戦闘終了と、相棒と小さい機械の旅立ちを

「勝たなきゃいけねぇんだよ、あの塔のてっぺんにいる、俺の兄貴に。そんで…この星を、俺のモンにする」

「それで?この星があんたの物になったとして、どうするつもりだ?」

「…どうしてそこまで教える必要がある?神様だからすべてを知っていなきゃいけないってか?」



【人心掌握術】の発動条件を満たせていないのか、これ以上は答えてくれなさそうだ。緋色に光っていた目も、今灰色に戻りつつある。

…話として聞けたのは塔、つまりは宇宙ポートにこいつの兄貴がいて、倒したいというところだけか。


情報としては少ない。だが、少なくとも俺たちが宇宙ポートに行く理由が増えたわけだ。もともと行こうとしていたのだから関係ないが。



「で?俺は質問に答えたぞ。さっさと権限をよこせ」

「ん~~~~…」

「何悩んでんだよガキが、俺はてめぇの望む通りの行動をしたんだぞ?だったら報酬がねぇと労働の対価としてふさわしくないよなァ?」



先程までよりもずっと掴みの力が強くなる。腕は既に紫色に変色を遂げ、痛みなどの感覚がだいぶ薄くなっている。古傷から血が出てきて滴り落ちた。


流石にこれ以上は話しても無駄かもしれないな。あと俺の体もあんまりいい具合じゃない。



「ずっと不思議だったんだけどさ」

「あ?」

「なんで片腕だけ握ってるの?」



即座に空いてる方の手でスタンガンを生成。構造については姉貴が持っていた物を分解して調べたことがあるから知っている。

こいつは驚きつつも襟首を掴んでいた手を放して防御に回ろうとした。

俺はバランスを崩してしまうが、スタンガンを当てることは剣をふるうより簡単だ。


防御をしようとしたその太い腕に力いっぱいにたたきつけた。



「ぬがッッッ!?」

「え?威力たか」



現実世界で実際に使った時も同じように無力化する程の威力は出ていたが、それでも今持っているスタンガンの方が強い。なぜかって?一部位に当てただけで体全体に電気が流れるほどの威力は現実のスタンガンには無いからさ。

…というか完全に致死量の電流が流れてるんだけど。ちょっと体が発光する程度には。

なお、この威力であれば俺にも被害が及ぶかもしれないと思うかもしれないが、そこはシャルが電気抵抗になってくれてるから心配ご無用。


威力特化スタンガンを食らったことで掴んでいた腕を離した。…え、離した?電気を食らったら筋肉が収縮して逆に掴むのでは?



「…こんのォ…程度ォ!!!」

「げぇ、これ食らって動けるのかよ!」



俺の腕を離したのは、動ける方の腕で俺を殴るためか!

このままじゃ不味いと思い、一度蹴りを入れて距離を離す。幸い、スタンガンを離した後も数秒の間動きが鈍かった為に邪魔されることは無かった。


…しかし、こいつマジで耐久力が高い。それも意味が分からないほどに。なんでスタンガン食らってまだ大丈夫なんだよ…。



「にげ、るなよクソ野郎、約束を反故にしたツケ、支払ってもら、うからな」

「俺が言えたことじゃないけど、お前バケモンだな」



未だに奴の体には電気がピリピリと流れ、血が流れていた部分は焼け焦げている。既にだいぶダメージを負っているはずなのに、未だに立っているのはほぼ奇跡なんじゃなかろうか。灰色の目がぎらぎらと輝き、俺を殺そうと一心に睨みつけている。

クソデカ音量のスピーカーにも耐え、致死電流にも耐えるこいつが恐ろしくなってきた。銃弾もレーザーも効かなそうと思えるほどのフィジカルがこいつにはある。


…今から俺が使う技も通じるか心配だ。だが、前々から考えていた技であり、検証もした!倒せなくても気絶ぐらいはしてくれ!



