君のために
学生初心者@NIT所属
君のために
水。それは生きるために必要なもの。地球上のあらゆる生命が必要としている。
そんな水は私にとって嫌いなものであり、触れることは避けなければならないものであった。
♢ ♢
小学校に入学したとき、出会った。不思議な少女。今となってはここまで関係が続くとは思っていなかったその少女はとの出会いは、同じクラスになることであった。
体育の授業では必ず日陰にいて、昼休みに外に出ることもない。運動会にも出場することがなかった。当時の俺やクラスメートはだれも理解をすることが出来なかった。そうやって、みんなは関わらなくなっていったけれども、俺は根気強く関わっていこうとしていた。
そうして、小三となり、やっとこ完全に理解することが出来た。水アレルギーといわれるもの。正しくは、水蕁麻疹。皮膚に水が触れたら、腫れたり、痒みや激痛を伴ったりする。全身を水で浸けるとアナフィラキシーショックを起こす可能性もある病気であった。汗を掻くことも出来ず、治療法もないこの病気は普通の生活を送ることを不可能とするのであった。
それからも実質的ないじめが続き、先生もあきらめるような状態となり、ついには不登校となってしまった。それでも毎日会いに行く生活をしていた。
♢ ♢
こんな生活を繰り返し、その大変さを身に染みて感じていた。水に触れることによって激痛が走るようになり、一時間ほどこの痛みが引かない。風呂に入ることは地獄のような時間であり、飲み物を飲むときは細心の注意を払わないといけない。温度管理をしっかりして汗を掻かないように心掛ける必要が毎日ある。
こんな生活は常人には耐えられないだろう。少なくとも、自分では無理だ。そんな生活をしながらもいじめられていた学校での日々。そんな中でも勉強を頑張っていた彼女には勝てないと思った。そして、何もできない自分を恨みそうになった。
でも、彼女は言う。
「自分とはかけ離れた環境について知ろうとするその姿勢を持っている人は少ないよ。だから、君はそれだけでもすごいんだ。」
いつもそんなことはないと言ってはいるけど。この言葉は、こんなちっぽけな自分が少しでも認められているという嬉しさがあった。
でも、彼女の大変さに何もできていない。と思う気持ちが強くなっていた。だからこそ。苦手だった勉強を頑張り始めた。彼女の生活が少しでも楽にしてあげられるように。それに何年もかかったとしても。
そうやって、頑張っていく姿は、彼女にとって不安をもたらしていた。
「ねえ。大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。」
そんないつもの会話から始まるようになっていた。実際、周りから見ていれば日に日にやつれていっているように見え、不安を煽られるような状態だったからだ。
明らかにクマが酷い日や生気が感じられないような日などもあった。そんなことがあっても。
「大丈夫だよ。」
そう彼は言い続けた。そんな日々が続き、半年が経ったころ。
ついに倒れた。
順当だったといえるとしても、その事実は彼女を悲しませた。倒れた場所が彼女の部屋だったこともより一層だっただろう。
「大丈夫じゃないじゃん。」
そんな一言も漏れた。そうして、彼女は看病を始めた。少しでも彼が休めるように。
そうして、何時間か経ち。彼は目覚めた。
「あれ? なんで天井。」
「もう、バカ。」
そういった。彼女の眼には涙が流れていた。
「お、おい。泣くんじゃねえよ。」
それは、恥ずかしいからではなく、彼女のことを考えてのことだった。
「これで、君が無理をしなくなるのなら、別にいい!」
でも、彼女も覚悟を決めていたようだった。
だからこそ、彼はとても気まずい顔をした。彼女の生活を少しでも良くできるように勉強に励み始めたことが、彼女につらい思いをさせてしまったからだ。
「心配かけてごめんな。少しは自分の身体のことも考えて生活するわ。」
「少しじゃなくて、しっかりやって!」
「わかったよ。」
それからの日々は、彼が怒られるようなこともありながら、何年も何年も経ちながらも、ほとんど同じような日々が続いていた。彼の環境の違いが唯一変わっているところと言えるだろう。しかし、その関係がなによりもよりより良い関係だった。
そうして、何年か経ち、高校生から大学生になるタイミングとなった。しかし、伝えないといけないことが出来た。
そう、大学が遠くて寮生活をすることになるのだ。元々、彼女のために何かできるように薬学部や医学部がある大学を目指していた。俺は合格できたことは嬉しかったが、遠いということがずっと気になっていた。でも、言わないわけにはいかないだろう。
そして、告白もする。彼女のためにやっているのにあやふやな関係を続けるのは嫌だから。
そうして、今日も彼女の家を訪れた。少し普段通りの話をしてから言った。
「少し、真面目な話がある。」
彼女は少ししか驚いた表情をしなかった。まあ、大学であまり行けなくなるということがあると言われると思っているのかもしれない。
それは間違っているということを伝えるのはやはり辛い。でも、伝えないといけない。
「遠い大学に通うから、寮暮らしをすることになる。だから、しばらく会えない。」
その一言が彼女の血の気引かせていった。
だからこそ。
「でも!」
その言葉を強く言った。
その言葉は彼女を冷静にさせたようだった。
そして言った。
「俺は、香澄と関係を終わらせたくない。いや、進めたい。しばらくは遠距離にはなってしまうけれど、付き合ってもらえますか?」
この後の彼女はとても幸せそうな泣きそうな顔をしながら
「もちろんです。」
とその嬉しい一言を伝えてくれた。
♢ ♢
そして、大学に通い始めた。ビデオ通話はなるべく毎日した。医学部での生活は大変だった。あと、噂の通り留年をし、6年間大学生活をし、卒業した。その後の2年は研究医として実務経験を積み、大学院に通って博士号の取得を目指しながら、専門医になれるように目指した。
そうして、水アレルギーの症状を緩和する方法を見つけ無事に博士号も取り専門医となった。
今は皮膚科のクリニックをやっている。病院なども誘われたりしたが、妻と入れる時間を増やせる可能性の高いこちらを選んだ。
君のために 学生初心者@NIT所属 @gakuseisyosinsya
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