ヤンデレ幼馴染に告白の仕方

ウイング神風

ヤンデレ幼馴染に告白の仕方

 うだるような暑さで目が覚める。

 冷房をつけるのを忘れた僕は、汗ダラダラな状態で目が覚める。今年の6月は暑く感じる。これも地球温暖化のせいなのだろうか? もしそうであれば、この現象を起こした人間は愚かな生き物だ。

 そんなどうでもいいことを考えながら僕は自室から出ると、そのまま階段を降りた。水分を取ろうと、キッチンの冷蔵庫に向かっていく。

 だが、俺は廊下を歩くと異変を感じる。

 モサモサと脱衣所から布を漁る声が聞こえた。

 ……おかしい。今日は、お母さんは用事があっていないはずだ。

 早朝に僕の家にいるのは限られた人間しかいない。

 もしかして、泥棒か?

 そうだったら、身構えないといけない。

 僕は慌てて、玄関から朝の新聞を手に取ると、新聞を丸めて武器にする。

 手ぶらよりは武器があったほうがいいと思っての行動だ。

 僕は脱衣所の前に立つと、武器を構える。

 こくり、と唾を飲む。あまりにも緊張さに僕の足が震えていた。

 もしも、泥棒が武器を持っていたらどうしよう? もしも、泥棒がその武器で応戦してきたら対応できるのだろうか?

 いろんなことをぐるぐると考えながらも、扉にピタッと張り付く。


「……ん?」


 なんか様子がおかしい。

 スーハー、と言う音がする。

 よく考えてみたら、どうして泥棒が脱衣所にいるのかわからない。

 もっと、金になるものを狙い、仏壇や金庫を狙いに行くはずだ。

 もしかして、ここにいるものは……ここみ?


「ああ、藤吉くんの匂いがする。スーハー、いい匂い。クンクン。ああ、ダメになる。藤吉くん、藤吉くん、藤吉くん!」


 中から変な声が聞こえる。しかも、僕の名前を連呼している変態だ。

 そんな変態はもう一人しかいない。

 絶対に彼女だ。こんなことをする変態は彼女しかいない!