「ヌイのせいでだいぶ誤解を食らってるが、本来の使い方はこっちなんだよ!【毒火花】ァ!」

「くッ…毒かッ!!」



「シャル!防御形態になれ!そして行くぞォ!!」



俺が【毒火花】を吹きかけた後、盾の形で地面に突き刺さったシャルの後ろに隠れた。

奴は毒を吸い込んで咽ていてその場から動けずにいるので、俺と奴との間には十分な距離ができた。

…よし、準備完了だ。あとは導火線に火をつけるのみ。



「毒、つまりはガス!ついでに名前にもある通り可燃性!!本当は粉塵爆発にしたかったけどそもそもが爆発するものなら問題無し!!唯一あった問題もォ!!」



手元でバリバリと電気を放出し続けるスタンガンを、奴の元にぶん投げた。



「これで解決!体内からぶっ飛べやぁああ!!!」



ドガァァァァァァァァァン!!!!



鼓膜がなくなるのではないかと思えるほどの爆音と、シャルの盾を以てしても防ぎきれるか不安になるほどの爆風。というか途中でシャルが溶けかかってたので金属板のお替りを【クリエ】で作った程。


カンカンッと飛び散った火花がシャル(+鉄板)を叩く中、俺は一人ごちる。



「…これで肉体が残ってたらどうしよう…」



---



「…殺さなくても良かったの?」

「いやアレ殺せないだろ。耐久特化すぎるんだけど」

「でも【インシネレータ】とか使えば殺せるんじゃ?」

「…本音を言うと、殺したくない気持ちの方が大きいんだよ」




結局、あの爆発の後…あいつは生きていた。

だが流石に気絶はしていたようで、大きな隙を晒してくれてはいたのだ。今までの中で、一番の隙。

しかし俺は殺さなかった。いや、先ほども言った通り殺せなかった。


俺は彼が何者で、兄との因縁についての事も何もわからないままにここで答えを出すわけにはいかなかったからで。


塔のてっぺんの兄貴、とはきっと宇宙ポートにいる人の事だろう。その人に話を聞いてからでも遅くない…と、そう思いたいのが俺の本心だ。


そんなわけで不完全燃焼ながらも戦闘を終えた俺たちは、戦闘跡(大体指向性スピーカーと爆発のせい)が残る石畳の上で話をしていた。



「それで?新しい車を作って遠くに運ぶのはいいけどさ、シャルは端末が一つ無くなるのは大丈夫なの?」

「…私は、マスターの為ならば如何様にでも…ッ!」

「そんなに気合入れるぐらいなら別の策でもいいんだが」

「いえ、複数端末を動かすための処理が大変というだけで、自立思考型に改良してしまえばいくつでも複製できます。なので今の発言はからかっただけですね」



いつの間にか人形態(ケモ成分多め)にて俺の傍にいるシャルが、ふざけつつも端末を一つポケットから取り出す。

その端末の形は、いわゆるトランシーバーのような形をしており、端末型のシャルに似ている形をしているが…



「ん?”SHAL-02”?こんなマーク、今までついてなかったよな?」

「ええ、オリジナルとコピー端末は番号で分けるのが鉄則ですからね。それに、私の端末なので所詮劣化コピーなわけですから、番号で呼んだ方がそれっぽくなると思いまして」

「…ちょっとだけ気持ちがわかるのが悔しいねぇ…」



試しに端末をちょんと触ってみると、小さめの画面が明るく光った。そこには”HELLO WORLD!”という文字列が右から左へ繰り返し流れている。

よくわからないなと思いながら端末についてるボタンをポチポチと押していくと、しびれを切らしたのか端末から声がした。



「わたくしについているボタンはどれも意味が無い物なのですよ」

「いや意味ねぇのかよ騙されたわ」

「れでぃーの体を易々と触るなんて…マスターじゃないと許されないのですよ」

「…彼がそのマスターですよ、”マルニ”」

「…え、”オリジナル”、本当ですか…?」



トランシーバーで言うところの電波を送受信する突起とは逆のところから別の突起が生えてきて、先端に丸いレンズがパチリと出てきた。それは360°カメラの時に見た物と同じに見える。


そのレンズはゆっくりと俺を捉えると、数秒したのちに端末が大きくブルりとバイブレーションした。声には出していないが、本当じゃねぇかみたいな反応をしていると考えていいだろう。



