第17話 魔王vs女神と勇者達 弐
「江原さん、結界の内側に魔法を付与して展開‼︎あいつを閉じ込めて‼︎」
「うん、わかった」
「
「「「「「了解‼︎」」」」」
「ああ」
指揮棒のような形の杖を握りながら次々と指示を出していく青年を見て、俺はケルベロスも長くは持たないかと悟った。
本来ならあの青年を潰せば解決するが、女神がいる限り攻撃して殺してもすぐ蘇ってくるから無駄だろう。
女神を殺す為に勇者の注意を逸らすにはあの青年が邪魔で、青年を殺すには女神が邪魔。なんという事だ。詰んでるじゃあないか。
「マズいな」
『何がマズいのかしら?やっと自分の置かれている立場がわかったの?』
「立場は戦う前からわかっていたさ。……それでも俺は、勝たないといけないんだ」
そう、不利な事なんて百も承知だ。
アガレスが作ったような
強力な力を持つ勇者四十人と、神一柱を一人で相手にする。
魔王とはいえこんな事、一人で神に挑んだアガレスよりも無謀というものだ。
それでも、これを成し遂げなければ未来はない。
トゥレラ様から強力な
たった一回のチャンス。
その一回のチャンスを得る為に俺はこうして自分の能力を駆使して余裕ぶって、女神と戦っているのだ。
チャンスは、女神が神権を使った直後の隙が出来た一瞬。
俺は女神の神権を回避した上で、その一瞬に攻撃を当てなければ勝ち目はない。
女神を限界までイラつかせて……まだ、まだ、まだだ。
「切り裂き救え。【神器・聖剣クラウ=ソラス】」
アォーーーーーーーーーーーーーーーン‼︎
ケルベロスが死んだ。
すまない、敵から守ってやれない主人で。
仇は必ず討つから、どうか安らかに眠れ。
呼び出した眷属の死を悲しむ間もなく、降り注ぐ女神の攻撃を捌く。
光の矢を、槍を、雨を、剣を。
漆黒に銀の装飾が施された盾で、剣で、槍で、防いでいく。
あと、少し……。
『もう終わりね?神権【正義の神】』
今だ‼︎
「擬似神権【
足元に魔法陣で作った足場と翼を使って女神の神権を躱し、ありったけの魔力を込めて切り札を放つ。
トゥレラ様の持つ神権を、トゥレラ様直々に教えられた魔法式で再現した魔法。
神のルールを破った女神に対して、トゥレラ様がルールの範囲で俺を助ける為に与えた切り札は、一度のみ使える
女神の白い鎖が消え、俺の手から放たれた漆黒の光が女神を包み込む。
『イヤァッ‼︎あ…………』
耳をつんざくような悲鳴を最期に、女神は消えた。
後に残るのは、女神の死という現象に茫然とする勇者どもだけ。
魔力はほとんど底をついているが、女神がついていないこの状態の勇者を殺すだけならこの位でも十分だろう。スキルを使えば問題ない。
「さて、これで女神はいなくなったわけだ……勇者を殺すとしようか」
一歩分近づけば、一歩下がる。
明らかに腰が引けた様子でそれぞれ神器を構える勇者どもに向かって、俺は腕を横に振ってスキルを発動した。
「まずはスキル【状態異常・中】。スキル【毒化】と【呪詛】もかけてやろう」
ロクトが得意とした状態異常系スキル。
流石にロクトと同じ【状態異常・高】は使えないが、俺が使える中で一番効き目の強いものを発動する。
余裕ぶって勇者どもに近付いた結果不意打ちを食らうなんて事になったら笑えない為、まずは動けないようにさせてもらう。
「よし、では殺すとしようか」
「動ける人は、ケホッ、攻撃に備えて。回復職は、まず前衛の人、ヒュッ、ケホッ、から、回復させて」
苦しそうにはするものの、若干の余裕が残っている勇者どもを見下ろす。
俺が何も知らないとでも思ったか?
トゥレラ様は「手出しは出来ないが」と言って情報を渡してくださった。
「神器を壊せば、勇者も死ぬのだろう?」
そう言って目をやれば、勇者どもが初めて怯えた。
本当の死の恐怖に臆したか。くだらない。
散々殺したんだ。恨まれ、殺される覚悟は当然出来ているはずではないか。
まさか、出来ていないとは言わないだろう?
「正義」の下に「悪」を殺したのであれば、相手に「正義」がある場合は殺されてもいいと言ったのと同義なのだから。
スキルを発動する。強力故に連発はできないユニークスキルだが、勇者どもにとどめを刺すには丁度いいだろう。
「俺の国民に手を出した事……後悔しながら逝け。ユニークスキル【魔王の裁き】」
『守りなさい。【聖光魔法・
黒い霧が勇者達を包もうとした直前。
死んだはずの女神が現れて、魔法で俺のスキルを打ち消した。
「な、んで、お前が……」
『私は最高神の娘よ?お父様が私を守ってくれている限り、私が死ぬことはないわ』
そんなもの、あんまりだろう。
もう魔法は使えない。
ユニークスキルも今使ってしまったから、あと数分間は使えない。
『同じ轍は踏まないわ。神権【慈愛の神】・神権【正義の神】』
白と金が混じり合った光を避けた先に鎖が現れ、俺は捕らわれた。
神の力に対抗できる力を、俺はもう持っていなかった。
「クッソ……本当に、この世界は救いようがないな」
何もしていないにも関わらず、女神が呼び出した勇者達によって俺の国は蹂躙され、俺の大事な国民も、部下も、幼馴染も、みんな殺された。
俺はただ、この国で大事な人たちと過ごせればそれで良かったのに。
「最悪だな」
嗚呼、本当に最悪だ。
レンを置いて、死なないといけないなんて。
忌々しい女神の気配を濃密に纏った剣が、すぐそこまで迫っていた。
『『『バエル魔王万歳‼︎魔国ゴエティアに栄光あれ‼︎』』』
『バエル様、早く仕事をして下さいと何度言ったらいいのですか?』
『バエル様、しばらく休暇を下さい‼︎息子から目を離したくないんですっ‼︎』
『バエル様、これをあと二回使ったら多分スキルレベルが上がると思います』
国民や側近達の声が、走馬灯のように甦る。
『バエルさん‼︎』
俺の娘。
出来れば笑えるようになるまで、いや、その後も。
レンのそばにいたかった。
「幸せになってくれ……レン」
『滅びなさい、魔王』
愉悦に歪んだ女神の唇と、それとは真逆の使命感に満ちた声と共に、俺の体の感覚は消えた。
意識が消えゆく中、俺が最期に見たのは右肩から袈裟斬りにされた自分の体だった。
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