妖怪 喫茶店
近代以降に現れた妖怪。本邦で観測されたのは明治以後である。
つねに新種が観測されている妖怪の中でも、比較的あたらしい種だと言えよう。
妖怪が集う喫茶店ではなく、喫茶店に憑くタイプの妖怪である。(※)
この妖怪は、喫茶店に入った人間の時間感覚を惑わす。
喫茶店に入り、席を温めている人間が
「いつのまにかこんなに時間が経ってしまった」
あるいは
「まだ全然時間が経ってない」
と、驚くことがあれば、その喫茶店はこの妖怪の住処である。
喫茶店がなかったころには、峠の茶屋や寺社参道のだんご屋などにも同系統の妖怪が憑いていたと専門家のあいだでは考えられている。ただしそれが近縁種なのか、峠の茶屋等の激減に危機感を抱いた『妖怪 峠の茶屋』が、喫茶店に対して適応変異しただけなのかは、専門家のあいだでもつねに議論の分かれるところである。
なお、本屋に憑く『妖怪 本屋』は近縁種でもなんでもなく、別系統の妖怪が収斂進化したものである。このことは東北大学妖怪科学の碩学、
その決め手は、『妖怪 本屋』は
・時間の経過に関しては、遅く感じることは滅多になく、たいていは早く感じられる。
・『妖怪 本屋』特有の現象として、本来、買う予定のなかった本をついつい買ってしまう。
この二点が『妖怪 喫茶店』との
さすが、妖怪事象研究一筋、四十年の大編八科教授、長年の研究者でなければなかなか気づかない着眼点である。
毎日のように喫茶店で珈琲を飲み、本屋で本を買い続け、結果、「あの教授の研究班は遊んでいるんじゃないか」と影口を叩かれ、とうとう研究費を減額されてしまったにもかかわらず自腹を切ってまで喫茶店と本屋に通い続けた大編チームの粘り強い研究に惜しみない賛辞を贈りたい。
※むろん、研究者にとってはこの辺の事情は周知の事実であるのだが、妖怪学初学者向けに書かれたこの本は、そういう「分かりきったこと」も、丹念に書くことにしている。専門家、在野の研究者にとっては
※※もちろん喫茶店においても追加注文することは往々にしてあるが、それは単に喫茶店に長居しすぎたのでおなかが減ってきただけである可能性が高い。
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