バスター・サンプル

釣ール

この管理世界から一瞬でも逃れるため

 ゲーム以外で任務なんて普通は言わない。

 秘密が多い生活をしているといつもなら聞かない単語ばかり耳に入るし目にもつく。


 そして買いだめたジャンクフードを夜に消費しているのだ。


 健康第一で考えられたボリュームがないくせに高い食い物。

 口に入れやすくて夜でも小腹を満たせる味ではある。


 新垣雲蛛あらがきふぉっぐは「消滅可能性自治体&都市遺伝子回収計画」を実行する前の日常へ戻る。


 滅びゆく日本人を始めとした未来で消えていく人類の遺伝子を集めつぎの生命体が地球を支配する場合に備え回収。

 勉強も訓練も労働も争う必要のない存在へ改良した性別もない後継種こうけいしゅとして送り出すための実験を。


 新垣は人類の馬鹿げた仮説に笑うこともなくただ従う。

 この計画が成功する確率は限りなく低い。

 それなのにこのご時世羽振はふりがいいバイトに出会う機会もないのだから黙って働くとしよう。


 何もやりたいことがないわけじゃない。

 では何も欲しいものがないだ。

 しかし現代の方が満たせている欲求もある。


 身体に悪くてもいいからジャンクフードで極上のメニューをパートナーと共に食べていたい。


 そして二人でこんな荒唐無稽こうとうむけいな現代より前に移行し、この時代になる頃には消えてしまおう。



-タイムスリップを知って


「消滅可能性自治体&都市遺伝子回収計画」では大前提として今までの常識は通じないことがルールとしてある。

 だが思い出フィルターに縛られているメンバーもいて、この計画を利用すればタイムマシンで過去へ飛び後継種達が作った地球に飛べるのでは?

 と仮説を立てているメンバーもいた。


 新垣は後継種が未来へ飛ばされる前にどうしても今の地球の過去へ飛びたかった。


 現代人類が嫌ではないかと言えば嘘になる。

 でも別に新垣は恨んではいなかったから。



「ぐあっ!」



 今日も任務を達成する。

 屈強な男性を倒し、生け捕りでバイト先に持ち帰る。


 しかし油断していたからか後ろからの攻撃に気が付かなかった。


「がぁぁぁ…。」


 虫のような鎧のパートナーが不意打ちを防いだ。


「まったく。あれだけ油断するなって言ったのに。」


 後継種として送られるはずだった半人間のパートナー・エクサスが背中を守ってくれた。


「あと少しでエクサス、お前に極上の飯をご馳走する。」


 エクサスが本来後継種として選ばれるはずだったことはバイト先で聞いていた。

 そして捨てられたことも。

 だからエクサスは優しい。


「タイムスリップが本当にあるとは思わなかったけれど、過去の世界でもあたしは隠れ続けなければならないんでしょう?」


 新垣はホログラム装置でエクサスに女性の姿であるアバターを渡した。


「バイト先には言うなよ。俺のもうひとつの技術だ。もっとも過去の日本へ移住するんだ。

WiFiのない過去へ飛ぶわけだからこのホログラムも過去の技術で再現させる。今の資金もそこで通用するようにしてな。」


「そんな難しいことをしてまで?」


「安い時代、場所で俺たちは拠点を決めてからぶらぶら旅をしよう。

後継種の話が矢面やおもてになるのはもっと後だ。タイムスリップに成功したら、俺たちは今の時代で50代になる。

そこはもう少しいじらせてもらうがこの現代で老衰で死ねれば本望だろ。」


 エクサスの意見を聞いていなくて新垣は途中喋りながら反省した。


 それでもエクサスは新垣に賛同している。


「じゃあタイムスリップ専門家の場所を襲撃するまでついていく。」


「なるべく話し合いに持ち込むつもりなんだけれど。」


「今まで武力に頼らなくてすむほど穏便な世界なんてあった?」


 たしかに。

 二人は笑ってバイト先へ戻る。

 もう後戻りは出来ない。


 もしかしたら自分達二人の過去旅行も運命のサンプルに過ぎないかもしれない。


 それでも決めたんだ。

 二人で飯を食うと。


 この先の物語は二人だけの物だから。

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