 僕ははあ、と長いため息を吐き出してから扉を開ける。

 そこには……


「ふえ?」


 一人の少女が僕のパンツを嗅いでいる。

 少女は栗色の髪に肩まだ長く、後ろ髪には花模様のかんざしがある。輪郭が整った美貌の持ち主。グラスのように青い目は吸い込まれそうになる。高い眉毛に桜色の唇は愛しい。

 そんな美貌の持ち主が残念な行動を起こしている。

 そう、彼女、三浦ここみ、僕の幼馴染は僕の使用済みのパンツに顔を潜らせていた。


「……ここみ、僕のパンツを使わないでよ」

「ち、違うの! 藤吉くん。聞いて! こ、これは事故。そう事故なの!」

「何がなんで、事故になるのかな? ここみ」

「せ、選択しようと思ったら、不意に藤吉くんのパンツが視線に入って、そこで藤吉くんのいい匂いがしたから嗅いだだけだから」

「それ十分変態だから」

「あう……でも、藤吉くんのゴミのような見る目は癖になる」


 モジモジと体を揺らす幼馴染のここみであった。

 僕は長いため息を吐き出すと、丸めた新聞を元の状態に戻す。

 警戒して損した。泥棒だと思ったら、変態が家にいたなんて、思いもよらなかった。

 なので、僕はここみを引っ張り、脱衣所から抜け出す。


「はい。僕のパンツを吸わないの」

「いやん。藤吉くんのいけず」


 こうして朝のハプニングは杞憂に終わった。今日も一日平和な日であるのだ。

 そんなわけで仕切り直し、ここみは朝食を作っている間に、僕は新聞を読む。

 本日の話題は、うわあ、電気代のアップか。

 こうなったら、ちょっとでも節約するために電気の電源でも落とそうかな。でも、電気のブレーカーを上げ下げするのは面倒くさいし、いらないところだけ電源を下げるか。

 そんなことを考えていると、朝食の準備ができた。

 食卓には焼きシャケ、納豆、ご飯、味噌汁。

 和食と言えばザ・和食と言える料理が目の前に広がった。

 新聞を閉じて椅子に置く。両手を合わせていただきます、と僕はそう放つと、召し上がれ、とここみが答えた。


「いつもありがとうな。ここみ」

「ううん。私が好きでやっているから」


 にこと微笑むここみ。思わずドキッとしまってしまった。でも、照れ隠しに僕は顔をご飯の方に集中する。

 すると、僕のスマートヴォッチがピピと鳴り響く。


「ん? 藤吉くんの心拍数が上がった? 朝食に何か変なものが入ってた?」

「な、なんでもないから。ってか、なんで僕の心拍数がわかるの?」

「藤吉くんのスマートヴォッチに私のスマホと連携したの。何が異常あった時にすぐ把握できるようにしてあるの」

「そ、そんな機能消してよ」

「え、ええ。藤吉くんのためを思って連携したのに……」


 ショボーンと、落ち込むここみを見ていると罪悪感を抱いてしまう。

 別にそこまでしなくてもいいのに、なぜ彼女はこうまでして僕を監視するようになったのだろうか?

 子供の頃は僕のことを大嫌いと宣言した可愛げのない少女だったのに、いつの間にか、家に上がり家事をするようになった。

 人って案外変われる生き物なんだな、と僕は感心する。


「あ、そうだ。藤吉くん」

「ん? 何かな?」

「今日、転校生が来るんだって」

「転校生? こんな時期に?」


 僕は首を傾がら考える。

 六月の初旬に転校生は、かなり珍しい。

 普段なら人事異動が大きい時期にある、4月か9月になるはずなのに、こうも6月という中途半端な時期はどうも気掛かりがする。

 でも、きっと俺とは関係なさそうなことだ。


「相手は帰国子女だって」

「へえ、そうなんだ」


 俺はそう答えながら箸で白米を摘む。

 そのまま口の中に入れる。コシヒカリは最強の美味しい。やっぱり、日本米は美味しい。食感があって、素晴らしい味がする。


「あ、藤吉くん。早くしないと、時間遅れるよ」

「わかった。すぐ食べるから」


 どうやら、白米を堪能する時間がない。

 なので、僕はここみが作った料理を急いで食することにした。

 スマートヴォッチの時間を見ると、一限目はあと1時間しかない。早くしないと遅刻してしまう。


************************************


 そんなわけで、僕は朝食を終えて登校することになった。いつも見慣れた通学路を歩く。

 本日は曇り一つもないいい天気。悪く言えば、炎天。そんな熱く燃える太陽の下に僕たちは歩いていた。


「転校生は、同じクラスになるのかな?」

「どうだろう? うちは4クラスあるからかなり確率低いと思うよ」


 我が校。昭和高校の一年生のクラスは4クラスあるのだ。

 理系が二クラスに文系が二クラスというバランスのいい配分になっている。

 クラスの生徒は30人と言う小規模の高校。

 そんな小規模の生徒しかいないためか、学校には空き教室が多々見られる。もしかして、廃校になるんじゃないか、と心配する時もある。


「遅刻、遅刻〜」


 学校のことを考えていると、分かれ道のところから女の子の声が聞こえる。

 僕は考える先にその目の死角になっている角に気をつけることなく歩く。

 すると……ドン、と僕は何かとぶっつかり転倒する。


「いてててて」

「痛い〜」


 転倒した僕は立ちあがろうとするが、視界が青色の布に覆われた。

 この青色の視界はなんだ? と、俺は考える。でも、考えても答えは出てこない。

 すんすん、と鼻息が青い物にかけると、きゃあ、と小さな悲鳴が上がった。


「あ、あう」


 青色がしゃべった、のではなく、青色の布のようなものが何かを言っている。しかも可愛い声で喋っている。

 そんなわけない。色が喋るわけがない。その裏に人間がいるはずだ。

 それよりこの青色の布の裏にあるものは何か生暖かい気がする。手で触れようとするが、僕の手はまた何か生暖かいものに触れる。


「ひゃあ!」

「ふえ?」

「う、動かないでください〜」


 青い布が喋ると、俺はただ茫然として考える。この布は一体なんなのか、どこかで見たことがありそうでなさそうなもの。

 そこで、僕は理解する。

 これは青色ではない。これはパンツだ。


「あ、ごめん」

「ひやあ、息をかけないでください!」


 なら、早く退いてくれ! 僕はパンツであ圧死される!

