航宙船 集めて旨し しらす星

 冷たかった湘南の風が少し暖かみを増す頃に、しらす漁が解禁される。朝焼けの薄暗さの中、初めて立行丸りっこうまるに乗り合わせた私は、予想以上の寒さにがくがくと身を震わせた。


「揚げる時は危ないから近づくな」と叔父さんに言われていたのもあって、しばらくは風の当たりにくい運転席に引きこもり、漁網の引き上げ中は遠目で見ていた。


 底の見えない海の奥から集めた星の子たち。漁師さんが漁獲物を洗って氷に混ぜた後、叔父さんが私を呼び寄せて、ようやくしらすを見せてくれた。


 とれたてのしらすは透き通っていた。黒い小さな瞳は宇宙の名残。天の川の小石をかき集めたようにきらきらしている。出港前に仰いだ満点の星たちは、小魚になって海に隠れていたのだろう。


 どっさり集めた星の山を見て、「今日は獲れたなぁ」と上機嫌に笑う叔父さん。

 叔父さんはなぜかシンドバッドの曲を歌いながら立行丸の舵をとって、陸に引き返した。


 加工場に送られる前のしらすを持ち帰れと、叔父さんが発泡スチロールのケースに入れて渡してくれた。民宿の叔母さんのところで、しらす丼にしてもらう。


 青葉を乗せたら緑星雲。海苔をかけたらイチ銀河。温かい白飯はホワイトホール。星の命はほんのり甘い。


 しらすで感じるうみの味。


 












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なんか俳句 紅山 槙 @Beniyama_Shin

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