第2章
魔王戦編
第12話 邪神のお兄さんと近づく『正義』
「よお‼︎初めまして‼︎」
「は、はじめまして……」
魔国の城の中でも大きい部類に入る広間で、青年が差し出した手を恐る恐る取りながら、私は何故こんな事になったのか必死で頭を回していた。
◇
「ロクト、ここに四将軍の一人を配置してくれ。直接あいつらの事を見たお前の方がベストな配置が出来るだろ?」
「かしこまりました。今日中に決めて連絡します」
「頼んだ」
最近、バエルさんが忙しそうにしている。
元々、王様なのに毎日私のために時間を取れていたのがおかしいのは分かっていたけど、最近はアガレスさん達も難しい顔をしている事が多い。
毎日あった授業もなくなって、私はみんなが難しい顔で忙しそうに動き回っているのを見ながらアラゾニアを撫でる事しか出来なかった。
「……大変そうだね」
『きっと、もう少しすれば彼らもレン様と過ごす時間が取れますよ』
「そう、かな?」
気を張っていて、ピリピリとした嫌な空気を感じる。
何が起こっているのかはわからないのに、何かが起こっていることだけはわかった。
そしてそれが、よくない事なのも。
城から人が減って、城に残った兵士の人達も訓練がいつもより激しくなっていた。
まるで、戦争をしているみたいだ。
でも、負傷者や死者が出たという知らせやどこかが攻めてきたという情報が無いから……まとまらない考えを浮かべながらアラゾニアの羽をモフモフと撫で続けていると、バエルさんが唐突に眉間の皺を濃くした。
「バエルさん?」
何かあったのか声をかけると、どうやら念話をしているらしかった。
何かしんどかったりした訳じゃなさそうだから、元の場所に戻ってまたアラゾニアを撫でる。こうすると心が落ち着くから、日本であったアニマルセラピーというのは本当に効果があったのかもしれない。
まとまらない考えを放棄してそんなどうでもいい事を考えながらひたすらに撫でていると、渋い顔をしたままのバエルさんに声をかけられた。
「レン、一人会って欲しい人がいるんだが、いいか?」
「会って欲しい人?」
「ああ、会って損はない。きっとレンの今後のためになる」
バエルさんがそこまで言うなら、きっと凄い人なんだろう。
もしかしたら、私の新しい先生とかかもしれない。
多分魔族だし、私でも会えるよね。
「……わかった。会う」
そう思って、私はそう返事をした。
◇
「俺はトゥレラと言うんだ。俺もレンって呼んでいいか?」
「うん」
「俺の事はトゥレラって呼んでくれ」
「トゥレラさん、よろしくお」「トゥレラ」
「……トゥレラさ」「トゥ、レ、ラ‼︎」
「……トゥレラ」
「なんだ?」
「よろしく……ね?」
「おう‼︎よろしくな‼︎」
この人、絶対に陽キャだよ……。
私と同じ白銀の髪と、反対の赤い目をした青年はグイグイと距離を詰めてくる系の人だった。そういえば、初対面の時のバエルさんももう少しマシではあったけどこんな感じだったなと思い出す。アラゾニアもだよね?
私の周り、何故か陽キャしかいない……怖いよ。
虐められていた根っからの陰キャである私は、あの時の自分の楽観的な判断を呪いたくなった。今までの地獄のような日々から急に抜け出せて、人並みの危険がない生活を送っている事で少し危機察知能力が薄れているのかもしれない。
「バエルの奴に良くしてもらってるか?」
「うん。みんな優しいよ」
「そうか、それはよかった‼︎なんかあったら俺の名前を呼べよ‼︎俺は邪神だけど、レンなら助けてやるよ」
「うん、ありが、とう……じゃしん?」
なんか、この人今さらっと凄い事言わなかった?
「おう、俺は邪神って呼ばれる、神のナンバーツーだ」
「邪神って、
こんな綺麗って言葉が似合うお兄さんが?
「そうだって」
「しかもナンバーツーなの?」
「おう‼︎凄いだろ?」
「うん……」
主に、こんなにガサツそうなトゥレラがナンバーツーを務められているという点が。
「今はなんかバエルも大変そうだけど、しばらくすればまた今までみたいに戻ると思うから心配すんな。な?神である俺が保証してやるよ」
「うん‼︎」
ナンバーツーが保証してくれるんだったら、きっと大丈夫だね‼︎
前に願ったみたいに、ずっと今まで通りの暮らしが出来るはずだ。
「それよりもさ、俺に魔国での暮らしを教えてくれよ‼︎その代わり、レンも俺に気になる事を聞いて良いからさ‼︎」
あれ?手を繋いで輪を作るみたいな状態だったのがいつの間にか、座ったトゥレラの膝の上にいた。何故か魔国に来てから、いつの間にか抱えられていたり膝に乗せられている事が多すぎる……。
その事に若干の疑問と不満を感じながらも、神であるトゥレラに魔法やスキルの事を聞いて、私の普段の暮らしを聞かれるという(私にとっては)高度ながらも楽しい話をした。
「じゃあ、またな‼︎」
「バイバイ」
思っていたよりもトゥレラは聞き上手で、話し下手な私だけど珍しく話し込んでしまった。綺麗で話し上手で聞き上手……トゥレラは絶対にモテると思う。
最近すぐに関係のない事に思考が飛ぶようになったのはやはり幼児退行が影響しているのか、それとももともと私の思考が飛びやすいのか……。
普通に扉から入って来た始めの時と違って転移魔法で急に消えたトゥレラを見送った私が、そんな風に最近地味に気になっている問題について考察しながら何度か転びそうになりつつバエルさん達の仕事場に戻ると、書類から顔を上げる余裕もないのかバエルさん達からおかえりの声はなかった。
その代わりに、アガレスさんの補佐をしているよく見る文官さんにもう少しでみんなの仕事が終わるから待っててと言われる。
トゥレラと会いに行く前から更に忙しそうになったみんなを言われた通りに部屋の片隅でアラゾニアを抱きながら眺めていると、急に頭に声が流れてきた。
世界に、声が響いていた。
初めてなのに聞いた事があるような女の人の声。
妙に不安になり、怒りが込み上げてくるような、不思議なほどに不快な声だった。
『私は女神フォルフール。この世界の人々よ、聞きなさい。誇り高き勇者達に今までの働きを讃え、この神託と再度私の加護を授けます。その力を使い、私と共に世界を守る為に残虐非道な魔王を倒し、この聖戦を終わらせましょう』
「そんな……まさか……」
「何故、女神が……」
ウィサゴさんやアガレスさんの声すらも遠くに聞こえた。
呆然とした私がかろうじて発動した【見通ス者】で見たのは、赤く燃えた魔国の国境にある村と、転がる魔族の人々の亡骸の上に立ったかつての同級生達。
そして、その後ろで祈るように手を組んだ白装束の女だった。
私の大切なものが壊れていく音が、どこかで聞こえた気がした。
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