ミッション04 浮上
4-1
コロニーの入港口に、ファルコンのファイターユニットが入ってくる。
接岸作戦時に装備されていたビームカノン取り外され、エクステンションマッスルも格納されていない。代わりに、機首と胴体部の間には巨大なコンテナが装着されている。
コンテナから左右に翼が伸びている。それぞれの先には、大型のローターが取りつけられていた。
通称、VTOLパック。エクステンションマッスルではなく、その他資材を輸送する際に使用される装備だ。
コックピットに座るユートは、リラックスした様子で各種メーターをチェックしている。
「正直、ファルコンの作戦領域が宇宙空間なのに、こんな装備を用意するのはバカだって思ってた」
ユートが言うように、大気のない宇宙ではローターでの飛行は不可能である。
彼がそれを指摘したところ、納入元はコロニー内での使用を想定していると苦し紛れに言っていた。
『たぶん技術者が思い付きで作ったんでしょう』
「世の中、何が役に立つか分からないよな~」
ユートは、リラックスして冗談を言う。
今回の作戦は、地上への移動および、当座の物資の輸送である。今までの作戦に比べれば、危険は少ない。
地上に向かう必要がある。それは、ユートとシーナも最初から想定していた。
コロニー内に資源は十分に残っているが、一生引きこもっている訳にはいかない。
とりわけ、水源の確保は急務であると考えている。
エクステンションマッスルに使用するバッテリーの充電や、燃料電池には水が欠かせない。
『ユート、今回の作戦は戦闘を想定していません。と言うより、不可能です』
「エクステンションマッスルも無茶をさせたからな、今は自動整備の真っ最中だ」
目立った損害はないとは言え、無茶な運用をしたのは確かである。
無茶に更に無茶を重ねれば、戦闘も可能であるが、そんなことは極力避けたいのが二人の共通認識である。
「エインシアの様子は?」
『大人しく待機しています。時々、何か頷きながらブツブツ言っていますが……』
「可能な限り記録は残しておこう。記憶喪失なのは本当だろうけど」
あの後、エインシアにいくつか質問をしたが、具体的な情報は得られなかった。
少なくとも、彼女が記憶と情報を失っていると、と結論付けた方が円滑に対応できると、ユートとシーナは判断していた。
「それなら、彼女が何を目的にしてコロニーに居たのかも分からない」
だからこそ、油断も出来ない。
何せ、状況からして彼女は存在は怪しすぎるのだ。
『そんな風に気にしているから、いざと言うときに女性一人瓦礫から守れないんですよ』
「はいはい、それは本当に悪うございました……っと、これで大丈夫かな』
ファイターユニットはコロニーの端まで移動していた。
既にエンジンには火が入っており、いつでも飛び立つことが出来る。
『ユート、こちらも準備は完了しました』
「了解、カウントダウンを」
コックピット内にシーナの機械音声が響き渡る。
コンソールやメーターは正常な値を示している。
「ファルコン、VTOLモードでの作戦を開始する」
ローターを急旋回させると同時に底面のエンジンユニットを起動する。
ファルコンは一気に浮き上がると、コロニーから大地の東側に飛び出した。
「断崖絶壁、か」
平面の大地の果て、文字通り世界が途切れる断崖絶壁がモニター越しに映る。
ファルコンは順調に上昇を開始する。
モニター越しに見える断崖絶壁は剥き出しの岩ばかり、時折緑が見えるものの、それが植物であるか確かめるだけの余裕はユートには無かった。
『ユート、速度はどうですか?』
「減衰はそこまで発生していない。昨日の作戦時とは違う」
コロニーを大地に接岸させる際、射出したワイヤーが想定よりも早く失速した。
それだけではない、エクステンションマッスルで戦闘をした際にも、バーニヤによる移動をした際は減衰が発生していた。
「エクステンションマッスルも、直接走る時や荷重をかける時は問題なく動いていた」
『オートマトンも走行には問題はありませんでした……』
「となると、今のところ大気圏内でエンジンによる機動をした時や、ビームの発射に未知の力が働いているのか」
考察をしている最中も、VTOLユニットは問題なく上昇している。
コンソールには、コロニーを移動してからの時間と飛行高度が記録されている。
ほぼ登録、問題なく動いていた。
相対高度が5000を超えた頃、絶壁が途切れた。
ファルコンは大地の上空へと飛翔する。
眼下に広がるのは原野。人の手の入っていない、緑の大地と流れる河。
遥か遠方に巨大な杖が見える。山と森林に遮られて根元は見えないが、宇宙から見た時と同じ異様な存在感があった。
『ユート、着陸が出来そうな場所は』
「今探している」
のんびり景色を眺める余裕もなく、ユートは着陸地点の確認をする。
幸いにして、周囲に人家も無ければ邪魔になるようなものは存在しない。
「幸い、池がすぐ傍にある。着水するよ!」
それどころか、おあつらえ向きの場所があった。
『ええ、お願いします』
ユートが最初に行ったのは状況の確認だった。
コンソールに示される機体の情報はおおむね良好。ただ、外部状況はそうはいかない。
次に、現在の位置。こちらは上手くいかない、モニターはエラーばかりを表示している。
『シーナ、高度は分かる?』
「コロニーとの相対位置は分かりますが、地表からの高度は分かりません」
『くそ、となると映像が頼りか」
諦めると操縦に集中する。
既に高度は落ち始めている。小刻みに出力を調整して位置を調整しながら大地へ近づいていく。
モニター越しに見える地表が徐々に近づいて来る。
操縦桿を握るユートの額に汗が浮かぶ。
モニターに水面が映る。
ローターによって波紋が浮かぶ水面に、ファイターの姿が大きくなってくる。
そして、衝撃があった。
「よし!!」
着水音がコックピットにも伝わってくる。
『やりましたね、着水成功です』
「ま、今回は大分らくだったよ……はは……」
深く息を吐く。強がりは言った物の、操縦桿を握る手には汗がにじんでいた。
ファルコンのコンソールは、機体の無事と作戦の成功を告げていた。
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