妖怪 雷雨
真夜中、眠っているとゴロゴロと空がとどろき、ざあざあと雨音がするのを夢うつつに聞くことがある。
にもかかわらず朝起きてみると庭も道も、夜中に通り雨があったようには見えない。
『妖怪 雷雨』とは、この「真夜中に夢うつつに聴くにわか雨の音」である。
もちろん、朝起きて実際に庭なり道なりがしっとりと雨に濡れていれば、それは妖怪の仕業ではなく、たんなる雷雨なのである。
事態はややこしいが、ここは神経を研ぎ澄ませて見極めねばならない。
朝、職場の同僚や学校の友人などに「昨日の夜、雷雨があったよね」と尋ねてみるのはなかなか有効である。
「そんなのなかったよ」と相手が言えば、『妖怪 雷雨』に遭遇した可能性が高い。
しかし、通り雨はもともと局地的なものである。自分のところの周辺数百メートル圏内しか降らなかった可能性も否定できないため、より確実を期すなら、おとなりに聞いて見るという手もある。
しかし、わざわざインターフォンを鳴らして「済みません、隣の者ですが昨日の深夜、雷雨がありましたでしょうか?」と聴くのはなかなか勇気が要る。ご近所に「変な人」の噂が立っても拙い。
そうなのだ、これが『妖怪 雷雨』の狡猾なところなのである。
確認しにくい状況で、より擬態を確実なものにする。
なお、この『妖怪 雷雨』であるが、音を立てているのは戸外ではない。深い眠りの淵を彷徨っているあなたの耳元で、雷雨の音を真似て囁いているのである!(※)
その意味でも、まことに迷惑かつ気味の悪い妖怪であると言える。
なお、なぜ『妖怪 雷雨』がそんなことをしているかという点については、専門家のあいだでも定説はない。
※だから隣人宅の人々が「いや~昨日は徹夜で原稿をしてましたけど、雷雨なんてまったくなかったですよ」という事態もありうるのだ。
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