坂道、或いは記憶

TARO

坂道、或いは記憶

過ぎ去りしまつろう人に面影のひぐらしの鳴くアスファルトこえて


真夜中に息を切らせて走り出す行方の先に漆黒の闇


防波堤君の姿が青空に風はしらせて陽光ひかりよ燃えて


夕暮れの足取り重き切り通し武蔵野の空帷を落とす


短音のピアノの音がどこからか夕餉の前の瞬く灯


足音が聞こえる窓の向こうから踵を返しノックの音が


日傘差す人の行方を目で追いつ割れた硝子の理科実験室


霞立つ彷徨い歩きビル群の金属音に似た笑い声


逆光のどしゃ降りのなかさかしまのこちらに向けて笑う向日葵


陽炎かげろうの道の上にはとび跳ねる銀色のアジまだ生きている



暁のコンクリートに朋輩ともがらの今はなき影ぞ懐かしむ


思い出の君の視線のその先に路傍に咲し白い紫陽花


めずらしく君の歩みを引き留める向かい合わせのカミーユ・クローデル


十六夜の夢の目覚めの無意識にメロン風味のアイスクリーム


灰色の空に映せし帰り道枯葉が舞って頬を掠める


紺碧の虚空そらを見ないで月はどこ星はどこかとただ言ってみる


根の国の掟を破る我が良人おっと返さじと哭く黄泉比良坂


ひたすらにクレヨン握りかきなぐり画用紙を見て張り付く笑顔


当て所なく宙を見上げる警官のレインコートに水滴落ちる


ありし日の人を思えば地下鉄に吸い込まれゆく群れかき分けて


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