第22話 残酷な君を、待っていた
シュクリスは自身の腕の中で、こてん。と眠りに落ちてしまった親友の髪を撫でる。
サラサラと指の間を滑る、自身のツノと同じ色の柔らかい髪は肩上で切り揃えられており、知っている長さよりも短くなってしまっていた。
「トゥレラさん、詳しく説明してもらえます?」
「もちろんだ。だが、それよりも先にレンをベッドに寝かせろ」
「無闇に姿勢を変えると起こしてしまうから、このまま聞きますよ」
「ハア……レンが俺に見せた記憶をお前にも見せてやるよ」
それでいいだろ。
呆れたようなため息に続けてそう言った親友の兄の手は固く握られていて、不快で口にも出したくないという彼の思考が読めた。
「ユニークスキル【付与】」
低い声と共に流れてくるのは、レアが人間として生を受けてから、神と成るまでの十数年間の記憶。
その記憶があまりにも救いのない物で、気付かぬ間に頬を涙が滑って落ちた。
「あの時、引きこもった自分を殺してやりたい……‼︎」
レアが死んだことを受け入れたくなくて、引きこもった。
あのクソ女神に殺されたレアがその後どうなっているかなど、考えもしなかった。
僕がレアの死に傷つくくらい、レアが何年も傷つけられ続ける未来と比べたら大した事なかったのに……。
レアは神に成った。
神ではない者が神に成るには、膨大な感情を要する。
特に魔神などという信仰に左右されないほどの強力な神に成るには、想像を絶する位の大きな負の感情が必要になるのだ。
レアはその条件を満たすほどに深く、悲しみ、憎しみ、恨んだ。
だから、神に成ったのだ。
「………………あのクソ女神、殺すか」
そうだ、それがいい。
女神と女神が召喚した奴ら、レアを傷つけた全員を殺そう。
「トゥレラ、ちょっと行ってくるね」
そうと決まれば、さっさと動こう。
「待て待て待て待て‼︎……お前にはレンの復讐を手助けして欲しいんだよ」
レアの眠りを少し深くする魔法をかけ、まずはクソ女神を殺す為にレアの神域から出ようとしたところで、トゥレラさんに止められた。
「レンは、女神と勇者と呼ばれてるゴミ達、そして最高神に復讐して、あの箱庭さえ壊そうとしてる。レンの眷属は全員神の領域に腰まで突っ込んだ奴らだし、俺も協力するから問題ないだろうが……一つの世界を壊して、二柱の神を殺すんだ。協力者は多い方がいい。協力すれば、一部の奴は俺やお前にも回ってくるかもだしな」
神二柱と一つの世界相手に、レアは喧嘩を売ったんだ。
嗚呼、やっぱり君は、何よりも強くて、美しくて、残酷なんだろう。
相手に許されているのは、その喧嘩を言い値で買う事。
そして神の掌の上で無様に踊り、神を喜ばせる事だけだ。
それは誰であれ、例外では無い。
「わかった。レアの獲物に手を出して嫌われたくはないしね。我慢する事にしよう」
僕の腕の中ですやすやと眠る幼い
感情一つで世界を滅ぼす残酷な魔神であると、一体誰が信じられるのだろうか。
この優しくも残酷な少女が、怒れる鬼神にもおこぼれをくれる事を期待して、僕はサポートに徹することにしよう。
最後に会ってから九百九十七年三ヶ月と二十一時間、ずっと、ずうっと。
もう一度レアと会える日を待っていたのだ。
レアの復讐が終わるまでのわずか数年ごとき、余裕で待ってみせるさ。
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