その後の裏話 児童臓物(ガキモツ)売捌(トバ)して良いわけねーだろド外道!!!
魔王領内、元王国からほど近い所にその砦はあった。
砦を取り仕切る拷問官の名前からつけられた「フェクター要塞」、そこではネトリックやマルールを含む人魔戦争での戦争犯罪者達が日々惨たらしく拷問刑に処されている。
とある理由からここを訪れた俺だが、勇者の仲間であり魔王十将インパクターの義理の息子でもあるので顔パスで通してもらうことができた。
いつもの拷問官に案内されてマルールに対面すると、牢の中で弱り切りうずくまったていたので声をかけてやる。
「ようマルール。ボロ雑巾みたいで何よりだぜ」
「な……何よ……私に何の用なのよ……笑いに来たの?」
かろうじてという様子で声が返ってきたので、俺は内心を隠し愛想笑いを浮かべながら話を続ける。
「それも悪くはないがね。今日は……お前の犯した罪、余罪について話しに来たんだよ。お前、王子の手の者と組んで子供を攫って臓物売り飛ばしてただろ」
俺の言葉に、図星を突かれたのか動きを止めるマルール。
平時であれば誤魔化す、言い返すなどできたんだろうけど心身ともに限界の今の状態では取り繕う事も出来ないらしい、……あぁ、やはりか。この最低最悪の下種が。
「王子の残党狩りをしている最中で、攫われた児童の臓物を抜いて売り飛ばしている胸糞悪くなる施設を見つけてな。
さすがにそんな施設を嫁さんに見せるわけにはいかないからそこだけは魔王軍の兵士に協力してもらって俺が殲滅(ツブ)したんだがな、そこにいたんだよなぁ、俺が、いや俺達勇者パーティが旅の中であった村の子供がよ」
俺の言葉に全てがバレていると理解したのか、無言でガタガタと震えだすマルール。さぞや肝が冷えているだろうが、それを無視して俺は言葉を続ける。
「お前さぁ、勇者パーティって立場を使って、旅の中で助けたり関わった村の子供を義勇兵だ手伝いだと言葉巧みに声をかけて連れ出して、売り捌いてやがったな?
それも帰ってこなくても後からなにか言われなさそうな子ばかりを狙ってな。このド外道が、捕まえられていた子に全部聞いたよ」
「あっ、えっ、うっ」
「―――あぁ、言い訳はいらねぇよ。ハジノ村のリィヨちゃんって覚えてるか?
俺がパーティの仲間に加わって程なくして立ち寄った村の子だ。俺も勇者パーティとして初めてした人助けだからよく覚えてるよ。その子がそこにいてな、全部教えてくれたよ。
お前が勇者パーティの後方支援の手伝いをしてくれないか、と声をかけて来たって。両親を失くしているから幼い弟妹を残していくことは心残りだったけれど戦争が終わるために、それに勇者様達のお手伝いができるならってお前の声かけに応じた事。そうして施設に連れてこられたこと――――児童臓物(ガキモツ)売り捌くために腹を開かれて、幾つも臓物を取られて鮮度維持のために延命されている状態で話してくれたよ!!」
思い出すだけで胸糞が悪くなる最悪の光景だった。同行した魔王軍の術者も、あまりに凄惨な光景に泣きながら子供たちの救命活動をしていた。喪失した臓器の再生まではできないため助けられない命がたくさんあった、この世界に来て最も人間の邪悪さを感じる場所だった。
「リィヨちゃんはな、自分が助からないのを理解していて、俺に事のあらましやお前の悪行について俺に教えてくれた。
そして残された弟妹に自分は事故で死んだと、魔族や戦争を恨まないように伝えてほしいと懇願してから俺の手を握ったまま死んだよ……弟や妹が自分の事を心配したり悲しんだり、そして遺恨を遺さないためにって願いながらなぁ!!優しい子だったよ、まだ成人もしていないような子が―――そんな善良な、年端もいかない子供を!私腹を肥やすために踏みにじって!!お前はネトリックに劣らない下種だぜぇ!!!!」
児童臓物(ガキモツ)施設でのことやリィヨちゃんの最期を思い出したことで俺の中に残っていたチートの残り火が発動するのを感じる。