 そんなわけで、彼女は退いてくれて、僕はやっと立ち上がれた。服についている埃をぽんぽんと祓い、改めて少女を見る。

 転んだ少女は金髪碧眼だ。長い髪をツインテールにして、すっと長い鼻筋。唇は自然なピンク色で可愛らしかった。肌は行きを連想させるような肌白さだった。

 彼女はウチの高校の制服を着用している。

 少女はぺこりと僕に謝罪をする。


「ご、ごめんなさい。急いでいて、走ってしまいました」

「こちらこそ、ごめんね。道をちゃんと見ていなくて」


 僕も少女に謝罪をする。

 すると、彼女は僕の制服に気づいたのか、声をかける。


「あ、あの〜・。もしかして、あなたは昭和高校の生徒ですか?」

「そうだけど、君は見慣れない顔だけど。もしかして、噂の転校生?」


 僕は疑問系に質問をすると、少女はモジモジと体を揺らす。


「じ、実はあたしは転校生で、今日初めての登校なんです」

「へえ。そうなんだ。大変そうだね。中途半端な時期に転校して来た」

「はい。数年間海外に住んでいました。あ、自己紹介が遅れました。私は岡本しえりと言います」

「僕は中村藤吉。よろしく」


 僕は彼女と握手をする。

 すると、彼女は恥ずかしそうに顔を赤めながら拍手をする。

 あ、そう言えば、僕は一人じゃなかった。幼馴染のここみとやって来た。

 僕はここみを紹介しようと、後ろを振り向くと、そこには形相を変えたここみが立っていた。


「さようなら転校生。貴方はここで死ぬ運命なのよ」


 手には包丁を取り構える。

 強い殺気に強い口調。ここみは本気だ!

 転校生は目を点になっていて、状況を理解できていないようだった。


「へ?」


 と、しえりは情けない声で呟く。

 なので、僕はここみを全力で止めに出る。


「ここみ! ストップ! 早まるな! この子に罪はない!」

「退いて藤吉くん。じゃないと、彼女を殺せない!」

「殺すな! 犯罪になる!」

「そしたら、藤吉くんも刺して私も死ぬから」

「もっと、タチ悪いよ! やめてよ! ここみ!」


 僕は全力の力でここみを抑える。

 そして、転校生のしえりさんに苦笑いを浮かべながら、彼女に安心を与える。


「は、早くしないと、遅れるよ。岡本さんは職務室に行かなければいけないでしょ?」

「あ、はい。そうでした。では、お先に失礼します!」


 頭を垂れてから、しえりさんは踵を返す。そして、全力で走り去っていく。

 しえりさんの背中が見えなくなった後に、僕はここみの手を離す。

 ここみは涙目で僕を見つめていた。


「ここみ、転校生を殺そうとしないでよ」

「だって、だって、だって……藤吉くんの純潔を奪ったんだよ? 私だってそんな事件起こしたことないのに! これは立派な刑法違反だよ! 刑法112条だと、死刑の罰が処罰されるんだよ?」

