図書館と、相棒と家族サービスと

「…結局、今回の襲撃で得られたのは、宇宙ポートに行く理由とスキルだけだな」

「確かに、名前もわかんなかったし」

「それ」



ちみっこい奴と別れ、図書館へと足を向ける。

時間的にはそんなに長く立っているわけではないが、コンビニからここに着くまでの道のりは正直とても長かったなぁと思う。

…まぁ、言葉にしても「襲ってきた奴を返り討ちにした」としか言えない為、どっちにしろ短いのだが。

いわゆる、精神時間と現実時間の違いという奴だろう。


汚れてしまった石畳の清掃をシャルに任せてどんどんと足を進める。

どうやら図書館内のことはキサラギとミコに頼んであるようなので、とにかく会いに行こう。


道中に立てられている石柱を眺めてみると、今でも誰かが整備しているようなぐらいの綺麗さで輝いていた。

その整備は石柱だけでなく、建物まで及んでいるようだ。



「へぇー、綺麗だねぇ、清掃係のアンドロイドでもいるのかな?」

「…なんかルンバみたいな見た目を想像しちゃうな」

「今までの傾向から行くと人型だろうけどね」



まぁ人型と言えど、キサラギのように異形頭のような奴である可能性は高い。

柱と柱の間に設置された石像を撫でながら思った



そうやって歩くこと数分。見上げるほど大きい扉の前に着いた。

近くで見るとさらに大きく感じ、まるで巨人の為にこのぐらい扉を大きくしたのではないかと思えるほどだった。


車が無理やり図書館に侵入したせいか、扉が建物の内側に向かって開いている。

傷とかも付いていないし、一応開ける向きもこちらで合っているようだが…地面にタイヤ痕がくっきりと残っているのが分かった。

おそらく、一度で開けきれずにエンジンを吹かしたのだろう。スリップした車がこのような痕跡を残すのは知っている。

だが扉が傷ついていないのは謎だ。まぁそのあたりについてもこの図書館で知識を得られればいいのだが。


試しに扉を押してみると、見た目通りの重さのようで軽く押してもびくともしなかった。きっと手で押して開ける用の扉ではないのだ。

きょろきょろと回りを見回してみると、これ見よがしに浮いている端末があったので手に取ってみる。すると現実でよく見かけるパスワード入力画面が映っており、開錠と思わしきボタンの下に三角とビックリマークで形成された警告文が赤で書かれている。



「『警告:この扉は電子ロックです。なぜ力技で開けるのですか?意味が分かりません』、と書いてありますね」

「…力技で開けられるドアさんサイドにも問題があるとしか」



怒っているような、諦めているような文章を出力するドアに適当な返しをしてから中に入った。

外の明るさと違い全体的に暗めな雰囲気な図書館内は、目が慣れるまで少しだけ時間を要したのだが。



「お~…なんか、図書館ってよりも遺跡の方が近い内装だな」

「うん、周りにあった建物と違って、やっぱりここだけ昔の建築物って感じなんだろうね」



この暗さに慣れたのちに入ったこの光景を一言で表すなら…まさに”遺跡”だ。

全体的に石でできている内装は古臭さを思い起こさせるし、ところどころに生えている苔も”遺跡っぽさ”を加速させた。

天井には半球型の窓ガラスが設置されており、そこから届く光が施設の中央を照らしている。ちなみに俺の作った車もそこに置いてある。

ずらりと並ぶ書架は天井まで届き、そのすべてに書物が詰め込まれている。ところどころの本が色褪せているようで、長くそこから動かされていないことがうかがえる。

壁や柱には、誰とも知れない人物の彫刻が彫られている。まるで小学校にあるような校長の銅像のようで、悪戯心が少しだけ湧いた。まぁ何もしないが。


空からの光でライトアップされている車の元に向かうと、そこには人影が…無い。

キサラギもミコもどちらもいない。既に探索でもしているのだろうか?



「うわ~、車すごいことになってるねぇ」

「そりゃあの扉を無理やり開けたんだもんな、こうなるわ」



俺が降りる前から割と穴ぼこではあったが、今の姿はそんな物ではない。

フロント部分はほぼ全損しており、エンジンが丸見えになっている。ヘッドライトなんかはもう無い。

ボディ全体はいびつに歪み、塗装が剥げていて、その上前輪のタイヤはパンクしている。エアバックも作動しているし、この車はもう駄目そうだ。



「物理バリアは使わなかったのか?」

「いえ、”使った上で”この状態になりました。使っていなかったら爆発して終わりでしょうね」

「わかってんならちゃんと扉開けろや…」

「マスターキー(物理)を使っただけです」



駄目だこのAI、だいぶ脳筋寄りになってしまった。いつの間にこんな子に育ってしまったんだろうか…?


使い物にならなくなってしまった車は作り直すかと思い、【クリエ】にて新しい物を出す。壊れた方は消しておくことにした。

今回は異世界カスタムを最初から載せてある為、壊れた方とは違い耐久力もあるし武装も積んだ。具体的には【レールガン】を機構に組み込んである。これで急に攻撃されてもシャルが操作して撃ち返せるはずだし、この【レールガン】だって元のままの性能じゃないカスタムを組み込んだ。

バリア機構も組み込んであるし、大丈夫…大丈夫なはずだ。”不測の事態”さえなければ。


細かい調整が必要だった為に疲れが溜まってきた。ここから調べものをする気力は無いな…あとで一度ログアウトして休もう。

その前に一度キサラギとミコに挨拶をしておかないとな。



「んで…肝心の乗客はどこに?」

「…一応足跡があるね。右の方向に向かったみたい」

「あいつらを追ってもいいんだけど、一度行動指標をすり合わせしておきたいんだよな」

「では、呼び戻しをしましょうか?」



シャルがそう言うと、耳に手を当てて一言。



「マスターがお待ちです。”急いで”帰ってきてください」



その言葉の後、どこかでバタバタとせわしない音が鳴る。ついでにガラガラと何かが崩れる音も。

そんな音はだんだんと近づいてきており、少しずつだが俺の目にも見えてきた。



「…別にそんな急がせなくてもよかったんだが」

「マスターを待たせてしまうAIなんてAI失格ですよ。それに…」



切羽詰まった表情で走ってくるキサラギとミコ。きっとそうでもしないとシャルが怒るということを”教育”されたのだろう。可哀そうに。

そんな彼らの手にはたくさんの本。きっと先に図書館で資料漁りをしてくれていたのだ、なかなか頼りになる奴らじゃないか。

シャルも彼らに対してそんなツンツンする必要ないのにな。



「す、すんません!僕のお気に入りのアイドルの文献があったんでつい遠くまで探しに行っちゃったっす!」

「…スイーツの本が、あったから…」

「このように、私の命令を無視して遊んでいたのですから、鞭というものは必要ですよ、マスター」



…前言撤回。思い描いていた理想とは違い、現実はデパートではしゃぐ子供を叱っているだけだった。

ちょっと期待していた分落胆もそれなりにあるが、そもそも俺たちも旅行気分なので気にしないことにする。



「…シャル、これがお父さんの気分なのか…」

「それはヌイ様に言ってください」

「これも家族サービスって奴だよ、”お父さん”?」



シャルの言葉にニコニコしながら言葉を返すヌイ。

いつか彼らに愛情のような物が湧くのだろうか、と疲れた頭で思った。

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