第27話 狂信者化しちゃったよ……
「本当にありがとうございました……‼︎このご恩は忘れません‼︎」
茶色の髪と赤い目。
ロクトお兄さんは公爵家の当主妹の息子、少年ブルートは公爵家当主の息子。つまり二人は従兄弟な訳だが、子猫に擬態する魔法を解いたブルートは、年齢は違うものの見た目だけならロクトお兄さんと双子のように似ていた。
「いや、別に……復讐も私に合わせて動いてもらうし……」
「それでもです‼︎貴方様から魔力をもらった事で私は確実に上位者に近づき、伝説の存在である皆様に手合わせもさせて頂きました……憎い相手に復讐が出来るようになったのです。何度感謝しても足りません‼︎」
なぁんで、こんなにキラキラした目を向けるかなぁ……。
せっかく私の狂信者化してる眷属達からブルートを理由に離れられると思ったのに、お前が狂信者に触発されてどうすんだよぉ〜……。
ブルートに構ってると何故かシュクリスがうるさくなるし、もうヤダ……。
私の神域なはずなんだけど……居心地悪いな。
「コホンッ……ヤーマルギーア、どんな感じ?」
ブルートのキラキラとした視線から目を逸らすように、私のそばに立っているヤーマルギーアに尋ねる。ブルートはしばらくしたらジロソニアと一緒に、どっかの世界で実戦をするだろうから放っておく。……狂信者になった若者は少し放置処分です。
眷属を呼び出してすぐ、アラゾニアとオリギーに拠点の制作を頼んだら張り切りすぎて、私だけでは管理出来ないほど大きな屋敷を私の神域に建てたので、ヤーマルギーアは今も、本来の姿ではなく人化した姿だ。
外の広い草原で時々本来の姿で昼寝しているのに、基本はずっと人の姿で私の近くに控えている。
別にそばにいなくてもいいんだけど、この前ブルートを拾いに行った時に無断で出かけた後から、私の近くにはいつも誰かがいるようになってしまった。私は主人なんだから、少しは信頼してくれてもいいと思うんだけど、ほんとみんなは過保護だな。
やっぱり見た目が問題なのか?
昔はトゥレラと同じような年齢の見た目だったからすっごい美女だったけど、今はまるっきり五歳児の美幼女だもんな……。
頼んでいた偵察についての報告を頼んでおいて、それとは微塵も関係ない事を考えている私に向かってヤーマルギーアは口を開いた。
「【剣聖】はアルト王国の第一皇女と結婚して王になっていて、【聖女】は
ふーん、やっぱり学級委員長二人は他の奴らよりも高待遇で確保されているか。
「他は?」
「唯一生徒ではない人間含め二十七人は、アルト王国で騎士団幹部あるいは高位文官として【剣聖】の下で働いています。他十一人の内、五人は【聖女】の下で枢機卿などの教会幹部になってゴミに祈りを捧げており、六人は魔王討伐の功によってS級冒険者になり、ダンジョンなどで活動しています。ちなみにダンジョン内でトゥレラ様が襲撃を企んでおりますが」
「トゥレラ、絶対にやめろ。……ヤーマルギーア、助かったよ。ありがとう」
「いえ、クレア様のお力になれたのなら良かったです」
ヤーマルギーアがそう言って浮かべた嬉しそうな笑みはとても、とーーーっても綺麗だったけど、私はそれどころじゃなかった。
何してくれやがんだ、あのバカ兄。計画をぶっ壊す気かな?
トゥレラが襲撃なんかしたら、あの雑魚どもなんて一発で死ぬんだって‼︎
すぐに静止の声を届ければ、不満タラタラの声で了承の返事が返って来た。
……これは、帰ってきたら私がかまい倒される面倒なタイプかもな。
私が捨てられたダンジョン【深淵】の最新部に行かせて、今現在も魔物に八つ当たりしてるシュクリスと一緒に魔物狩りさせるか。そうしよう。
トゥレラに魔物狩りならしていいと言って、取り敢えず襲撃未遂は解決したところでやっとアイツらについて考える余裕が戻ってきた。
それにしても、思っていたよりアルト王国で働いている奴が多いな。
「あれ?S級冒険者って全員じゃなかったの?」
「全員が勇者として活動するにあたり冒険者になっていて、魔王を討伐した後は現在もS級冒険者として登録されていますが、きちんと冒険者活動を続けているのはこの六人のみです」
なら、特に問題はないか。
他の職業についた奴らもS級冒険者が課される「有事の時は最前線で戦闘を行うべき」という義務が有効であれば何も問題はない。
それに、万一その義務が国王とかには有効でなくなっていたとしても、承認欲求が強くて自分たちは女神の加護があるから強いと自信を持っているアイツらなら、確実に最前線に出て戦ってくれるだろう。
「アフィスティア、
膝の上で
「
ならその三日前、今から四日後には動き出したほうがいいかな。
「アラゾニアに頼んでいたのはどうなってる?」
「私が預かっています。こちらが、箱庭にある国の状態のまとめです」
ふむふむ、アルト王国とその属国はやっぱり統治者が無能だな。国が荒れてる。
アルト王国、腐っても大国だから一つの大陸はあの国とその属国でできている。
つまり一大陸丸ごと荒れている、と。……いや〜、ゴミすぎるわ〜‼︎まあ、知ってたけどさ。
もう一つの大陸の方は……ああ、こっちは小さめの大陸だから全体をゴエティアが支配してたんだ。見事なまでの焼け野原。一面荒廃している。
改めてこうして見ると、悲しいな。
「で、これをヤーマルギーアが持ってるなら、アラゾニアはどこ行ってるの?」
「トゥレラ様とシュクリス様と一緒に、【深淵】の最深部【奈落】で魔物狩りをしていますね」
帰るまでが
……まあ、こうやって穏やかにアフィスティアの毛のモフモフを堪能できる時間が長くなったから、良しとしよう。
「主人、こんにちは‼︎ちょっとブルートと狩りをしに行ってくるね‼︎」
「クレアーレン様、行ってまいります‼︎」
「……うん。ジロソニアもブルートも行ってらっしゃい」
ジロソニアは純粋に私を主人として慕っているだけで、ブルートは私を純粋に信仰しているだけなんだろうけど、ちょっと二人とも重すぎるんだよね。
もはや狂信の域になってるから。
人々の信仰心がそのまま力になるアフェールやレヒトさんと違って、私は信仰を必要としないから狂信者化されると、接する私の心理的負担が増すだけなんだよな……。
ボフンッ。と背中からベッドにダイブして、膝からお腹に移動させたアフィスティアの温かな体温を感じながら、魔物に八つ当たりをして満足したトゥレラ達が帰ってくるまでの間、私はどうしたら周りの過保護を改善出来るかを延々と考えていた。
そしてその四日後––––ついに復讐計画が動き出す。
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