「なんかすごいど変な解釈しているし、この国の法律を勝手に改正しないでよ!」


 そんなことはさておき、僕たちもここで油を売っている暇はない。早く登校しないと遅れてしまう。

 と、言うことで、僕たちは再会歩き出す。通学路の道を歩き出し、学校に向かって歩いていったのだ。

 幸い、ぶっつかるトラブルはなく、僕たちは無事に高校に着いたのだ

 校門をくぐり、挨拶係の生徒会に挨拶をすると、昇降口に向かって行く。お互い、自分の下駄箱に向かって行く。

 下駄箱を開けて履き替えをしようとする。が、僕の上履きの上に何かが置いてある。

 それを手に取ると小さな封筒で、丁寧にハートマークで封じてある。

 恐る恐ると僕は封を取ると、開封した。一枚の小さな紙が入っている。


『放課後、屋上で待っています』


 と、拙い文章が書かれている。

 これは間違いない。噂のラブレターだ。あの青春ものに登場するラブレターだ。僕はその屋上で告白されるんだろう。

 でも、早まるな。これは単なる用事なのかもしれない。

 

「どうしたの? 藤吉くん」

「うわ!?」


 いきなり声をかけられたので、僕はラブレターをポケットの中に隠した。

 声主の方に顔を向けると、そこにはさっき別れたここみが立っていた。不思議そうな顔で僕を見つめている。


「ごめん、驚かせてしまったね」

「う、うん。変な声を出してごめん」

「で、どうしたの?」


 ここみは一歩前に歩いてくる。

 まずい。ここみにラブレターのことを伝えてはいけない。彼女がまた発狂するかもしれない。

 なので、僕は誤魔化すようにここみの問いに答える。


「なんでもないよ。ただ、虫がいただけ」

「わるい虫のこと?」


 ここみは豹変するようになり、僕の上履きを見る。

 もちろん、そこには上履きしかない。ラブレターは僕のポケットの中に隠してあるからだ。

 

「最近、藤吉くんの周りに悪い虫が飛んでいるから、排除しないといけないよね」

「どう言う意味?!」

「藤吉くんは何も心配しなくていいの。私が全てやっつけてやるから」


 きらり、とここみは目つきが光らせる。

 その目は本気の目だ。冗談が通じないことを感じた僕は、彼女の背中を押して、廊下の方に向かわせる。


「はいはい。遅刻するから、行くよ」

「あ〜ん。乱暴しないで、藤吉くん」


 僕は上履きに履き替えると、ここみと一緒に廊下を歩く。

 僕たちのクラスは2年B組だ。教室は2階にある。

 階段を登ると、僕は職務室から出てくる三つ編みをしたメガネをした少女の姿が目に入る。彼女は確か、鈴木英子さん。同じクラスの子だ。

 英子さんは大量のプリントを運んでいる。これは助けないといけない。

 僕は急いで、英子さんのところに行って、資料の大半を自分の手に移した。 


「鈴木さん、手伝うよ」

「わ、わ。中村くん。あ、ありがとう」

「どういたしまして。困った時はお互い様だよ」


 僕は笑って答えると、英子さんの顔は紅潮になり、ちょっとだけ俯いた。

 あれ? 僕、なんか余計なことをしたのかな? もしかして、邪魔だったのかな?

 ちょっと、気心地が悪い空気になったため、僕は英子さんに話題を振る。


「この大量のプリントは何使うのかな? 

