第3話

「『休憩室』‥‥?」


 怪異対策委員会――『フォルセ』の会議室として涼香が案内した部屋の室名札には『休憩室』と記されていた。京介が何度見直しても、会議室の『か』の字も見当たらない。


「先生、どういうことですか?どう見ても『休憩室』と書かれているんですけど」

「入ってみればわかるさ」


 涼香はそう言うとすぐに扉を開き、『休憩室』の中に入っていった。京介もその後に続き部屋の中に入ると、そこには至って普通の『休憩室』と言える光景が広がっていた。

 部屋の中央には複数の机とパイプ椅子が並んでおり、隅には自動販売機やテレビ、給水器やコーヒーメーカーが置かれていた。まさにその光景はごく普通の『休憩室』だと言えるだろう。このような部屋で『怪異』に関する会議を行うわけがないため、京介は多少困惑していたが既に察しはついていた。


「『怪異』に関する事柄は警察内部でも機密事項であることを考えると‥‥『隠し部屋』ですね?」

「正解。この『休憩室』にはある仕掛けがあってね。私達はこれからその仕掛けによって『フォルセ』本部へと行くことになる。このことは警察内部でも限られた者にしか知らされていないよ」

「なるほど‥‥。しかし、今はいないですけど、事情を知らない人がこの部屋で休憩をしていたらどうするつもりだったんですか?」

「ふふ、その心配はないよ。この時間帯はどの部署の人間も『休憩室』を使えない。そうスケジュール管理がされているんだ」

「では、他の時間帯はどうするので?」

「この『休憩室』以外にも『フォルセ』本部に通じる経路はたくさん存在するんだ。時間帯によって経路を使い分けるんだよ」


 涼香の説明に京介は「ほう」と納得した様子を見せる。


「流石は警視庁。そこら辺りはしっかり考えられているわけですか」

「そういうことだね。‥‥さて、いつまでもお話ししている訳にもいかないからね。早速『フォルセ』本部へと行こうか」


 涼香は部屋の隅に設置されている自販機に向かって歩き出した。


「『休憩室』では自動販売機に仕掛けがある。京介君、君も覚えておくといい」


 涼香の手が自動販売機の購入ボタンへと伸びていく。そして、上段の右端、中段の左端から二番目、下段の左端‥‥というように特定の順番で購入ボタンを押し始めた。


「購入ボタンを特定の順番で押すことによって、『フォルセ』への道が開かれるってことですか」

「その通り。まぁ、ありがちな方法だけれど、警視庁内部だったら十分なセキュリティさ」


 京介と話しながらも涼香の腕は動き続けていたが、上段左端の購入ボタンを押したのを最後に動きを止めた。すると、突如として自動販売機が動き出した。自動販売機が左へとスライドし、その奥にエレベーターが現れたのだ。


「うわ、お金の掛け方がすごいですね、この仕掛け」

「確かにそうだね。でもこれに関しては正しい税金の使い方だと思うけど」

「それはそうですね」

「さぁ、無駄話もここまでだ。『フォルセ』本部へと出向こうか」


 そうして、涼香と京介はエレベーターへと乗車していった。




 二人が乗ったエレベーターの行先ボタンには現在二人がいる『3F』の他に『B5』『B6』『B7』『B8』『B9』『B10』が存在した。


「警視庁は地上18階、地下4階の建物だったはずですけど、思いっきり地下10階までありますね」

「まぁ地下は隠し事にはピッタリな空間だからね」


 涼香がそう言いながら『B5』の行先ボタンを押すと、エレベーターは下降を始めた。


「会議室は地下5階にあるんだ。私は地下10階まで立ち入ることを許されているけれど、京介君はまだ5階までしか許可されていないから、くれぐれも5階よりも下の階には行かないようにね。行こうとしても行けないだろうけど」

「先生は10階で僕は5階ですか‥‥。やはりまだ信用はされていないようですね」

「それはそうでしょ。君は私と比べて経験が少なすぎる。『怪異』を知ってまだ2年弱だろう?むしろその歴で『フォルセ』本部へ行けることが異常なんだ」

「‥‥今はその言葉で満足しておきますか」

「そうそう。満足しておくがいいさ。‥‥っと、着いたね」


 二人で雑談をしているとエレベーターは5階へと到着した。そして、「ドアが開きます」という機械音と共に二人はエレベータを降り、『フォルセ』本部へと足を踏み入れるのであった。

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新ケ谷京介は極めて優秀な助手である 雨衣饅頭 @amaimanju

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