第10話 女神フォルフール

女神フォルフールは、透明なまゆのような殻の中で足を組んで机に肘を置き、駒を片手に考え込む憧れの方を見て爪を噛んだ。


どれだけ殻を叩いても、どれだけ声をかけても。

あの方は私の方を一度も向いてくれなかった。


あの方が見るのは、いつもいつもアイツ。


なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで…………。


頭の中はいつもそんな言葉に埋め尽くされ、耐えようもない怒りに苛まれて爪を噛み、ボロボロになった爪は私の神権によってすぐに綺麗な爪に生え変わる。


何であの方は私を見てくれないの?

何であの方は私の努力を認めてくれないの?

何であの方は私に笑いかけてくれないの?

何であんな小娘にばかり目を向けるの?気にかけるの?


私が、あの方とは正反対の神権しか持っていないから?


あんな人間に害にしかならない魔王とかいう存在を生み出して平然としていたような小娘のどこがいいの?


私はこんなに人間を守るために、この世界を守るために頑張っているのに‼︎


確かに、アイツが造った世界の仕組みは私には難しすぎて理解出来なくて、少し干渉するくらいしか出来なかったけど、それでも私なりに頑張ってきた。


世界軸に干渉して魔王を倒しうる力を持つ勇者を召喚して、魔族を滅ぼそうと努力した。人間達を守ろうと努力した‼︎

その努力がもうちょっと、もうちょっとで実りそうなのに。

なのに、あの方は私が努力しても見向きもしない。


私はこんなに頑張っているのに。

私の方がアイツよりも貴方の事を想っているのに。

貴方の事を分かっているのに。


何でアイツが幸福になって、私がこんな思いをしないといけないの?

何でアイツが貴方に気にかけられて、私は一度も見てもらえないの?


「フォルフール様、勇者達が魔族の……魔王の討伐に向かうそうです」


「そ、そう……ありがとう。休んでもいいわよ」


「はい、失礼致します」


慌てて取り繕って、私の眷属である天使に礼を言って下がらせる。

言えるわけがない。

色んな神に両想いなのだと伝えているのに、実際には見向きもされていないなんて、惨めすぎるじゃない。


違う。私が悪いんじゃないわ。想われてない訳じゃない。

本当はあの方も私の事を想っているけど、アイツがいるから言えないのよ。

アイツの嫉妬から、私を守る為に。

そうよ、それだわ。

私とあの方が結ばれないのは、全てアイツのせいよ。

アイツがいなければ私達はとっくに結ばれていたはずだわ。


ふふっ、私は女神フォルフール。

慈悲と美、そして愛を司るこの世界の管理神。

絶対にアイツを守るシステムを壊し、あの方をアイツから救出してみせる。


そう。

例えあの方につけられた条件を、あの方との契約を破ったとしても。

私はあの方の為に喜んで汚名を被って見せよう。

あの方ならきっとそれを見抜いて私に感謝してくれる。


さあ、始めましょう。

アイツと魔王から、あの方と世界を救う聖戦を。



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