全身が隆起し筋肉質になり、圧倒的な身体スペックを誇る巨漢へと姿が変わる。視線の位置が高くなったのはこの状態だと身体そのものもデカくなるからだ。今は2m近い巨漢になっている。戦闘を行う程の時間は活動できないが、ごく短時間でならこういうフルパワー状態にもギリギリでなれるが、今は、怒りと悲しみで力を絞り出しているのもある。
「おおっ♡すっげぇ筋肉ゥ!!」
拷問官が俺の変身に声を上げているが、今は無視する。牢をひん曲げて入っていくとマルールが俺から逃げるように部屋の隅に逃げ、そして壁に退路を塞がれる。
「いいか、世の中で最も邪悪な事は!人の善意を私欲で踏みにじる事だ!!そして年端もいかない子供を、何の罪もない子達の命を弄んだお前は、絶対に、絶対に許すわけにはいかないんだよ!!!!さぁ――――私が来たぞ!!!!!!!!」
「ギャッピィィィィィィィッ!?ごめんなさい、ごめんなさい、出来心だったんですぅ、王子が児童臓物(ガキモツ)儲かるっていうからぁぁぁぁぁぁぁ!!」
何が出来心だ、そんなもので子供を殺戮して許されると思うなよ。
リィヨちゃんの、いやあの悍ましい施設で命を落とした子供たちの無念を少しでも晴らす為なら残り火の残量を消費したって良い。それぐらい、酷いものを見た。
「ゲームオーバーだ、ド外道!!トールスマーッシュ!!」
俺は悪党には男女平等をモットーにしているので普通に容赦はしない。魔力の噴射を纏った拳に、残り火の乗った全力パンチでマルールを殴りつけるとマルールはあっけなく爆散し、そしてかけられていた蘇生魔法で速やかに再生した。
「い、いちゃいよぉ……ゆるしてぇ……」
正直残り火が尽きるまで、殺された子供たちの分だけマルールを粉砕してやりたいぐらいだったが近くに歩いてきた拷問官がそんな俺を制止した。思わず熱くなっていた精神がcoolになったので、残り火ブーストを切ってしおしおと萎み元のサイズに戻る。
「いやぁ、すごいパンチ!あのインパクターの旦那と真っ向からやりあえるだけあるっすわ~。でも、その貴重な力をこんなクズに消費するなんてもったいない。そのためにこういうのを開発したんですよ」
そう言って拷問官が取り出したのは、目と口はあり鼻がない、髪形を含めてみるとなんとなくネトリックによく似た顔をしたゆるキャラみたいななまくびのような生き物だった。
全体的なデザインが簡素化しているのでリアリティがなく、言われれば何かのマスコットかなにかにみえなくもない絶妙な簡単さを感じる外見。そんなモンスターだった。
「これはなまくびネトリック。魔力核とゼリー状の身体とうすい外皮で出来ている、スライムの亜種みたいなものですよ。手足をなくし簡素化したデザインのお陰で大量生産が可能で、悲鳴を上げることや苦悶の表情も可能。そして受けたダメージは全て本体にそっくりそのまま転写するようになっている俺自慢の発明でしてね!」
これが噂に聞くなまくびネトリックか!思わずじっくりみていると、なまくびネトリックがこちらをみて、小生意気な表情で声をかけて来た。
「おちついていってね!!って、なにをみているんだじぇこのぐじゅ!はやくこのねとりっくさまにひれふすんだじぇ!!そしてびじょのせいどれいをもってくるのじぇっ!!このねちょりっくさまはせかいをすべるおうっ!になるのじぇ~っ!!」
「……開口一番からクズみが凄いんだけど何これ?」
拷問官に話しかけると、ハハハと笑っている。
「そりゃ人間性の腐った精神性汚物から生まれたナマモノだから汚物にきまってるじゃないですか。排泄物が産んだ排泄物みたいなものですからね」
成程言い得て妙だがわかりやすい。だけどそんななまくびネトリックがどうしたんだとおいう視線を向けていると、拷問官が説明を始めてくれた。
「余罪が増えたネトリックは身体一つじゃいつまでたっても刑罰は与えきれないでしょう?
