上げたことがありますか?
□イエス
□ノー
もしイエスなら是非下記までご連絡を! 当方は妖怪に関する調査を行うものです。お電話くださった方には粗品を進呈します。
(連絡先 ○○○-○○○ー○○○○)
雑誌『ムー』読者からの電話のなかには、「妖怪よりは宇宙人からのメッセージかも?! の方がウケるのでは?」とか、「妖怪からメッセージは貰ったことはないけど、前世の記憶はあるんですが」というご意見やコメントが多かったという。(もちろんこれらは有効回答ではない)
今と違って、妖怪はイマイチ人気のないジャンルだったのだ。
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