第35話 属(クズ)国を壊滅させよう‼︎ 弐

「よぉし‼︎私の仕事はこれまで〜‼︎……あとは頼んだよ?みんな」


「もちろん、お任せ下さい」


代表してアラゾニアが答えたけど、全員が膝をついて礼をするもんだから仰々しいったらありゃしない。……いや、もう何百回、何千回もされた挨拶だからこの対応にも慣れたは慣れたけどさぁ?


「ねえ、レア?僕も一緒にいかせてよ」


ものすごく張り切って、国を潰す為に出かけて行った眷属達の事を見送る。

…………シュクリスの腕の中で。


「何度言ったらわかるの?ダメって言ってるでしょう」


今回の作戦のこの段階で一番うるさかった、というかうるさいのがシュクリスだ。


本当なら、あの四カ国は私が適当に一気に水か何かを操って全て押し流してしまってもいいのだが、人が大した理由もなく、神に直接手を下される事は名誉になってしまう可能性がある為に私は今回手を出さないようにして、トゥレラやシュクリスにも手を出さないように言ってある。……が、彼にはこれが不満らしい。ずっと私を抱えたまま耳元でささやいて駄々をこね続けている。


「だって、レアは行かないんでしょう?トゥレラさんも。……だったら、僕が行けばいいじゃないか」


「ダメだって」


まあ、今の話からもわかる通り人間達に『粛清の宣言』などというのをやってみたはいいものの、粛清ソレを行うのは私ではない。


アイボット共和国は、最古の竜であるヤーマルギーアと始祖フェンリルのジロソニアという、神獣として尊ばれる種族の王達が。


フーリッシュ公国は、妖の王アフィスティアと妖精女王のラグニアという、女王として種族をまとめる者達が。


ストゥピッド王国は、死王オリギーと公爵吸血鬼のブルート。復讐を誓う者と眷属の中で一番落ち着いていてサポートに向いている死者の王という、二人組が。


モロン聖国は、筆頭眷属である始祖鳥アラゾニアと最後の眷属で氷雪虎、影の国と呼ばれる空間を掌握するオクニリアという、光を象徴する(と愚かにも本人達は思っている)聖国の連中を否定するのに相応しい二人が。


眷属七名プラス準眷属一名の八名が、それぞれ分担して四つの国を潰す。

四つの国相手でも一人で十分な戦力が、一つの国相手に二人。どう考えても過剰戦力だが、希望者を募った結果がこれだからまあ仕方のない事だな。うん。


私達の分まで頑張ると言っている過剰戦力達……あ、ちょっと可哀想かも?


……まあ、いいか。全て自業自得だし。

そう。今から起こる事は全部、今までアイツらがやってた事が返ってくるだけなんだよなぁ。というか、なんか敵がクズすぎて罪悪感が微塵も湧かない……あまりに相手の動きが私の側に都合が良すぎて、ここ数日はだんだんとアイツらに誘われている気がしなくもなくなってきた。……これ、末期じゃね?アイツらにそんな知能があるわけないのに。


何故か不安に思ってしまう心を不自由に思いながら、蹂躙されていく箱庭の国々を見下ろした。







–– ヤーマルギーアとジロソニアの担当、アイボット共和国にて。


「ヒュッ、ヒュッ、フゴッ‼︎ヒョエェェェェ‼︎」


肥え太ったのひどく不快な声が響く王宮を、ヤーマルギーアとジロソニアが二人並んで歩いていた。


「ギャアアアアアアアア‼︎」


「助けて‼︎許してクダサイ‼︎」


王宮外から聞こえてくる叫び声に微塵も興味を示さず、二人は長く伸ばした爪や自分の種族が得意な技を使って王宮の使用人(?)達を葬っていく。


外では、彼らの配下であるフェンリルや竜種達が暴れ回っていた。


フェンリルは伝説の魔物であり、人里に出てくることは全くと言っていいほどにない。そんな魔物が数体、集団で暴れ回るのだ。人々は怯え、泣き叫びながら逃げるしかなかった。……獣の王から逃れられるわけがないが。


竜達は、上空を旋回しながらブレスを吐く。吐息と共に、赤竜からは熱気を纏った炎が、青竜からは氷を含んだ冷気が地上に届き、襲ってくる。それらはフェンリルには害を及ぼさず、人だけを燃やし、凍らせ、それを逃れても尾での打撃や鋭い爪での斬撃が襲う。彼らの硬い鱗は矢を弾き、脆弱な人間に反撃の手段は存在しない。


フェンリルも竜も数は少なかったが、彼らの圧倒的な力は溢れるほど存在している人間のささやかな抵抗をねじ伏せて、その命を奪っていく。


「ひどいですね……」


だが、それらを当然の事と考え興味を持たないヤーマルギーアの呟きは、外の惨状に対してではなく王宮内に向けられていた。

もちろん自分達が殺した死体の状態を嘆いているのではない。叫ぶ豚のいる寝室に近づくにつれて見える、女性達の無惨な死体に、彼女は心を動かしたのだ。


「せめてその眠りは、安らかでありますよう……。来世では、あんな女神ではなく、クレア様の世界で穏やかに生きられますように」


弄ばれたであろう首に奴隷紋を刻まれた女性達。まだ十にも満たない少女を、その子と二歳程度しか違わないであろう少女が上に被さって庇っている、その光景に。彼女は静かに激怒していた。


「さっき主人が言った事、分かってないのかな?」


彼女の横でジロソニアは、いまだ逃げる様子のない王に首を傾げている。


それぞれ自分の興味がある事について思考しながら、二人は城の人間を殺し、奴隷の少女達を奴隷紋から解放しての寝室へと歩いた。


「フゴフッ‼︎イイ‼︎ア゛アァァァァァァ、ゴフッ‼︎フゴフゴッ‼︎」


「ここだ‼︎ヤーマルギーア、準備はいい?」


「もちろんです。いつでもいいですよ」


もはや人間よりも豚の方が近いであろう声……というか、そもそもコレが豚の声だと言うのは豚に失礼だと思えるほどに不快な音が発されるその大元である部屋の扉の前に立った二人は、音の事を出来るだけ認識しないようにしながら話す。


バンッ‼︎


ジロソニアによって扉が飛ばされて、この国が荒れている元凶の豚と二人が初めて直接顔を合わせる。


もう豚……というか豚にも劣る畜生アイボット共和国国王には、家畜とは違う絶対的な捕食者二人によってただの肉塊になるしか道は残されていない。丁寧に舗装された地獄の花道を、歩き切るしかないのだ。



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