「え、えっと確か、進路調査票」

「そうか。もうこんな時期か。と言うことは、クラスに運べばいいだね」

「う、うん。いつもありがとうね」

「これくらい大丈夫だよ。委員長の鈴木さんこそ無理しないでね。力仕事があったら、いつでも僕を呼んでね」

「う、うん。ごめんね。中村くん」


 僕たちは資料をクラスに運び、自分の教卓の上に置く。


「助かったよ。中村くん」

「これくらいなんてことないさ。また、あったら呼んでね」

「う、うん。あ、あの〜よ、よかったら。ひい!?」


 英子さんは何かを言いたそうにするが、最後に悲鳴をあげる。

 一体、何があったのだろうか? と僕は首を傾げると、背筋から冷たい何かが摩る。

 はっと、後ろを向くとそこには鬼のような表情をしたここみが立っていた。


「この、泥棒猫……」


 鞄から包丁を取り出すここみ。

 これはいけない、と思った僕は必死にここみを止めに入る。


「ここみ! 落ち着いて、僕と鈴木さんは何もないから!」

「でも、横とりしようとしたよね?」

「ここみの考え過ぎだよ! 鈴木さん、ごめんまた後で」


 英子さんは慌てて自分の席に向かって逃げていった。

 それと同時にここみは包丁を床に落とす。なので、僕はここみの顔を覗く。


「ここみ? 落ち着いた?」

「いやだよ。藤吉くん」

「え?」

「藤吉くん。他人に優しくしないでよ」


 涙目で訴えるここみ。

 僕はしょうがなく、彼女の頭をポンポンと優しく叩く。


「大丈夫。僕はここにいるから。ここみの幼馴染でいるから。どこにも消えていかないから」

「……」


 ここみはやっと落ち着いたのか、涙を止める。でも、顔は曇ったままだった。

 彼女は何を考えているのか、僕にはわからない。僕がいなくなるのを怖がっているのだろう。なので、僕は彼女を優しく抱きしめる。

 それと同時に授業が開始するチャイムがなり響く。


「はい。席につけって、おい。教室の中でわいせつ行為をするんじゃない。私への嫌がらせか? 中村!」

「す、すみません。すぐに席に着きます」


 アラサー婚活中の遠藤先生に注意されると、僕たちは急いで、自分達の席に戻った。みんなは僕たちが注意されるのを見て笑いだす。

 これもよくある一つの光景、様式美だ。僕がここみを落ち着かせて、遠藤先生に注意される朝が当たり前になっている。

 これがないと、朝が始まらないことになっている。

 って、誰がそんなことを決めたのかは知らないけど。

 とう言うことで、本日も退屈な1日が始まろうとする。六月の月曜日は去年より暑く感じた。

 でも、僕はこんな退屈の1日を愛している。

 永遠にこんな馬鹿騒ぎができるようになって欲しいと心から願うほどに愛していた。

 しかし、僕たちは前に進まなければならない。

 お互いの関係にも決着をつけなければいけないのだ。

 僕とここみの関係と決別しなければいけない。このままではいけないと、心の中で思っていたのだ。

 でも、いつ繰り出すか、わからない。

 僕に勇気がないだけかもしれない。


************************************


 結局、転校生は隣のクラスに転校した。

 僕はしえりさんと話せないのが少し残念に思える。朝のことを謝罪しようと思ったけど、機会がない。

 まあ、いずれ機会があるときに彼女にちゃんとした形で謝罪しよう。

 それよりも、僕には大きな問題がある。

 それは、ラブレターだ。放課後に屋上で待っている人がいる。

 放課後になった今、僕は屋上に行かなければならない。

 重い足を前に動かすと、階段に登っていく。屋上の扉の前に立つ。鍵がかかっていないことを確認し、僕はその重い扉を押す。

 そして、屋上に立っていたのは……


「あ、中村先輩」


 一人の少女だった。長い青色の髪はヒラヒラと舞。海色の目は夕焼けに反射して輝く。甘い顔立ちで男の好みな顔をした少女が立っていた。

 少女の名前は、僕は知っている。

 一年生の多田瑠奈さんだ。四月に道に迷って、僕は高校に案内した後輩だ。

 瑠奈さんは可愛い相貌の持ち主で、毎日告白を受けている噂も立っている。

 そんな可愛い子がなぜ、ここに立っているのか?

