転生難民少女は市民権を0から目指して働きます!

鳥助

第一章 転生難民は冒険者を目指す

1.親は敵

 ある日突然、10才の私に前世の記憶が生えてきた。


 ふと、意識が戻るとおぼろげな前世の記憶を思い出したのだ。普通の会社員として働いていたもので、楽しみのない人生だったと思う。ただ毎日を無駄に消化していく日々に思い入れもない。


でも、それだけの記憶。その後どうなったのか、どうやって死んでしまったのかは分からない。ただ、私に無駄に生きていた前世があったことを思い出した。


 土の上に枯草を敷いただけのベッドの上でだ。


(できれば思い出したくなかった)


 深い溜め息を吐く。無駄に生きていた記憶なんて思い出したくない、今との落差がありすぎて辛くなるだけ。だって、今の私の生活はド底辺の中のド底辺だから。


 まずは私が置かれた状況を整理しよう。私は何者か、難民だ。難民にも色々いる、戦争で故郷を追われた人、魔物の暴走(スタンピード)で故郷を追われた人、災害で故郷を追われた人、税金が払えず故郷を追われた人などなど。私の場合はスタンピードだった。


 物心ついた時には難民集落で私は暮らしていた。もしかしたら、ここで生まれたのかも知れないが詳細は不明。ただ親がスタンピードで故郷を追われ、この集落に流れ着き、そのまま暮らすことになったらしい。


 なぜ、私がそんなことを知っているのかというと……親が頻繁にそんな愚痴を私に言って聞かせたからだ。しかも、時々鬱憤を晴らすかのように殴られもするから精神的にも肉体的にもきつい。今の境遇に悲観するのは分かるが、私に当たらないで欲しい……なんて理不尽なんだ。


 スタンピードで滅んだ町の生活はいいものだったのだろう。こんな町の中にも入れないド底辺の中のド底辺に移り住み、心が荒むのも分かる。だが、ずっと荒み切っているだけで現状を変えようとは思わないのだろうか。何年も経っているのに、我が家庭内の状況は好転はしていない。


 これからは違う。今までの私は親に恐怖して怒らせないように黙って家にいるか、外で暇をつぶすだけの日常だった。私も悲観しすぎて何も行動を取っていなかったが、前世の記憶も生えてこうしちゃいられないと強く思った。単純に生活の落差がありすぎて我慢できないだけだけどね。


 大きな目標はまだ分からない。でも、小さな目標ならたてられる――生活向上だ。


 仰向けに寝そべっていた体を起こして自分の体を観察する。土ほこりまみれの体、配給されたボロボロの七分丈のシャツ、配給されたボロボロの長ズボン。肩を越したくらいの長さの茶髪に茶色い目。これが今の私の姿。


 衣服は配給があった時くらいしか手に入らないので、こればかりはどうにもできない。後は自分で稼ぐしかないのだが、そこまで重要ではないので後回しにしておこう。


 薄く敷いた枯草が私のベッドだ、地面と変わらないがあるだけましだろう。隣を見ると明らかに私より枯草が盛られている寝床がある、これが両親のベッドだ。私は地面を覆うだけの量なのに、この扱いの違いが悔しい。


 いっそのこと木のベッドを作ってみたらどうだろう。いや、あの両親のことだ……作ったら作ったで壊すか横取りくらいはしてきそうだ。もし、自分のベッドが欲しいならば両親のベッドを作ってからになる。そんな労力を両親にかけたくないので、寝床は草の補充だけでよさそうだ。すぐにもできそうだね。


 最後に食事。食事は一日二回、朝と昼に配給されるが貰えるのはどちらかの一回だけ。難民集落の女衆が作ってくれていて、二回受け取りに来ないかと目を光らせている。もし、二回受け取りに行った時は他の難民から袋叩きにされるから誰も行かない。


 食材は月に一回領主さまから配給される。そう、我々は見捨てられていないのだ。近くの町から食材が運ばれ、難民集落の倉庫で厳重に保管されるみたい。盗んだりしたら袋叩きじゃすまないかもね。


 でも、一日一回の配給じゃ物足りない。物足りない人は森に入って食べ物を探したり狩りをしたり、三十分歩いた先にある川で食べ物を探したり狩ったりしている。私も食べ物を探しに行かないとダメね。力をつけないと何もできない両親みたいになっちゃうから。食糧問題は早めに動いておこう。


 そんなことを思っていると、1DK掘っ立て小屋(我が家)の外から両親が帰ってきた。その手には配給されたスープと小さな芋を持っているけど、自分たちの分しか持ってきていない。その両親が虚ろな目でこちらを向く。


「ちっ、死んでたんじゃねーのかよ」

「早く死んでくれたらいいのに」


 はい、この通りでございます。舌打ちをして、すごく嫌そうな顔をされました。肉親の情とかはないですね、ひたすら鬱陶しがられている実子です。


 小さな頃はここまで酷くなかった。強い喪失感で無気力だった両親は私のことはほったらかしにして寝て、起きて、配給を食べて、ボーっとするだけ。


 だが、数か月前からだろうか、両親が私を罵り叩き始めたのは。どんな心境の変化があったのかは分からない。私の知らないところで集落内で何かあった可能性もある。私にとって唯一の味方である両親が敵となり、人生がハードモードになってしまった。


 両親は私がいる部屋とは違う部屋に座り、ズズズッと音を立ててスープを食べ始めた。良かった、今日は殴られずにすんだ。多分、食事を持っていたから手をだせなかったんだろうなぁ。


 そんな両親の背を見ながら私は立ち上がった。昼の配給が始まったのなら、早く取りに行かないとなくなってしまう。私は部屋の隅に置いてあった椀を取ると、そーっと出入口に移動する。


「行くんなら早く出ていけ、目障りだ!」

「もう戻ってこなくていいわよ、煩わしい」


 移動するだけでこれですよ、もう。私だって帰りたくない、だけどここしか寝床がないんだから仕方ないじゃん。言い返したい気持ちをぐっと堪えて外に出て行った。

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