第2話 魔女

 町をぶらついていると何やら辺りが騒がしい、騒ぎの中心に行ってみると大勢の人々が逃げ惑っていた。こちらに向かって逃げてくる人に声をかけるモルテ。

 「何かあったんですか?」

「魔女だ!!!魔女が現れて街がめちゃくちゃに……!!お前も早く逃げろよ!」

 そう言うと聞き返す暇もなくどこかへ行ってしまった。

 先ほどの騒ぎとは打って変わって当たりが静かになりだした。恐らくこの町にいるのは魔女とモルテだけなのであろう。他の住民は全員逃げたかあるいは…………

 そう考えていた瞬間、轟音が上がる。火柱が立ち昇り当たり一面が焼け野原と化していた。

 モルテもその火柱に巻き込まれたかのように思えたが、今の彼は氷神だ。効くはずもない。

 そこに人影が現れる。それは若い女性だった。全身から火を噴き出している。

「あなたが魔女?」

 とりあえず尋ねてみるモルテ。

「巷ではそう呼ばれているみたいね…….あなたも早く逃げて……私が全てを焼き尽くしてしまう前に……」

 危なげな発言だが歴戦の戦士であるモルテには彼女の状況がすぐ理解できた。

「なるほど。自分じゃ制御できないんですねそれ」

「……っ!!どうしてわかったの?」

「町襲うならやり方がちょっと雑だなあと思ったんで」

 そう言って当たりを見つめるモルテ。

「確かに焼け野原ですけど居住地だけは辛うじて避けているように見えます。頑張ったんですね」

「でもっ!!!でも、私、取り返しのつかないことを」

 彼女は興奮している。暴走してしまったことがさらに彼女の動揺を引き起こし力を不安定にさせている。まずは彼女を落ち着かせないといけない。

「大丈夫。償いは後から考えましょう。今はその力を抑え込まないと」

「どうやっても無理だったのよ!今更どうしろって言うのよ…」

 (実際解決方法ないからなあ…仕方ないか…)

 勇者の力、無効化能力では炎を一時的に抑え込めても継続的に抑止することはできない。モルテにもとてつもない負荷がかかってしまう。

 思考を巡らせていると、ふとある案が思い浮かんできた。無理矢理な作戦だがやらないよりはマシだ。それに彼女をこれ以上暴れさせてしまっては自責の念で一生苦しむことになる。

 覚悟を決めたモルテはーーーーー

 彼女をだき抱えていた。当然彼女から発せられた炎がモルテを襲う。肉が焦げる匂いが当たり一面に立ち込めていた。

「な、なにしてるの!?早く離れて!燃えちゃう!!」

「出会ったばかりの男がこんなことしてすみません!穏便な方法であなたを拘束する方法がこれしかなくて……それに直接触れないと権能の受け渡しできないみたいなんで」

 そう言うとモルテは自分の体内から引き出したものを彼女の体に押し当てた。すると、それは彼女の体に入っていく。その瞬間から炎が少しずつ収まっていき、やがて完全に鎮火していた。

「なにをしたの…….?」

「ほんとすみまさん、あなたを面倒ごとに巻き込んでしまいました」

「面倒ごと…….?」

「あなたは今日から氷神やってもらいます」

「はあ?」

 

 

 

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氷の記憶と不滅の者 たなみた @tanamita0213

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