第15話 対面

「あぁ~。腹立つ~~」


 ズンズンと雑な足音を立てながら、理子は影人の手を引く。2人の手はしっかり繋がっている。


「ちょっと。村井」


「なんですか? 」


 影人の呼び掛けに応じ、理子の足が自然と止まる。


「そろそろ放してくれないか? 」


 硬く繋がれた理子の手を指差す影人。しかも真顔で。


「…。はい。分かりましたよ」


 一瞬、嫌そうな顔をしたが、すぐに表情を戻し、理子は影人から素早く手を放す。


「それにしても!! ムカつきます!! ちょっと顔が良いからって。調子乗ってますよ!!! 」


 明らかに不機嫌さを漂わせる理子。おそらく智介の言動に憤りを覚えているのだろう。


「まぁ。陽キャなんて。あんなものだろ」


 冷めた目で吐き捨てる影人。


「失礼ですね! あたしも陽キャの部類ですが? 」


「お前は。特殊だ」


「よろしい」


 2人で漫才のような掛け合いを交わす。特に嫌な気持ちを感じない影人。別に心地よい訳でもないが。


「…胸元君」


 影人のクラスの教室を通り掛かった玲央奈が立ち止まる。影人だけを不安そうに見つめる。


(ちっ。タイミングが悪いな)


 影人は胸中で舌打ちをする。決して玲央奈と目を合わせようとしない。会話などしたくはない。


「これはこれは。先輩の知り合いの初美先輩じゃないですか!! 」


 玲央奈を視認した直後、なぜか理子が敵対心を露にする。挑発するような口調が物語っている。普段発しないマイナスらしきオーラも纏う。


「っ。村井さん。久しぶりだね」


「ええ。お久しぶりです」


 上位互換と下位互換が面と向かって対面する。


 先ほどと打って変わり、玲央奈の纏うオーラも変化する。


「誰かに用があるんですか? まさか先輩ではないですよね? 」


「…。それは違うけど」


「相変わらずですね。はっきりしない」


 理子が玲央奈に対して優勢を保つ。完全に理子が押している。


「2人とも、お取り込み中いいか? 俺は関係ないから教室に戻る。2人で楽しくやってくれ」


 空気を壊すように、影人が口を挟む。


「へぇ…」


「え…」


 間抜けな声が漏れ、理子と玲央奈の顔が固まる。


 そんな2人の返答を待たずに、影人は教室に入る。


 戸の閉まる音が理子と玲央奈の取り残された廊下に優しく響いた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

好意を寄せていた女子を自分を良いように利用するクラスの陽キャに取られた。その経験から嫌われる勇気を持ったら美少女が寄ってくるようになった 白金豪 @shirogane4869

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画