だから大量生産できるこいつらを潰したり虐待することで本体にダメージを与える事で刑の回数を稼ぎやすくしたんですよ。
それに、ネトリックもマルームもやらかしていたことが増えすぎているので報復や拷問をしたいという非力な一般市民の被害者や遺族の数も膨れ上がりましたからね。
簡単に報復の痛みを与えられるよう、良かれと思って世界最弱にしておきました」
つまりこの生首は誰でも簡単に使える―――主にネトリック達の被害者がその恨みを晴らすための“藁人形”ってことか。
あぁ、成程。この生首みたいなフォルム極限まで効率的にシステム化された無駄のなさによるものなのか。画一化簡素化したデザインで無駄を省いて生産性を上げて、最低限必要な機能に絞り込む。大量生産の基本だな。この拷問官無駄に多才で有能すぎてちょっと笑ってしまいそうになっちゃうよ。
「勿論サイズは色々、例えばこの手のひらにおさまる幼体サイズの“ねちょりっく”ならばこのように――――」
「ちゅ、ちゅぶぶぶぶぶぶぶぶ、ちゅぶれりゅううう?!や、やめちぇにぇ?!ねちょりっくつぶれちゃうのじぇぇぇぇぇぇっ!!ブギューッ!!」
話の途中で拷問官が掌に載せていたねちょりっくを握る力を強めると、潰されそうになったねちょりっくがグネグネと動きながら悲鳴を上げた。ちなみに最後のブギューッ!!は口からゼリーを吐き出した音である。
「もっと……おちちゅき……たかった……」
そんな悲鳴を遺してねちょりっくが握りつぶされると、その身体は破裂しゼリー状の中身をまき散らしたあと即座に大気中に霧散し消滅した。
「魔力で生成されているので倒されれば即座に消滅するので環境にも優しいのと、中身はスライム状ですが良かれと思って果実ゼリー味に設定しておいたので食べれるんですよ」
く、食えるのかこれ……いや食う気起きないけど……。
「潰すと圧殺された痛みが本体にかえる他、例えば口だとか排泄機関にあたる“あにゃるさん”から手を突っ込んで魔力核を引きずり出すと臓物を引き抜かれる痛みが、手を突っ込んで魔力核を握りつぶせば生きたまま心臓を握りつぶされる痛みが本体にかえります。
他にも捩じ切ったりして痛みを与えることができる“ぺにぺにしゃん”等――――ともかく、色々な方法で虐待すればそれが本体にダメージとしてかえるので、家族や大切な人をネトリック達のせいで喪った人には創意工夫をしてその恨みを晴らしてもらえるようにできているというわけですよ。
おかげで最愛の人を奪われた人たちはヒャッハーッ!と元気になまくびネトリックを通してネトリックに報復をしています。いやー、良かれと思って頑張った甲斐があります!!―――で、今のトールさんの話を聞いていたのでなまくびマルールも開発しようと思うんですよね」
「なんかすげーなお前……。マルールの余罪については魔王にも報告書をあげておいたからマルールの刑も爆増するし、ネトリック同様になまくび製造も多分申請許可されるだろうなぁ」
そう言うと、拷問官がにこやかな笑みを浮かべながらなまくびネトリックを俺の手の上に載せて来た。
「このねちょりっくさまにたいしてずがたかいのじぇっ!!ねちょりっくさまにはむかうやつはゆるされないのじぇっ!!どうしようもないむのうがっ!いますぐしんでね、すぐでいいよ!!」
口を開けばムカつく言葉をノンストップでしゃべるゲスってスゲーなと思いつつ、手から落とす。
「おしゃらっをとんでるみたいなのじぇ~っ!!せかいをすべるおうっ!たるこのねちょりっくさまはそらもとべるのじぇ~っ、ぱーちゃ、ぱーちゃっ!」
そして自分が空を飛んでいると勘違いして上機嫌にグネグネ動きながら落下していくなまくびネトリックを蹴り飛ばすと、ブギュッという悲鳴をあげて蹴られた威力で壁に吹き飛び叩き付けられ、最期にもっと落ち着きたかったと言いながら息絶えて消滅した。
うーん、実に不思議生物。だけど本当に戦闘力0の雑魚なのでこれなら誰でも簡単に手軽に復讐ができるんだろうな。
「なまくびマルールが出来たら声をかけますよ」
「……いや、いいよ」
固辞すると残念そうにしていた拷問官だったが、マルール自身の犯した罪に対してもきっちり落とし前をつけて欲しいと思う。
もしかしたらマルールに対して感じていたゲロ以下の匂いはマルールが裏で行っていたこういう余罪に対してのものなのかもしれないな、と思いつつ、俺は牢を壊した事を謝罪してから砦を後にするのだった。
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