第36話 属(クズ)国を壊滅させよう‼︎ 参

「じゃあもう一回‼︎せーのっ‼︎いっち、にっ、さーん、しっ‼︎ごーぉ、ろく‼︎」


いくつものフォークを両手に持ったジロソニアが、満面の笑みで数える。

これだけ見れば、無垢な少年が遊んでいるだけの平和な光景だったのだろう……が、残念な事に彼はの眷属。


彼がいるのは、彼と彼の隣に微笑みながら立っているヤーマルギーアの指示に従ったフェンリルと竜によって奴隷の子供一人でさえ殺された国の広場の真ん中で、やっている事は遊びなどではない。

彼の天真爛漫な口調で一つ数が数えられるごとに、ダーツの矢のように投げられたフォークが、磔にされている豚肉の体に深く深く突き刺さっていくのだ。


「ア゛アアアアアアァァァァァァァァアアアアア‼︎痛いいいいイィイィぃぃ⁉︎腕、ボクちゃんの腕があああぁぁぁ……こ、こんなことをして許されると思ってるのか゛っ⁉︎ボクちゃんはアイボット共和国の誇り高き王なのだじょ⁉︎」


フォークを矢に見立てたダーツのように競っている二人に、部位ごとに点数をつけて的にされているには既に何十本もの矢……フォークが刺さっている。


伝説の魔物の王である二人の力は強く、頭に当たったらすぐに殺してしまうので頭はゼロ点、胴体は三点、四肢は十点として競っている為、腕と足にだけフォークが集中してたくさん突き刺さっている。


ちなみに、何故刺すものをフォークにしているかというと……。


「孤児達をものにしていた人でなし畜生には、その有り余った贅肉を食べられるような恐怖に晒されながら死んでほしい」


というクレアーレンの希望を、彼らなりに最大限汲んだ結果だ。


無邪気な笑み、あるいは怒りを含んだ笑みを浮かべて交代でフォークを投げ刺していく二人に、は泣き叫んで訴えるが、残念ながら二人に対しては何の牽制にもならない。彼らには、人間の都合など知った事ではないのだから。


「ハハハハハッ‼︎だじょ、だって‼︎だじょ‼︎すごい‼︎面白いね⁉︎」


「許すも何も……ねぇ?お前、先ほどのクレア様のありがたい神託を聞いていなかったのですか?何故、伝説の存在である私達と神であるクレア様が、であるお前の許しを乞う必要があるのです?お前など私達から見れば、そこらの羽虫以下の存在でしかないのですよ……?」


的の語尾が面白かったのか、大笑いしながら自分の番が終わったからと下がったジロソニアを横目に、ヤーマルギーアはたかが人間如きがクレアーレンという大切な主人を下に見る発言をしたのがよほど腹に据えかねたのか、肩の関節に一投目のフォークを突き刺し、そのフォークの柄に二投目のフォークを水平に当てる事でより深くフォークを押し込んだ。


「ギィ゛ガァァアアアアアァァァ⁉︎」


「うるさい〜‼︎」


「グギャァ‼︎」


ヤーマルギーアの凄技とも力技とも言える芸当によって、無理矢理最高到達点よりも下に押し込まれたフォークの力で骨と骨の緩衝材である軟骨と軟骨の間の神経を切断された的が頭にある穴から壮絶な音を立てたが、イラっときたのであろうジロソニアが足の小指に向かって投げながら叫んだ事で音を鳴り止ませる。

グギュゥ……ガ……などと音漏れしているのは仕方がない。

ご愛嬌だという事で二人も見逃してやる。


「じゃあ、続き行きますよ〜‼︎はい、三、四、五〜、そして六‼︎」


叫んだら更なる痛みを与えられる事を知った的は、必死で声を出さないように痛みに耐え始めた。が、もうその学びは役に立たないだろう。

破壊に特化していて治癒の力が使えない二人の的にされた体は、もう多量出血によるショック死寸前の状態だった。


「僕の番だねっ‼︎いっくよ〜、い〜ちっ‼︎」


そんな状態で、更に動脈を傷つける状態でジロソニアが投擲したフォークが打ち込まれた的……使い物になるはずがない。


「あ〜……死んじゃいましたね……」


「え、死んじゃった〜⁉︎」


人間は血液の三分の一を失えば死ぬし、腕が千切れたとしたら五分ほどで意識を失うのが普通だ。それを、刺したフォークを抜いてないとはいえ動脈静脈お構いなしに刺していったにも関わらず、眷属の二人が勝負を始めた一時間ほど前から恐怖からくる覚醒作用によって、強制的に意識を保たせていたのだから無茶にも程がある。


現に、こうして急に意識を失った直後に簡単に死んでしまった。


「死なせてはダメじゃないですか、ジロソニア。反則ですよ、あなたの負けです」


「え⁉︎……ああ〜‼︎もっかい‼︎もう一回いいいぃぃぃぃ‼︎」


ダーツもどき勝負は『基本自由にして良いが、国家の責任者達はクレアーレンの許可が降りるまでの間は殺さない』という決まりを破ったジロソニアの負けなのだが、根が少年で負けず嫌いのジロソニアにヤーマルギーアは困り、的の前で「あらあら」と言いながらどうするか考えを巡らせる。


「もう死んでしまったのに、もう一回も何もないでしょう?まだ、クレア様から殺しても良いと許可をもらっていないのに……」


『ジロソニア、ヤーマルギーア、大丈夫。そのボクちゃん野郎見てると気分悪かったから、もう終わりでいいよ。はみんな揃ってから発表するから、そいつの死体と貴族達の首だけだけは回収して帰って来てね。……ジロソニア、勝負のやり直しは、帰って来てからちゃんとしたダーツでやりなさい』


「…………わかった。主人が言うならそうする」


「本当に助かりました。ありがとうございます、クレア様。すぐにそれらを回収して帰還します」


『うん。別のところを見ながら待ってるね』


どうしたら良いものかと思案していたヤーマルギーアだったが、無事にクレアーレンから(事後承諾のようになってしまったものの)許可をもらえた事で安堵し、クレアーレンの言葉で落ち着いたジロソニアと共に、竜やフェンリルに言って確保しておいてもらった貴族達の首とフォークだらけの国王の死体を回収する。


出来るだけ早くクレアーレンに会いたいという感情のまま、配下の者達に感謝の言葉と解散の命令を伝えると、二人はすぐに天界のクレアーレンの元に帰還した。


四カ国を写している内の一つである自分達がいた場所の光景が消えていて、残り三つになった国の光景を覗き込むクレアーレンとシュクリスの近くに寄り添い、役目を終えた二人もまた、他の眷属達が暴れる様子を覗いて楽しむ。


「あ〜‼︎ブルート、なかなか頑張ってるね‼︎」


「まあオリギーもいるし、ここはやはり相当すごいですね」


二人は特に三つの内の一つ。

眷属の中でも別格のアラゾニアがいる国を除けば、一番被害の大きい国に二人は注目して覗いた。


「二人もそう思う?オリギーとブルート、頑張ってるよねぇ」


クレアーレンもそう言って、二人の働きを賞賛する。

それ程までに、オリギーとブルートという二人組の働きは想像以上に素晴らしいものだったのだ。まあ、人間側から見れば最悪なものだろうが。


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