貯心箱

いしも・ともり

【超短編小説】貯心箱

あのね みんなね

2つの入れ物をもってるんだよ

知ってた?


ひとつはね

透き通った珊瑚色の四角い入れ物

うれしい時やたのしい時

ウキウキした時やワクワクした時

ボタンをポチって押すとね

入れ物の中にキラキラがたまっていくんだ


もうひとつはね

深い碧色の四角い入れ物

かなしい時つらい時

くるしい時さびしい時

ボタンをポチって押すとね

入れ物が濃く重くなるんだ


—―珊瑚色の入れ物がいっぱいになるとね

『シェアしますか?』

って文字が浮き出てくるの

『はい』ってボタンを押すとね


入れ物がパカッて開いて

星の砂みたいなキラキラが詰まった透明の玉が

ぽわんぽわんって浮かんでくるよ


その玉はね お空をふわりふわりと漂ただよって

つらくて悲しい人の上で弾はじけるんだ


そうするとね その人の瞳から

キラキラが吸い込まれてね

ちょっぴりつらい気持ちがなくなるんだよ


—―碧色の入れ物がいっぱいになるとね

『シェアしますか?』

って文字が浮き出てくるの

『はい』ってボタンを押すとね


入れ物がパカって開いて

装丁の美しい重厚な本が出てくるんだ

その本はあっという間に広まってね

世界中から感想が届くんだ


「つらかったね」

「かなしかったね」

「しんどかったね」

「よくがんばったね」

「よく耐えてきたね」

「次はあなたが幸せになる番だよ」


—―その入れ物は『貯心箱ちょしんばこ


心をなくすと入れ物も消えちゃう

一度にたくさん入れると壊れちゃう

だから ちょっとずつ貯心してね

必ず二つセットで持っててね


幸せをシェアできる不思議な入れ物――

みんなもってる優しい入れ物――


【おわり】

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貯心箱 いしも・ともり @ishimotomori

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