妖怪 チョコミント
チョコレートとミント。
それは油と水。いや実際はどちらからも油脂が精製できるので、油と油なのだが。
しかし、ここは断言する。
チョコレートとミントは合わない食材だ。
それがなぜか合うように感じたら、それはその人に『妖怪 チョコミント』が憑いているのである。
チョコレートとミントなんて、合うわけがない。
これは決して私情ではない。
チョコの苦さとミントのからさ、チョコの厚みのあるまったりとした甘さと、ミントの切れ味のある清涼感。どう考えても合うわけがない。
にもかかわらずいま、チョコミント食品は流行していると言って良い。
これはどう考えてもおかしい。
『妖怪 チョコミント』が物陰でほくそ笑んでいるのが目に浮かぶ。いや、その姿を実際に見たわけではないのだが。
この異様なチョコミントの隆盛……私は『妖怪 チョコミント』が人類を乗っ取ろうとしていて、その企みはいままさに成功しつつあるのではないかと危惧している。
そもそも『妖怪 チョコミント』の目的はなんであろうか?
この妖怪は、古来よりさまざまな「合わない食べ方」を、「なかなかイケる」に変えるために暗躍してきた。
関西方面での最たるものは「お好み焼きと白御飯」だ。
関西の人々はすでにこの妖怪に完全に支配され、この食い合せがおかしい、とはまったく思わなくなっているが、むろん、普通に考えれば「炭水化物+炭水化物」でありおかしい。人間の栄養価を偏らせて、生命の危機に陥れようとする策略であろうか?
どうやら事態は違うようだ。
『妖怪 チョコミント』は、人間の味覚に干渉し、さまざまな食品の組み合わせを、「なかなかイケる」と誤認させ、食文化を豊かにしてゆく妖怪らしいのだ。(※)
しかしながら食い合せの悪い食品、とされるものは現代にも存在する。
その多くは迷信だが『妖怪 チョコミント』は「鰻と西瓜」などの古くから伝わる「食い合わせ」に影響を与えてきたようすはない。
……いや、この妖怪は時々刻々、さまざまな食べ方に影響を与え続けており、最後に残ったのが「古来より伝わる食い合わせの悪い食べ物」ということなのだろう。
であれば、この『妖怪 チョコミント』の人間の味覚に対する干渉は留まるところを知らず、いままさにチョコミントが浸透しつつあるように、いずれは「炭酸珈琲」もまた人間の好む食品となるのかもしれない。
恐るべき妖怪であるといえよう。
※例えば、炊きたてご飯に生卵、とか焼き蒟蒻に味噌、と言った取り合わせを人間のあいだに流行らせ、それが最終的に本邦の食文化になっていったのはこの『妖怪 チョコミント』の仕業らしい。
編集者注:作者は本稿を我々の出版社に送付したその二週間後、コンビニの「チョコミント蒸しパン」を大量に買い込んでいるところを友人Kに目撃されている。
「あんなに嫌っていたのにどうした?」との友人Kの問いに「このチョコミント蒸しパンは別格!」と語気荒く答えると、自宅へと消えていったという。
なるほど、本稿で作者が結論づけていたように『妖怪 チョコミント』の猛威、恐るべし、である。
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