底辺だったからこそ、這い上がろうとする転生少女の物語。

魔物の大量発生により故郷を去らねばならなくなった少女リルは、当初から理由は不明だったが両親に疎まれ煙たがられながらも、必死に毎日を耐え抜いて生きてきた。

そんな少女が、ふと前世の記憶を取り戻し、今生では『無駄に生き無駄に死んでいく』のは止めにしようと、難民の集落で周囲の信頼度が殆ど無くなっている危機的状態から、まず信頼を取り戻そうと立ち上がる。

難民の集落で信頼関係を築き、領主の取り計らいで町へ入るための資金を貯めて行き、冒険者になることを志して行く。地道だが堅実な努力が垣間見えて良い作品。

町に入る資金と冒険者登録の費用を町の外だけで稼がなくてはならないが、その指針となる金策を領主が周到に用意してあり、あとは本人のやる気次第ではあるものの、リルは着実に仕事を熟して行き、ついには町へ入る資金と町に出入りするための許可証でもある冒険者登録へと漕ぎ着ける。

それからはひたすら資金を集め、町への移住、すなわち難民からの脱却を目指して行くのだが、肝心の冒険者のランク上げが本当に地道でぽんぽん上がらないのは程よい塩梅だと感じられる。

誰しもが思い浮かべる魔物の登竜門であるスライムにも、事前に情報をギルドの図書室で調べ慎重に油断無く攻撃を加えて行く様から、リルの魔物と対峙する際の慎重さが窺える。当人の性格ゆえとも取れるが、殆どの冒険者が図書室を利用していない様子が随所に垣間見えるため、その小さな情報という糧が積み重なって、他の冒険者とはまた違った成長過程を経て行くようで面白みがある。

魔物を討伐することは命のやり取りなのだから、当然慎重に事を運ぶべきだと考えられるのは当たり前。逆は、その脅威を軽視している者か、村や町に現れたはぐれの魔物を一、二体ほど相手にした事で知った気になってしまう者と考えられる。

故郷を去らなければならなくなった原因である魔物に対し常に警戒し、戦いの術を身に着けていくリルは油断無く相手に出来る数や接敵する地形も視野に入れ、考えて戦闘をして行くスタイルは素晴らしいと賞賛する他ない。

冒険者になりランクも上がり、貯蓄も増え、難民の集落での信頼も取り戻したリルは、次第に将来の事を悩むようになる。町に拠点を持つ、つまりは住居を構えることを目的としていたのに、このままで良いのだろうか、と。

何時からか難民の集落に愛着が湧いており、リルを置いて行った両親も居らず、日々を快適に過ごせていることで、かつて出て行こうとした難民の集落は彼女にとって離れ難い居場所へと変わっていた。

モヤモヤとした心情を抱えながらも、商人の護衛依頼を受け、その過程で自身の葛藤と向き合う事で、集落への食糧配給から冒険者ギルドへの登録に至るまでの一連の対策を講じていた領主への恩と感謝から、領主が居を構える町へ行き、何か恩返しになる事が出来るように頑張ろうと一心発起する精神の成長も窺える。

まだまだこれから始まり、色々と発展して行く可能性を感じさせる、自分にはその様な作品に思えました。レビュー長いなと自分でも思うのですが、それだけ熱中して一気に読み進められる内容であり、これからも読んで行きたい。個人的には、今年見つけた作品の中でトップです。

魔法に関しては、恐らくこの先にコツコツ伸ばして行くのだろうと思われますので、そこも気長に楽しみにしたいところ。

一歩一歩を踏みしめたい。そんな作品を読みたい方にオススメです。