私が散髪をしなくなった理由
クライングフリーマン
私が散髪をしなくなった理由
私は、父が亡くなってから、散髪屋に行くのを止めた。
いや,正確に言うと、亡くなってから、一度しか行っていない。
「懲りる事件」があってから、行っていない。
「母を最後まで守る」という父との約束を死守する為、と周囲には言っているが、この事件に由来する。
電車に乗ってまで通った、以前住んでいた場所に近い散髪屋で、ド素人の見習いに、洗髪の際に長く「釣り天井」にされた。忘れられていたのである。
店長は、混んでいたから遅くなった、と言い訳していたが。そうではない。
そして、オーナーの理容師のカッティング。「気難しい客」だから、とカッティングだけは、オーナーが担当していた。
オーナーは「カッティングの約束事」を忘れていた。
何度も何度も不愉快な目に遭ったから、「生え際からの均等カット」を止めてくれとお願いしていたのだ。
私の家系は、所謂「くせ毛」である。母も子供の頃、イジメの原因になった。
形成美容か何かの「矯正」をしない限り、部分的に「巻く」のだ。
結果、生え際からの均等カットをすると、明くる日から不愉快な思いをすることになる。理容師は「瞬間」だけを見て、自己満足するが、髪の毛の伸び方等の知識がないのだろう。経験を積んだ技術は、均等カットで、切った後、不平を言うと、「均等じゃないと綺麗じゃない」と屁理屈を言う。
早い話、前髪が、「横山ノックのたこ頭」にしない為には、前髪はあまり切ってはいけないのだ。
オーナーと知りあった時は、この話をしたので、カッティングは部下に任せず、わざわざ店に出向いて来たのだが、「事件」の日、聞き飽きた「屁理屈」を言った。
それから、店を変えてもやはり「同じ目」に遭う日が来るのだろう、と思って散髪をしないことにした。歳を経れば頭髪そのものが薄くなったり、白いモノが多くなったりする。
今は、真っ白で、頭髪も短くなった。それでも、散髪すると、上岡龍太郎氏曰くの「ピンカール」になる。
「年齢的」なものではなく、技術として、そう習ってきたのだろうが、自分が綺麗で無いと思っても、客の望みならば、「切らないところは切らない」が商売ではないのか?
理容師の免許も持つ美容師は、もっと融通が利く。そうは聞いても探す気にはなれない。
膝の関節炎が持病としてある限り、数字分経つのがキツい。軟骨がもう殆どないからだ。だから。もう余程の用事がない限り、電車には乗れない。
昨日、自転車のパンクがあったので、少なくとも今日明日は、出掛けられない。
自転車が、唯一の移動手段だからだ。自動車の運転免許は持っていてもペーパードライバーに加えて病気は大きなハンディだ。
世の中、プライドが無い人は、そうそういない。
理容師達は、忘れている。人形で特訓して免許取っても、自分の相手は人形ではないのだ。
「均等カット」が「絶対美」なら、理容師はロボットにやらせればいい。
女性は、美容院で美容師に頭をやって貰う場合の方が多いだろうから、私の様な「地獄」を経験した人はいないかも知れない。
毎日、鏡に向かって、気に入らない自分自身に悪態をつかずにはいられない、痛みは「理容師の偏屈」には、分からない。
昔、プログラマの駆け出しの頃、理容のデータ管理システムを作ったが、お礼にと切った髪は、「均等カット」で、あの「悪魔の紋章」を髪に刻まれたショックも遠因だったかも知れない。
「衆知」されなければルールではない。一方的なルールに「正義」などない。
「気難しい人間」には、答がもう出ている。
死ぬまで、散髪屋は無縁の職業だ。
―完―
私が散髪をしなくなった理由 クライングフリーマン @dansan01
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