第8話 窺見の報告
楡と梛は円卓の間で、火燈から戻った窺見《うかみ》の報告を聞いていた。
「というわけで、火燈の元帥が地下牢へ投獄されました。双子の王の気まぐれで、いつ釈放されるかは不明ですが、しばらくの間はこのままでしょう」楡はその報告に眉を寄せた。
「世界一の武将と謳われた元帥を…愚行にもほどがあるね」
「はい。火燈の街にも動揺が広がっております」
「動揺か。梛はどう思う?」
「そうですね。動揺して噂が大きくなったとしても、今現在あの国にいる者たちは、暴動を起こすこともないでしょう。なぜそこまで悪政に耐えられるのか、些か不思議ではあります」
「その点につきまして、宜しいでしょうか」窺見が梛の方を向いた。
「何かあるのか?」
「はい。実は火燈の民の間で、噂されている事があります」
「噂?どんな噂なんだい?」楡が興味深そうに聞いた。
「はい。火燈の源である炎が、王の善悪を判定し、悪政を敷く王は炎に飲まれると言う噂です」
「んー、そういった類いの話は、各国にあるね」楡はお伽話が今更何になるのかと、首を捻った。
「はい。しかし先日、双子の王の取り巻きの2人が立て続けに焼死したのです。その2ヶ月前には、双子の王が建てたばかりの工場が全焼しました。どれも原因は調査中とされており、未だ発表等はありません。そのため街の者は、源の炎の噂を信じ始めています」
「なるほど。本当に炎の判定が下ったからなのか、正体不明の誰かが起こした事なのか、民にとっては、どちらにせよ悪政の終わりを予感させる事件として映ったのでしょう。そして実際それらは偶然ではなく、共通する何かがありそうですね」梛は興味深そうにそう言った。
窺見の報告は続く。
「双子の王は、我が国へ進軍するために、新たな兵器を作り始めています」
「新たな兵器?」
「はい。無人で動く、大きな鉄の鎧です。現時点で10体を確認しています。そして、それを動かすために、動力の魔法が使える者を複数名集めています」
「動く鎧とは、なんとも火燈らしい武器だね」楡はそう言いながら、動く鎧の想像をする。頭の中で、昔遊んだブリキの兵隊が、隊列を成して歩いて行く可愛らしい絵が浮かぶ。
「王、集中してください」梛が咳払いをした。
「え?…ああ、えっと、すまないね。報告を続けてくれ」
「いえ、報告は以上となります」
「そうか、ありがとう。また火燈にもどるのかい?」
「はい。また新たな情報を探ってまいります」
「ありがとう。期待しているよ」窺見は楡に向かって一例すると、静かに部屋を後にした。
「さて。火燈は、すぐにでも攻めてくると思うかい?」
「ひと月のうちに攻めてくると考えられます」
「根拠は?」
「王と同じだからですよ」
「…ん?どうゆう事」
「ブリキの兵隊を動かしたくて仕方ない」
「あー。なるほど」
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淡雪の降る中で きゆ @yuzkiis
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