新潟駅周辺

あらいぐまさん

第1話 新潟駅周辺 

 ケンから連絡があって、善行が、昔、入院していた病院で、一緒だった、ガンちゃんと、ケンと、善行の3人で、「一度一緒に会おう!」と、言う話が持ち上がった。

 善行は、その話に、オッケーを出して、彼らと会うことにした。


 ケンのプランでは、12月18日に、駅店で、ラーメンを食べて、駅の周りのブックオフや、ライトオン、近くの電気量販店などのお店を周る予定を立てていた。


 天気予報を見ると、当日は、天候が荒れていて、大雪が降るようだった。

 会の始まる前に、ケンから連絡が来て、天候が荒れるみたいだけど、決行します……と、言ってきた……。善行は、それに、「分かりました」と、返信した。


 大型の新人のガンちゃんと言う人は、善行が、グリーン病院に入院していた時に、知り合った人で、ケンは、タヌキ園にいる時に知り合ったという言う人である。

 ちなみに、善行は、ケンと、タヌキ園で知り合っている。


 ケンは、理想家で、人を引っ張る力があるが、ガンちゃんは、優しい性格の上に、お喋りが上手で、みんなを楽しませる才がある。

 善行は、弱虫の癖に心の中に、「戦う」というコマンドが入っていて、その事で不安定な心の動きをする。


 善行は、当日になると、雪の降る中、電車で中央駅まで行って、待ち合わせの12時に、なるまで、周辺の店舗をうろついていた。


 集合時間になって、プロントに寄ってみたら、既にケンが、プロントのお店の中にいて、飲み物を飲んでくつろいでいた。

 ケンは善行に、気づくと、手を振って喜んだ。

 善行は、直ぐに、ケンのいるお店の中に入って、コーヒーを、飲んでいたケンと、2か月ぶりに再会した。

 「お久しぶり」

 「ああ、ハイ……」

 暫くすると、ガンちゃんが、窓の外で、通路で、ウロウロしているのに、2人は気付いた。

 「じゃあ、行きましょう」

 ケンは、そう言って、善行と急いで店を出て、ガンちゃんを呼び止めると、3人は、数年越しの久しぶりの再会を果たした。


 「おはよう」

 「ああ、おはようございます、最初は、ラーメン屋? だっけ……」

 「はい」

 ケンが、ガンちゃんに答えると、3人は、早速、ラーメン屋に向かった。


 ラーメン屋に移動しながら、ガンちゃんは、ケンに言った。

 「ミニカーが、欲しくて、電気屋によって良いかなぁ?」

 「ああ、いいですよ」

 ガンちゃんは、ミニカーが大好きで、150台以上持っているという話だ……。


 ラーメン屋の前で、券売機で券を買うと、3人は、カウンターに案内されて、3人で話を始めた。

 「此処のラーメンは美味しいですよ」

 「そうなんですね」

 ガンちゃんは、ケンの話を、ニコニコしながら聞いている。


 ラーメン屋で、食事が出ると、食べながら、話が始まった。

 善行は、「ウチは、親が歳で……」と、抱えている不安を、彼らに訴えた。

 すると、ガンちゃんが、「区役所に行って、介護認定をもらうと、相談員がついて、色々やってくれるんだ……」

 「ほんと」

 ケンが、補足する。

 「ウチの親も、特養に入っているけど、別に、特別、何もすることはないよ……」

 「そうなんだ」

 善行は、心の隅に引っかかっていた、不安が、少し軽くなった。


 3人は、食事を終えて、ラーメン屋を出ると、近くの電気量販店に向かった。

 店に着くと、ガンちゃんは、レジの店員に声をかけて、特別なミニカーを買うには、どうすればいいのかと、店員に聞いていた。

 店員の話を聞いて、「いやぁ、ちょっと、売り切れていた」と、言って、頭を掻きながら戻ってきた。


 善行は、ガンちゃんの近況を聞いた。

 「どこに住んでいるの?」

 「信濃川のほとりで、小柳町と言って、コンビニや色々なお店が近くにあるところなんです」

 「ふん」

 善行は、ガンちゃんの日常の様子に興味を持った。

 「今は、どこの作業所に行っているの?」

 「まだ、作業所は行ってないけど、26日から、ひらり作業所に、週3で通うつもりなんだ、将来は、生活保護で暮らそうかと……」

 「ん!」

 ……生活保護? ……

 善行は、それには、納得できなかったが、その思いは、口にはしなかった。


 電気量販店を後にすると、ブックオフと隣接するライトオンのお店に向かった。

 善行は、ブックオフで、「会議のやり方」の本を探したが、それは、見つからなかった。

 そのまま、ライトオンに向かうと、安いジャケットを見つけて購入した。


 ケンが、服を選んでいる時に、善行は、暇そうにしている、ガンちゃんに話しかけた。

 「ミニカーが150台あると夢に出てきそうだね、ミニカーが101台、102台……」

「それは、羊でしょう」

「ははは」

 二人は苦笑した。

 ケンが、買い物を終えると、3人は、大きな本屋を目指した。

 善行は、どうしても、「会議のやり方」本が欲しかったからだ。


 ところが、ケンの様子を見ていると何か、この交遊に不満げだった。