 答えを確認するため僕は瑠奈さんに尋ねる。


「もしかして、多田さんが僕の下駄箱にラブレターを置いたの?」

「はい。そうです」


 瑠奈さんはにっこりと返事をして、答える。

 一泊置いてから、瑠奈はすーと息を吸うと大きな声で告白する。


「中村先輩。いいえ、藤吉さん。私と付き合ってください!」


 心から放たれた声だった。

 僕はその告白を聞くと、頭に鈍器のようなものに叩かれたような気がする。

 こんな可愛い子が僕を好きになるはずがない。

 そう思い、僕は瑠奈さんに尋ねる。


「多田さん。どうして僕なの?」

「藤吉さんは優しい人ですから。誰でも優しくして、話もしやすくて、一緒にいるとすごく暖かいから」

「……」


 僕は自分が優しいだなんて、一度も思ったことはない。単に当たり前のことをしただけだ。呼吸するように、僕は他人を助けているだけだ。

 単なる自己満足でしかない。だから、僕は自分のことを優しいと思ったことはない。

 それに、僕はこの告白を受けることはできない。

 だって、僕はある関係に決着をつけなければいけないから……


「ごめんなさい。多田さん。僕は君の告白を受けることはできないよ」

「どうしてですか?」

「気になっている人がいるんだ」


 パタン、と背後から何か音がする。

 僕は慌てて振り向くが、そこには何もなかった。風の音なのだろう。と僕はそう思った。

 切り返して、僕は瑠奈さんに顔を向ける。


「ごめん」

「……いいのです。やっぱり、藤吉さんは優しいです」


 ははは、と涙を流しながら笑う瑠奈さんの姿があった。

 僕はここいいると心地が悪く感じるので、屋上から出た。

 扉を開くと、僕は自分のクラスに戻ろうとすると、あるもの足に突っかかる。視線を落とし、それを見る。

……かんざしだ。それも見慣れたかんざし。

3年前の夏祭りに僕は幼馴染のここみに買ってあげたプレゼント。って言うことは、ここみは僕の告白シーンを目撃していたのだ。

そう思った僕は慌てて、そのかんざしを持ってクラスの方に戻っていく。

 全力疾走して階段を駆け降りて、クラスの方に行く。

そこにはここみが自分の席に佇んでいた。

 

「……ここみ?」


 ここみは何も喋らない。ただ、今でも泣き崩れそうな表情をして、僕を見つめる。

 ……僕の馬鹿野郎。なんで、幼馴染をこんなに悲しませるんだよ。


「ここみ。ごめん」

「……気になっている人って私じゃないよね?」


 ここみは涙を流しながら、答える。

 僕はここみの方に近づき、彼女の目の前に立つ。


「私……変態だし、重いし、藤吉くんに迷惑ばかりかけているし、こんな私を好きになるわけないよね」

「ここみ」

「ごめん、藤吉くん。私、いっぱい藤吉くんに迷惑をかけた。明日から、もうあわないようにするから」

「ここみ」

「幸せになってね、藤吉くん」

「ここみ!」


 我慢にならない僕はここみを強く抱きしめる。

 いつもは軽めの抱き締めなのに、今回は強く何よりも重くここみを抱き締める。


「ダメだよ。藤吉くん。気になっている人いるんでしょ」

「ここみ。聞いて。僕が気になっている人は……今目の前にいるんだ」

「ふえ?」


 ここみにそう答えると、ここみは鳩が豆鉄砲で打たれたような表情を浮かべる。

 どうやら、まだ理解していないようだった。だから、僕は自分の想いを彼女に伝える。


「ここみ。僕は君のことが好きだ。どうか、僕と付き合って欲しい。幼馴染じゃなくて、恋人になって欲しい」

「……ダメだよ。私、最低な人間だもん」

「構わないよ。僕はここみがいいんだ。そう言うここみが好きなんだ」


 僕はここみ告白すると、彼女の顔を見つめる。

 ここみは涙を流しながら、僕を見つめていた。


「う……うわあ」

「泣き虫だな。ここみは……」

「だって……だって……藤吉くんが悪いよ。いつもアピールしているのに、気づいてくれないだもん」

「ごめんよ。ここみ。でも、今から君は僕の恋人だ」


 そう答えると、ここみは自分の涙を拭ってから僕の目を見つめる。今度は笑顔で僕の方を見ていた。

 それでいい。ここみには微笑みが一番似合う。


「じゃあ、キスしよう」

「ああ」


 ここみは目を閉じて、顔を前に出す。

 僕は自分の唇をここみの唇に優しく重ねる。チュ、と優しいキスをした。

 

「へへへ。これで、私たちは恋人だね」

「ああ。恋人同士だ」


 こうして、僕とここみは無事恋人の関係になった。

 それから甘い日々が始まるけど、それは後日談の話だ。僕はここみが恋人になってすごく幸せだ。

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