夢にまで見た若返り

天川裕司

夢にまで見た若返り

タイトル:夢にまで見た若返り



イントロ〜


あなたは、若返りたいと思いますか?

それとも自然の摂理に従い、そのままある方が幸せだと思いますか?


男女共に若返りたいと言う夢は

空を飛びたいと言う夢と似ていて、

もしかすると永遠のテーマかもしれませんね。


特にショウビジネスに携わっている人、人前に出る人にとっては、

若くありたいと言うその心に夢が灯り、

さらに架空を呼び込むこともあるようです。



メインシナリオ〜


私の名前は外林志穂(そとばやし しほ)。

これまで芸能界で活躍してきて、

いろんな夢を見てきたと思っている。


でも、私は今年で59歳。

60歳手前の還暦間近で、昔の栄華は昔の夢、

今は落ち目になり、場末感漂うこの生活をずっと暮らし続け、

ただ余生を歩くように生き続けている。


ト書き〈鏡を見ながら〉


志穂「はぁ。最近、抜け毛も激しいなぁ。フフ…こんなにシワも増えちゃって。もうあの時には戻れないよね」


実はその昔、私は歌手として、女優として活躍しており、

その時の往年の私のステータスは今に比べてみればまさに雲泥の差。


数々の賞を受賞し、歌手としてはレコード大賞を3年連続で取り、

一時期は本当にときの人として謳われたもんだった。


それに私にはもう1つ、忘れられない過去がある。

芸能界デビューしてすぐに同業者と激しい恋愛をして、

その人と結婚するつもりだったのに捨てられたこと。


その人の事はもうどうでも良いと思っているが、

あれで対人恐怖症・男性恐怖症のようになってしまい、

私はそれ以降、まともな恋愛をする事ができなかった。

だから今でも独り身で、ステータスの高い芸能人は

よく「孤独な道を歩む」と言われたとおり

私もその孤独な道をずっと歩み続け、友達も居ない。


あれだけの栄華を誇った歌手・女優なのに、と、

最近ではよくその事を思ってしまう。


ト書き〈バスタブ〉


それから数日後。

私は自らこの世を去ろうとしたのだ。


でも、やはり生きようとする本能が私を留めたのか。

気づくと私はまだバスタブに居り、

うつろな瞳で浴槽の泡と、ただ天井を眺めているだけだった。


傷も浅く、すぐに治った。

それからまた数日して、私は日常生活に返っていた。


でも今までの生活の延長から

なかなかやり切れない気分が抜けず、


志穂「はぁ。しょうがない。今日はどっか飲みにでも行こうかなぁ、久しぶりに」


と行きつけの飲み屋街に来ていた。


ト書き〈バー『Same Rejuvenation』〉


そうして歩いていると…


志穂「あれ?こんなお店あったんだ」


しばらく来なかったからか、新しいオシャレな店が建っているのに気づいた。

そこに入り、いつものように静かに飲んでいたら…


ルラ「こんにちは。お1人ですか?もしよければご一緒しませんか?」


と1人の女性が声をかけてきた。


彼女の名前は若瀬(わかせ)ルラさん。

都内でライフコーチやスピリチュアルヒーラーなどの

仕事をしていたようで、とても上品な上、

どこか不思議なオーラを持っていた。


隣を空けてしばらく談笑していると、

さらに不思議な気がしてくる。

なにか「昔から一緒に居た人?」のような気がして、

そのせいか、心が少しずつ開放的になり、

私は今自分が思ってる悩みを全部彼女に打ち明けていた。


志穂「あ、ごめんなさい!こんな私のつまらない悩み事、延々話しちゃって…!」


ルラ「いえいえ全然構いません。どうかお気になさらずに。私も仕事柄、そんなお話を聞かせて頂けるのは本当に有難いんです」


ルラ「でもそうですか。今そんなふうにして、生活に虚無感のようなものを感じていると?」


彼女は真剣に聴いてくれていた。


志穂「え、ええ。…こんなこと本当に初対面の方に話すような事じゃないんですけど、でも今の私、本当にそういう事で悩んでて…」


悩んでいると言うか、自分の我儘を言っただけ。

このとき私が言ったのは、

「若返りたい。もう1度あの頃に戻ってやり直してみたい。そうすればもしかすると、今みたいな生活じゃなく、もっと幸せな生活が舞い込んできて、幸せになれたかもしれないのに…」

という事。


彼女はしばらく黙って私の言う事を聴いた後、

アドバイスをしてくれながら、本当にその悩み解決に動いてくれたのだ。


ルラ「なるほど。まず女性の方なら、多くの方がそう言う事を思われますよね。お気持ちわかります」


ルラ「ですが志穂さん、でしたね?あなたの過去のことをお聞かせ頂いて結構驚いてはおりますが、どの場所に居ても、どんな空間・条件にあったとしても、男女共に、その幸せのあり方・送り方と言うのは変わりませんよ?」


