第4話 一緒という言葉

「初めまして……レン、です」


ご飯を食べようとして泣き疲れて眠った翌日、バエルさんに抱えられて連れて来られたのは三人の男の人の前だった。

暴れてバエルさんから離れようとしても簡単に押さえ込まれて、結局半泣きでバエルさんに頭を押しつけながら自己紹介をするしかなかった。


うう……バエルさんなんて嫌いだ。ツノを肩に押し付けてやる。


「え、かわい……」


「ゴホン‼︎初めまして、ゴエティアの宰相を務めるアガレスと言います。バエル様と同じ悪魔です。レンさん、よろしくお願いします」


亜麻色の髪と灰色の目の片眼鏡の男の人が何かをかき消すように咳払いしてからそう言った。その前に何か聞こえた気がしたけど、バエルさんに聞いたら気のせいだと言っていたから多分気のせいだと思う。


「え、あ〜……初めまして、宰相補佐のウィサゴです。レンちゃん、俺もこの通り悪魔なんで、怖がらないでいいですよ」


藍色の髪と黒い目の男の人はニコッと笑ってそう言った。

なんか顔が赤いけど病気かな?


「初めまして、レンちゃん‼︎僕は吸血鬼のロクトと言います。気軽にロクトお兄さんって呼んでね」


茶色の髪と赤い目の男の人は吸血鬼、という種族で、魔族と言われる種族の一つらしい。でも、嘘だと思う。


「アガレスさん、ウィサゴさん、ロクトお兄さん……みんな翼もツノもないもん。悪魔じゃない」


みんな優しそうな笑顔で挨拶してくれるけど、ツノや翼がないって事は、人間だ。

どうせ騙して私をまた痛い目に合わせるに決まってる。だから、三人とも嫌い。


「ああ、すみません。出すの忘れていました」


「ごめんって‼︎ほら、これでいい?」


「そっぽを向きながらもちゃんと名前呼ぶの、可愛すぎでは?……吸血鬼ってツノ無いんですよね、翼は……これでいっか」


「ほらレン、ちゃんと見ろ。三人とも翼があるぞ?」


そんなはずない。ちゃんと見たのになかった……あれ?なんで三人とも翼があるんだろう?アガレスさんとウィサゴさんには二本のツノもある。

三人とも魔族だったの?

だったら私は本当のことを言ってる三人に嘘つきだと考えてしまった事になる。

どうしよう……嫌われる?嫌われたら、また殴られる?嫌だ。謝らないと。


「……あ、あの、三人とも、嘘つきって思ってごめんね」


「「「いえいえ」」」


謝ったら簡単に許してもらえた。

不思議に思っていると、「ちゃんと謝ってくれたから大丈夫です」ってウィサゴさんが教えてくれた。魔族はそれで許してくれるんだって。

同級生達だったら謝っても絶対に許してくれなかったし、アルト王国の兵士達も喉が潰されるまでの間私が何回謝っても地下牢から出してくれなかったから、やっぱり魔族の人達って優しいんだと思う。


「レン、三人とはよく会うはずだからちゃんと覚えておけ。それと、魔族の中にはツノや翼がない種族もいれば、三人みたいに普段は両方消している奴もいる。ツノや翼がないからといって魔族じゃないと決めつけたらいけない」


「うん、ごめんなさい」


「レンさんはバエル様と違ってちゃんと謝れて偉いですね」


バエルさんに怒られた事が悲しくて俯いたら、アガレスさんがそう言って頭を撫でてくれる。

頭を撫でられるのは、大切に思われてるって感じるから好きだ。

それにしても、バエルさんは謝れないのかな?よくないと思う。

ちゃんと許してもらえるなら謝ればいいのに。

私は魔族の人達は人間と違って優しいから好きだよ。

嫌われて人間にされたみたいにされたら嫌だから、これからもちゃんと謝る。


「おいおい、レンに変なこと教えるなよ。嫌われたらどうしてくれる?」


「バエル様が翼を出しておけと言わなかったせいで我々は危うくレンさんに嫌われるところだったのですよ?」


「そうですよ、なのに謝罪もないなんて、レンちゃんに嫌われて下さい」


「アガレスも、ウィサゴも減給するぞ?」


「「申し訳ありませんでした」」


三人とも言い合いをしているのに楽しそうだ。きっととても仲がいいんだと思う。

羨ましい。


「レンちゃん、僕はバエル様に頼まれてレンちゃんにスキルとか魔法の使い方を教える先生になったんですけど、ステータスを表示する事はできますか?」


私がやっとバエルさんから降りるのを許してもらって三人が会話しているのを見上げていると、私の前にしゃがんで目線を合わせたロクトお兄さんにそう聞かれた。

ステータスって、ご飯の時にバエルさんが言ってたやつだよね?あれでいいよね?


「うん。ステータスオープン」


《個体名:レン(部分表示)

 年齢:16歳

 種族:魔人

 レベル:1

 ユニークスキル:【記録スル者】

 エキセトラスキル:【見通ス者】

 称号:【記録スル者】》


改めて見ると、文字の書かれた半透明のボードが目の前に浮かんでいるというなんともファンタジーな光景だ。


「なるほどなるほど……称号に伴いユニークスキルが付与されて、更にそれを助けるためにエキセトラスキルがあるんですね。にしても、普通のスキルがないからまずはスキルの獲得を目指しながら今持ってる二つのスキルを使えるようにするという方針でいきますか……。まあ、何をするにしろまずは体力をつけるところからです。明日から一緒に頑張りましょう‼︎」


ロクトお兄さんは、何か聞き取れないくらいのすごい早口で話したかと思うと、私の前に手を出した。

何をするのかわからなくてじっとその手を見ていると、アガレスさんが後ろから

「握手ですよ。手を握ってする挨拶です」と教えてくれたから、緊張しながら手を握って「よ、よろしくお願いします‼︎」と言ったらとても喜んでくれた。

ちょっと噛んじゃったのに……。


魔族の人たちはみんな優しくて、あんなに死にたいと思ってたのが嘘みたいに感じられた。ロクトお兄さんは日本の先生と違って「頑張りなさい」ではなくて、「頑張ろう」と言ってくれる。それがすごく嬉しい。


「かふっ……」


体がふらっと傾いたのと同時に、抱き上げられたのが分かった。

ふわふわとした気分のまま、ぼんやりと思考を回す。


「ああ、眠くなったか。今日は頑張ったからな」


「バエル様がいきなり私達との顔合わせをしましたからね。疲れたんでしょう」


「普通の子供と違ってすぐに眠るのは、体力が足りないからなんだろうな……ちゃんと体力がつくといいが」


私は同級生達と違って勇者じゃないけど、同じ転移者だから少しは戦えると思う。

もしちゃんと戦えるようになったら、助けてくれたバエルさんの助けになれるかな?


私はそう期待に胸を高鳴らせながら、ゆっくりと温かい胸の中に意識を沈めた。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る