第7話 感情が数値化出来たら……
「桐原さん、今回の動画なんですけど……」
真保は、俺の作業室で、動画の編集について俺に尋ねた。
「ああ、あの動画凄く良かったですよ。あんな感じでお願いします」
「そうですか、良かったです」
そう言って、真保は俺の作業室を見回した。
「どうしました?」
「いえ、なんというかPCしかなくて殺風景で……」
「あぁ、まあ別にこの部屋は作業するだけの部屋なので」
とは言っても、ここで寝るし、一日の大半はこの部屋で過ごす。ほぼ自分の部屋だ。こんなに殺風景なのは、過去の思い出の品や物を全て捨て去ったからだろう。
「桐原さんってやっぱりミステリーですね」
「そうかな?俺はそうは思わないけど……」
YouTubeの概要欄に生い立ち載せてるくらいだし。
「なんというか表面じゃなくて内面は絶対誰にも見せないというか。いいと思いますよミステリーな人。かっこいいと思いますし」
「そ、それはありがとう」
女性にそんなことを言われるのは初めてだった。
「でも、私はタイプじゃないかな」
「えっ、どんな人がタイプなんですか?」
「そうですね……」
少しの沈黙の後、真保は言いずらそうにして答えた。
「ちょっぴり、おバカな人」
◇
今日は、幼なじみと会うことになっていた。
実癒と会うのは、数ヶ月ぶりだが、何年かぶりに再会するような、それこそ、数ヶ月前、あの時再会した時のような緊張感があった。
「久しぶり、彩人くん」
「久しぶり、、なんか雰囲気変わった?」
前会った時は、確か桐原くん呼びだったはず。
雰囲気も、いつもの実癒とは、ふんわり度が2割減していて、キラキラ度が2割増って感じだ。少し大人っぽい。あ、髪伸ばしたのか。
「うん。私ももう大人だしね。大人コーデだよっ」
「なるほど、悪くない」
「そこは良いって言ってよー。それよりも、彩人くんこそ、雰囲気変わったね」
「そ、そう?」
数ヶ月前と俺は変わっただろうか。いや確実に変わっているな。あの時の俺と今の俺じゃ。
「うん。彩人くん、大人の顔つきになった」
「俺はまだ子供だよ」
「前よりは大人でしょ?YouTube上手くいってるの?」
「うん。始めてよかったよ。やっぱり幼馴染の言うことは聞くべきだな」
「ふふっ、そうでしょそうでしょ?やっぱり向いてると思ったんだよね彩人くんは!」
「その、、気になったんだけど、、彩人くん呼びはなんで?」
「う、うーん。その、ね」
幼馴染が珍しく吃った。
もしかして、これはラブコメの予感!?
久しぶりに再会して、、なんか気になって。
そしてまた会えなくなった数ヶ月間、ずっと桐原くんのことが頭から離れなくて……
桐原くんにも、私の事、意識して欲しかったから……
だから……名前呼びして、みたんだよ?勇気出して。
って事かぁ!?!?
「彩人くん?聞いてる?」
「あ、、ごめんごめん、なんだっけ?」
「えっとね、知ってる?その、カッターチャンネルってやつ」
「えっ!あ、ああ知ってるよ?それがドウカシタノ?」
急に俺のチャンネル名を呼ばれてドキッとした。どういう事だ?まさか普通にもう俺のYouTubeバレてるのか!?幼馴染にはなんでもお見通しよっ……的な!?
「いや、そのチャンネルの人の名前も切原だからさ、なんか嫌で、、だから彩人呼びにしたんだよね」
「あ、あぁ、、なんで嫌なの?」
「だって、あの人嫌いだもん。人の炎上ネタを自分のネタにしてさ。なんか卑怯だし、人の事馬鹿にしてるみたいで、許せないって言うか」
「な、なるほど」
確かに実癒の言う通りだ。
一般人から見たら、そういう評価になるかもしれない。
でも、俺は俺の正義でやってる。それが世間的に見て卑怯だと言われるのなら仕方ないが。
「でもさ、まぁその人も色々大変なんだよ。生きるために」
「そうかな。私なら人のネタで勝負するんじゃなくて、自分のネタで勝負するな」
まさか実癒の言葉でグサッと刺されるとは思わなかった。
幼馴染の言葉は、いつもいつも俺を癒して救ってきたからだ。
でも、、、
「そうだな」
一切間違ってなかった。
人のネタを扱うことは、それほどの責任が伴うということを忘れてはいけない。
一歩間違えれば、ということがある。
だから、俺はこれからの先、気をつけて進まなければいけない。
YouTuberとしての道も。恋愛の道も。
どちらも地雷はあるのだから。
炎上系YouTuberになったら、何故かモテ始めた件 黒兎しろ @utumi_yushin
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