補助金と小説
榊 薫
第1話
「文章を書けば返さなくて良い金が手に入る」。技術立国と呼ばれていた時代が終焉を迎え、研究開発はやる気のある文章を出したところに補助金が支払われ、生き残れる力量が必要な時代となっています。各種の補助金の中には3/4補助返済不要などもあり、その数は年間数千件もあります。近年、政府の景気回復策の一環として、2~3倍程度の倍率で採択されるといわれています。
一方、文芸誌などが主催する小説の新人賞の場合はどうかというと、競争倍率はどうやら数千倍のようで桁違いに狭き門です。補助金に応募する方が遥かに採択される可能性があるので、分野の異なる小説の技量を取り入れることで力量を高め採択されるものか、補助金で採択されてきた優れた提案の審査必須事項を眺めて、優れた小説の審査と比較して見ました。
補助金申請には、独創性や新規性が必要です。たとえ過去に前例がなく極めて独創性のある新規なものであっても、審査員の視点の範疇にある、過去から引き継がれてきた信頼のおける技術的または科学的評価に耐えなければなりません。いかに有効な評価を得ることができるのか、審査員の判断の枠内に収まるように、前例がなくて見えない中から枠に合わせて将来性を説明する資質が求められるようです。
小説の場合、登竜門「新人賞」では、一次選考・二次選考・最終選考と段階を踏んで多くの人の眼を通して選考していくようです。HPにあるK社の審査の場合、「重視しているところ」を見てみると、編集者によって小説の読み方は違うようですが、単純に面白いか、オリジナリティを持った作品か、といった全体像が第一で、作家としての資質・将来性もある程度範疇に入れるようです。ということは、補助金審査でも独創性のある新規なものが優先し、将来性を暗示させるという視点では共通しているようです。
小説は著者ならではのオリジナリティ・視点のユニークさ、キャラクターの魅力のほか、読んでいる最中に、感情に訴える瞬間があるかどうかも大事な視点のようです。読みやすさはもちろん、共感性の高い表現やリズミカルな文章かどうか、小説が面白く、読者を楽しませてやろうという「オリジナリティ」が重視されるようです。一方、補助金審査で例えば、利益を目標としたシステム構築や運用では、戦略の知識力、利益を生み出すための秀でたポイント、付加価値を稼ぎ出す新たな着眼点、ムダを削り取る方法などに訴えるものがあるのかに相当するようで、具体的に掘り下げると差異がありそうです。
補助金と小説の審査基準をさらに詳しく眺めて見ると、前者は、一般的・常識的で面白くもない知識や着眼点を基にした根本原理を解きほぐしながらオリジナルな新展開を魔法のように生かすことに繋げる面白さを示すのに対して、後者は直接的、間接的に面白くオリジナルな言い回しが大半の読者の感情を引き付けるところにあって、訴える中身は明確にせずに読者にお任せのことが多いようです。どうやら展開の仕方や審査の詳細な判断基準には大きな違いがあり、この点で残念ながら到底共通できない別世界のように思えてきました。
一般的に、補助金審査は自己評価では満足度80%で安心していると、実際の審査では60%程度であることが多いようです。ということは、自己採点で80%以上に至らなければ、時期尚早と考えるべきです。日ごろから、いざという時に備えて対処できるように心掛け、応募前にある程度、筋道を立てて結果の目鼻をつけておく必要がありそうです。
ものづくり基盤技術の向上につながる研究開発、その試作等の取組を支援する補助金に採択された企業とそうでない企業との提案内容を比較して見ることにしました。
新規性(自動化、省エネルギー、省スペース)については、採択された企業もそうでない企業にも提案記載があります。しかし、独創性(特許・ノウハウ性)は、採択された企業の80%以上に記載がありますが、採択のない企業では50%未満です。先進性、波及効果の技術レベルの高さについて、採択された企業は100%であるのに対して、採択のない企業では20%と低いです。
生産性向上・最適化については、採択された企業は100%記載がありますが、採択のない企業では60%です。他技術・産業への波及は採択された企業が100%であるのに対して、採択のない企業は60%です。川上・川下企業との連携については、採択された企業は70%であるのに対して、採択のない企業では川上・川下企業への依存度が高く100%が記載しています。
複数の中小企業との連携については、採択された企業は約70%が行っているのに対して、採択のない企業は10%未満です。力量のある企業は、力量のある企業と日頃から付き合いがあり、連携がすぐに取れるようですが、力量のない企業では力量のないところ同士の付き合いしかなく、ますます強くなれないことを示しているようです。
革新性(科学的解明・技術や技能のデータベース化)は、いずれも記載がほとんどなく、採択された企業がわずか10%提案する程度です。このことは、申請提案されるものの多くが、科学理論の裏付を表現することが出来ていないことを物語っていて、新たな理論の構築に基づいた新技術が生み出せないため、現在の日本の技術力が衰退を招いている原因の一つであるように思われます。
以上のことから、採択のない企業で大きく不足しているのは、先進性、波及効果の技術レベルの高さ、複数の中小企業との連携、独創性(特許・ノウハウ性)であることがわかりました。これらの記載内容が十分埋められないとすると、補助金申請は時期尚早のようです。たまたま、景気回復に便乗して採択されたとしても、どうやら、技術力の格差は簡単には埋められないようです。
補助金採択されるためには、小説の特長の一つである感性への働きかけが直接生かせるものではなさそうですが、AIによる武力紛争解決策やエントロピーを増大させない地球温暖化防止策といった奇想天外で魔術のようなオリジナルな小説の発想と技術をヒントにしながら三題噺のように連想して、原理を掘り下げ、独創力・先進力を発揮して補助金申請することの意義は極めて大きいようです。
補助金と小説 榊 薫 @kawagutiMTT
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