 それが何故なのか,善行には、分からず、かといって、ケンに話しかける事もできずに、悪戯に時間が過ぎていくだけだった。

 頼みの綱は。ガンちゃんだ……。

 ガンちゃんに、ケンの相手を任せて、成り行きを見守っていた。


 でも、どうも芳しくない……。

 善行は、大きな本屋で、会議についての本を買うと、「これから、マックで、お茶しない……」と、話を切り出した。

 善行は、ケンとガンちゃんに、その話を、無理やり通して、マックで一緒に会食することにした。そこで、善行は、ケンとの関係を修復したかったからだ……。


 マックに着くと、カウンターで、飲み物を買って、食べ物を持って、建物の2階の席に、揃って座った。

 ケンは、近況を話した。

 「私は、A型の就労支援で働いているんですけど、月8万円くらい稼ぎます」

善行は、驚いた。

 「凄い、年金と合わせると、相当な額になりますね、貯金もできるんじゃないですか?」

 「はい」

 ケンは、そう答えたが、余り嬉しそうではなかった。


 善行は、彼らに、就労できない事情を話し始めた。

 「私は、身体の内部障害があって、時々、トイレに行かなくてはならず、安定して仕事ができないんです、この障害のせいで、作業所から、スッテップ・アップできないんです」

 「そうなんだ」

 ガンちゃんは、納得したが、ケンは、何か不服そうだった。

 

 善行は、やるだけのことは、やったと考え、吹雪になって、電車が、止まらないウチに、アパートに帰ろうと思い、雪のチラつく中、2人と別れて、日の高いうちに、  電車に乗って、家路を急いだ。


 善行は、帰りの電車に乗って考えていた。

 ケンは、なんで、あんなに不機嫌だったのだろうか?


 ケンが、就労支援A型で、月曜から金曜まで一生懸命働いているのに、私は、週3のペースで、作業所で働いている事や、ガンちゃんは、将来、生活保護で暮らしたいという、ケンとは、真逆の道に進もうとしていることに、腹を立てているのか? 


 それとも、善行の身体の障害が、生理的に嫌なのか?


 ケンが、善行のことを嫌っていたら、去る者追わずで、いつか、別れなくてはならないが、それは、どうなんだろう?


 そこで、アパートに帰ると、ケンにメールを打った。

 ……ガンちゃんの生活保護発言には、びっくりしたけど、ケンは、自立の道を歩んでください、私は、身体の内部障害の検査が終わったら、週3のパートを探します。お互い自立の道を切り開いていきましょう……

 しかし、メールを打ったが、返信は帰ってこなかった。

 ……ダメなのか? ……

 失意のまま、眠りについた。


 翌日、雪が積もりだして、自転車での自由行動が、出来なくなっていた。

 家でジッとしていると、スマホが「ピンポン」と鳴って、ケンからメールが届いた。

 ……昨日は、ありがとう、お互い、運命を切り開いていきましょう……

 そのメールと見て、善行は、ふっと、息を吐いた。


 後で、ガンちゃんに、連絡すると、がんちゃんは、善行の電話に大喜びしている。

 その後、楽しかった交遊会の話の後に、昨日のケンの様子について話しが及んだ……。

 「ケンの様子が、良くなかったじゃない、機嫌悪そうだったし……」

 「そうだね、分かる」

 その点で、善行と、ガンちゃんの意見は、一致したが、「仕事で疲れているんだよ」と、言って話を濁らせた。


 要件を終えた善行は、電話を切ろうとすると、ガンちゃんが、「また、連絡してね……」と言ってきた。

 「あぁ、またかけるよ」

 善行は、そう言って、電話を切った。


 振り返って、3人の再会は、ウルトラ・ハッピ-では、なかったが、大型の新人・ガンちゃんの出現によって、彼らの心理的な勢力地図が、大きく変わっていくようだった……。

 ケンの具合が悪いのが、不安材料だが、日月が、彼の心を、癒してくれるだろう、腐っても、このまま、終わる男ではない……。


 問題は、善行は、ボロボロの体で、就労することが出来るのか? ステップアップして、ケンに、遅れを、取られないように、対等の関係でいられるか? に絞られてきた。

 パートに潜り込めれば、月4万の収入が期待できる。

 その収入によって、原チャリを買って、足周りを強化して、彼らとの交遊と、素敵な女性との、交際に持ち込む算段なのだが……。


 善行には、未来が、ハッキリと、見えているわけではないが、今まで苦労してきた経験が、幸せな未来を予感させていた。


 でも、一番確かな事は、令和3年が、今、まさに、終わろうとしている事だった。

新年が来れば、令和4年になり、その年の5月に、善行のトシが、一つ年が増えることを、意味していた。

 善行は、確かに、若くはないが……。でも、気持ちは「まだ、まだ若い」と言う気概はある……。



                       2021.12.20

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