うまきとりをやくすべ

よにでしひとのつとめにかひなどもとむることもあれど、おほくのひとのつとめにさほどのかひもなく、つとめののちにさけなどのみつつうまきしし、さかななどくひたるこそうれしからむ。

ことにわがつとめなどは、さだめにしたがひてみぎよりこれとつげられしことをひだりによだけきふみをもてつぐことばかりにて、なんのかひのあるにや。


世に出し人の勤めに甲斐など求むることもあれど、多くの人の勤めに然程の甲斐も無く、勤めの後に酒など飲みつつ旨き肉、魚など食ひたるこそ嬉しからむ。

殊に我が勤めなどは、定めに従ひて右よりこれと告げられしことを左に弥猛き文を以て告ぐことばかりにて、何の甲斐の有るにや。



さようなるつとめをおへにしときには、とくやにもどりてさけをもちて、ししをやきてはむにほかなし。さりとてわれのごときつとめびとにうし、ひつじなどのつひへのおほきものはもとめがたければ、とりなどよし。


左様なる勤めを終へにし時には、疾く家に戻りて酒を持ちて、肉を焼きて食むに他無し。さりとて吾の如き勤め人に牛、羊等の費への多き物は求め難ければ、鳥など良し。


とりをやくにはまづししをひむろよりもてきて、しほをよくよくすりこむべし。ししのうちつめたければすなはちうちのあつくなるまでやかばそとかたく、そとやわらかきほどにやかばうちやけず、くはばたちまちにはらのほどあしくなりぬべし。

うちぬくくなりしとりは、きっとかはをばしたにしてやくべし。みからやかばいとかたきししにとぞならむ。

からのくにのもの、たみしよくをもててんとなすといふ。むべなるかな。ひびのくらしうしとても、あじのよきものあればたのし。


鳥を焼くにはまず肉を氷室より持て来て、塩を能く能く擦り込むべし。肉の内冷たければ即ち内の熱くなる迄焼かば外固く、外柔かき程に焼かば内焼けず、食はば忽ちに腹の程悪しくなりぬべし。

内温くなりし鳥は、きっと皮をば下にして焼くべし。身から焼かばいと固き肉にとぞならむ。

唐の国の者、民以食為天と言ふ。むべなるかな。日々の暮らし憂しとても、味良き物有れば楽し。

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古文風にすればなんでも雅になるかの検証 鯖虎 @qimen07

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