電脳の魔術師

@sanomari_1990

第1話 プロローグ

 電脳化――

 それは人体に特殊なバイオチップを組み込むことで、世界ネットワークとの境目を極限まで無くす技術。特殊な媒体は必要無く、その身一つで広大なネットの海にアクセスできるようにするものだ。

 ただ目を閉じて『アクセス・ネットワーク』と呟くだけ。

 それだけが必要な儀式。

 精神はネットの海に沈み込み、次の瞬間には現実と見間違うほどの空間に到着していることだろう。

 

 電脳化の技術が確立されて、早一世紀半。

 人類は現実という檻から抜け出し、電子の仮想空間に生活圏を移した。

 

 変わったものを全て挙げるには数が多すぎる。

 経済、宗教、国家…エトセトラ。

 あまりにも多くのことが変化し、適応・淘汰されていった。

 

 だが変わらないものもあった。

 

 闘争だ。

 

 人々は変化した世界の中で、それでも変わらず争いを続けている。

 電脳領域の拡張戦争だ。

 プログラマーたちが構築・拡張する電脳空間――通称『エリア』は、無限の広がりを持つと思えたが、エリア毎への容量配分は電脳空間を維持する量子AIによって管理されていた。

 量子AIとは量子コンピュータが実現された際に生まれた副産物にして、新種の生命体に近しい何かだ。

 彼ら(彼女ら?)は分体でありながら統一された意識を持っており、電脳空間の維持と秩序を保つことをすべてとしている。

 拡張戦争によってエリアが広がったり狭くなったりすることは、大きく全体から見れば総量が変わっているわけではないのか、戦争そのものには量子AIは不介入を貫いている。

 裏を返せば、人類は量子AIにさえ危害を加えなければ、エリアのためにはどんなこともして良いということだ。

 

 戦争は激化している。


 それは大きな破壊音を撒き散らしながら、平和な『日本エリア』にも近づいていた。

 始まりはいつも突然だ。

 

 普段と変わらない学校。

 いつもの授業。

 退屈な午後。

 楽しい部活。

 賑やかな帰り道。

 

 それらは一瞬にして消えてなくなった。

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