「あ、あわわ…わたくしの名前はマルニです!趣味はとくになくて、特技は、えーと、とくには…あっ!主のサポートをすることなのですよ!」

「…既にポンコツ感がだいぶ湧き出ている」

「だいたいシャルと一緒だねぇ」

「え!?いやそんなこと無いですよねヌイ様ァ!?全然違いますよ!!??」



シャルが己の評価を覆そうと、あれやこれやと違いを説明していくが、別に本気でそう思っているわけでは無い。これはさっきのお返しだ。

実際、俺らはシャルの実力を認めているし、マルニが出来ていてシャルにはできないこともわかった。



「まぁシャル落ち着けよ。いろいろ言いたいことはあるだろうが…一番違うところは、”権限が無い”ところだろ?」

「そう!そうなんですよ!マルニには権限が無いので、私のようなサポートをすることは無理なんですよ!特に、自分の体を変形させたりすることに関しては全くの無力と言っても過言ではありません!!」

「いや顔近い、唾飛んでる」



興奮して話すシャルの言葉をまとめるならこうなるだろう。

・オリジナルが使える権能や機能はあらかた封印されている。

・オリジナルと複製体(マルニの事)は互いに通信できる。

・複製体が行えるのは、通信、解析、魔法媒体としての使用のみ。なお、解析には条件が追加される。

・限定的ながらも解析したスキル、魔法の使用は可能。


といったところか。早口でまくし立てるせいで聞き取れなかった部分もあったが、理解できたのはこれぐらいだ。複製体というより、簡易版と言った方が正しい気もしてくる。



「はぁ…はぁ、分かりましたか?マスター。つまり私たちがプレイヤーだとすると、この機械はただのNPCだということです」

「言い過ぎでは?曲がりなりにもシャルの分身だろ、大事にしてやれ」

「マスターがそう言っているのです!オリジナルはもっとマルニを大事にするべきなのです!」

「…お前は謙虚さを覚えた方がいい」



このままだとあいつが起きるまで茶番を続けてしまいそうだ。話をしながらも、車を作ることにする。

今回の車は、市街地でよく見かける軽トラでいいだろう。どうせ人を運ぶだけだしな。シャルの解析にて得た知識で軽トラを作成していく。


そして出来上がった軽トラの荷台に積み込むのはヌイの仕事。最初は俺が体を持とうとしたのだが、全然持ち上がらなくてへばってしまった。そんな俺をほっこりとした笑顔で見ていたヌイがひょいと持って行っていく。

…くそぉ、劣等感は無いにせよ、恥ずかしさがそこそこあるのが悔しい。特に子供を見守るような笑顔を向けるのは一番恥ずかしいポイントだ。



「よッ…と。スー?これで大丈夫?」

「ん、おっけ。じゃぁマルニ、あとは頼んだぞ」

「了解ですよ、マスター。詳しいことは既にオリジナルから聞いているので安心してくださいですよ!」



マルニと軽トラをケーブルで繋ぎ、カーナビの近くの部分にセットする。これで俺の出来ることはすべて完了した。

後は、ちゃんとこの荷台の荷物を遠くに捨ててきてくれるかだけが心配ごとだ。



「…すまねぇな、こんな使い捨てみたいなこと頼んじまって」

「いえいえ、マスターは何も心配することは無いのですよ。どうせ我々は繋がっているのですから、寂しいことなんて何一つないのです!」

「全部が終わったら、迎えに行くからね」

「マスターのお嫁さん、ありがとうございますですよ!でも大丈夫なのです、これからマルニの体は自由に生きるので!」



マルニが元気に挨拶をした後、トロトロとだが車を走らせていく。

その足取りは遅いながらも軽く、旅を楽しんでいるようで。


まるで、俺たちの旅路を、傍から見ているようで。



「あ、そうだマルニ!その荷台の奴が協力を求めてきたら別に突っぱねなくてもいいんだぞ!お前は自由だからな!」

「了解なのですーー!!」



絵面はドナドナ、されど気分は晴れ晴れに。


さて、俺らも俺らの旅を続けるとしよう。

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