不登校だった僕は学園の王子様に恋をした

黄金かむい

第1話 文化祭ライブ

 その日、僕の性癖は完全に狂った。


汗のにじんだシャツ、弦を弾く指、ドラムのリズムに乗って揺れる体。


そして、楽しそうに笑う、少しあどけなさの残った笑顔。


僕は彼の演奏から目が離せなかった。


 文化祭二日目、熱気に包まれた音楽室の最前線で、僕は彼に特別な感情を抱いた。


 それは喜びに満ちていて、胸がしめつけられて、いてもたってもいられない感情だった。


 彼は紛れもなく男だった。しかしそんなことは僕には関係なくなっていた。


 彼が演奏の合間に右手を高く掲げ、女子生徒からわあっと黄色い声援が上がった。


 僕は女子生徒に苛立ちを覚えた。彼と恋愛する権利を生まれながらに持っている彼女らに嫉妬した。


 自分が女であれば、どれほどよかっただろう。


 そんな思考が僕の頭を支配した。


 クラッシュシンバルの音色とともに、演奏は終わった。


 演奏者たちは笑顔で手を振りながら、床に置いてあった飲み物を取ってステージをあとにした。


 その時、彼が飲み物に口をつけて、上を仰いで勢いよく水を飲んだ。


 彼の喉仏が激しく上下した。


 僕はその一連の動きにどうしようもないエロスを感じた。


 僕は彼が音楽準備室へ消えていくのを見送った後も、茫然としてその場に立ち尽くした。


 アカネ、それがMCで紹介されていた彼の名前だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る