志穂「え?」


ルラ「本当に若返ったとして、あなたはそこから幸せな人生を歩む事が出来ると、本気で思いますか?」


「若返ってもあまり意味がない」

そう言われてるように聞こえた。


そう言われたらさらに欲望が疼くのか。

私は若返りに対する自分の思いをさらに膨らませ、

子供がねだるようにしてその時、一心に

「若返りたい」と彼女に訴えたのだ。


そうすると少しして、彼女も折れてくれたのか。

「それならそのチャンスをあげましょう。若返らせてあげるから、そこからやり直してみなさい。そうすればきっと、私が今言った事もわかるでしょうから…」

みたいな事を言い、私に不思議な飲み物をくれた。


彼女は栄養ドリンクのようなものと言ってたが、

私にとっては不思議なドリンクに見えていた。


ト書き〈若返ってやり直しの人生〉


するとその翌日。

私はみるみる若返り、本当にあの当時の自分に戻ることができていた。


志穂「…信じられない。本当に…」


60手前の女が、20代に若返っている。

髪は黒々として天使の輪が出来、シワなど1つも無くなり、肌はシルバー色に輝いている。

何もかもが若返ったのだ。


私はそれからやり直そうと新しい芸名を用意して、

再び芸能界に入り、瞬く間のうちに有名になれた。


これも本当のことだった。


そして…


貴彦「もう君を離さないよ」


志穂「うれしい♪」


私はまた同業者と恋愛し、激しい恋に落ちた。

でもまた私は捨てられ、あの時と同じ。


志穂「…なんで…なんでなのよぉ!」


そのあとも同じようにして私はいちど塞ぎこみ、

それから挽回して、歌手に女優に活躍し、様々な賞を受賞する事ができた。


ト書き〈カクテルバー〉


それから数日後。

私が1人でカクテルバーへ行った時…


志穂「あ、あなたは!?」


前と同じような姿勢でカウンターにつき、

1人飲んでいるルラさんの姿を見かけたのだ。


ルラ「あら志穂さん♪」


それからまた久しぶりにしばらく談笑していた。

その時でもやはり私は今の悩みを彼女に伝え、

彼女は真剣にその悩みを聴いてくれていた。

そしてまたアドバイスをくれる。


ルラ「あなたは夢のような第2の生活を手に入れたんです。いいですか志穂さん?夢というのは気持ち次第、心の在り方次第で悪夢にもなり、また良い夢にもなります」


ルラ「あなたは第2の生活を手に入れた上、今度は自分でその心を強くして、何事にも折れないように、その人生・生活に花を咲かせる努力をするのです」


彼女はやっぱり不思議な人。

そう言われると本当にその気にさせられる。


ト書き〈後日〉


でも現実は甘くなかった。

彼女に言われた通り何とか心を丈夫にし、

自分の人生に花を咲かせみようと努力はしたが…


志穂「やっぱりダメ!こんな同じような繰り返し、私もう耐えられない!」


となってしまい、私は又、悪夢を見るようになってしまったのだ。

でも連絡交換を既にしてくれていたルラさんは、

そのつど私の元へ駆け寄ってくれ、励まし、

私を救おうとしてくれていた。本当に有難い人だ。


その時でもあの日に言ってくれた事…

「夢というのは気持ち次第、心の在り方次第で悪夢にもなり、また良い夢になる。心を強くして、その人生に花を咲かせてみること…」

この事への努力を何度も本当に口を酸っぱくする程、

私に対して言ってくれ、私をなんとか全てのしがらみから救おうとしてくれていた。


ト書き〈現在に戻る〉


それから数十年後。

私は「変わる前の自分」に戻っていた。


体は老いて心も貧しく、生活にメリハリはなく

友達もおらず、愛する人との生活は夢の内へと消えてしまった。


志穂「ハハ…。若返ったところで、結局…」


全く同じような人生を送っていたのだ。

すると私の背後に彼女の気配が漂う…


ルラ「…わかりましたか?あなたのこれ迄のあり方が?」


志穂「…ルラさん」


私はこのとき彼女の正体に気付いた気がした。


そして彼女はもう1度私にチャンスを与え、

夢のような生活に戻らせてくれたのだ。


私はまた若返り、今度こそ失敗のない人生を歩んでみようと…


ト書き〈総合病院でずっと眠り続ける志穂を見て〉


ルラ「何度でも、あなたの気が済むまで、若返らせてあげる。何度目かにあなたも気づくでしょうね。このままの自分ではいけないと…」


ルラ「私は志穂の理想と夢から生まれた生霊。その夢を叶える為だけに現れた。たとえ若返っても、人はそれまで自分が歩んできた人生に答えを見るように、同じ人生を歩むもの」


ルラ「『あの時に戻ってやり直せたらもっと幸せが来る』と思っていること自体が錯覚なのよ。今までの自分のあり方が、その若返りの夢に答えをくれたと思えば良い」


ルラ「やり直すべき時は『今』なのよ。過去じゃない。でなきゃ、新しい未来はやって来ないわ。その未来をこそ答えと呼ぶなら」


ルラ「あなたはバスタブで眠った時、すでに昏睡に入っていたの。身寄りの無いあなたは可哀想。私が現れて、ここへ連れて来てあげた。そしてあのドリンクは、あなたのメンタルを少しでも強くするため」


ルラ「あなたは心の在り方1つで、自分のこれまでの生活・人生を左右していたの。それに気づいて、これからはどうか幸せを自分の未来(さき)へ呼べるように。…ウフ、また笑ったわね。良い夢を見てるのかしら…」


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=ianm30zBIN4

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