愛娘 白息浴びる いちご指


「おーい、帰るぞー」

 

 空の灰色からほろほろ雪。銭湯から出たばかりの娘はほかほかした顔で、落ちてくる雪を追いかけ回していた。


 本当は家に帰って風呂を沸かせればいいんだが……トイレが邪魔だし、狭いしな……。


 ガス代と水道代のことを考えれば、仕事帰りに娘を拾って銭湯に行く方が、時間にも金銭にも優しい。


 銭湯も車でしか行けない辺鄙なところにあるせいで、いつも貸切だ。潰れないことを祈るばかり。


「とぉちゃん、みて、結晶つかまえた」


 戻ってきた娘は、服の袖に乗せた雪の芸術を自慢げに掲げた。


「あとさむい」


「そりゃあこんな雪の中にずっといたら湯冷めするだろ。ほら早くトラックに乗れ」


 娘は荷物のない軽トラの助手席の扉を開け、慣れた動きでよじ登る。ちょこんと席についたがまだ寒いらしく、ゆでだこのように赤い指に、はぁっと白い息を吐いた。


「とぉちゃん、みて、いちご」


「ゆでだこだろ」


「いちご!」


 娘はむすっと頬を膨らます。だがいちごはそんなに細長くない。


「ほら、みて、みて。真っ赤ないちご!」


 対側の扉に回った俺に、娘は腕をぐっと伸ばして手を広げた。見てよ見てよと、"いちご"を無理矢理、視界に入れようとする。


 子供の感性はよくわからんなぁ。

 頭の中でぼやきながら、俺も運転席に座った。

 




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