第8話 ざまぁの舞台の裏側で(後)~とくと味わってくれよ……俺のハッピーエンドを!~


 俺の姿を見たマルールは檻の隙間からこちらに手を伸ばし、憤怒の形相で髪を振り乱し叫んでくる。


「おら、こっちこいやぁぁぁぁクソトールの卑怯者がよぉ!!てめぇが!てめえがっ!!てめええええガァァァァァァッ!!

 てめえの所為で私がこんな目になってるんだぞ!私に悪いと思わねえのかよ!!よくもこんな目にしやがってぇぇぇぇぇこのフニャチン野郎がぁぁぁぁぁっ!卑劣なんだよこの姑息なクズがよう、なぁ、おいこらダニ野郎!生きてて恥ずかしいと思わないのかよぉぉ!!ボコボコにしてぶちころしてやるうう!!」


 わぁお元気いっぱい、全く懲りない悪びれない!!自分が陰謀したとか頭にもうなさそう。


「暴力はいけないなぁマルール、はははははは!だけど笑えますねぇ、お前は裏切りが暴露されて檻の中、エリオットは戦争を終わらせ人と魔族を結んだ英雄、随分と差がついた。悔しいでしょうねぇ」


 折角なので煽っておこう。番外戦術は基本だよ基本。


「ぐぐぐぐっギィィィィィィ!殺す殺す殺す殺してやるうう!!」


「お前達の計画はいいところまでいっていたよ。王子と裏で繋がり!浮気をしながら勇者パーティ全員が結託して!だがしかし、まるで全然!エリオットを嵌めるには程遠いんだよねぇ!!とくと味わってくれよ、俺のファンサービスを!!」


 実際の所、俺は王子に嵌められてインパクターとの戦いで致命傷を負うことはあった。それは何故かセシリアに救われたけど、その段階でエリオットだけでもざまぁが遂行できるように段取りは済ませていたのでその時点でこいつらの詰みは決まっていたんだよねぇ。俺がこの世界に来た時点でほぼ負け確なんだよ君たち。


「黙れ黙れぇ!エリオット!エリオットが助けに来てくれるんだぁぁぁぁぁぁっ!そうだ、エリオットが私の王子様だったんだっ!今はもう心を入れ替えて反省してるからエリオットだって許してくれる!!だってあんーなに一緒ーだったのにぃー!!だからお前みたいなゴミはエリオットに殺されてざまぁされるんだぁ!そうして私はエリオットと結ばれるんだぁぁぁぁっ!!」


 オイオイまじかよ、ここにきてエリオットが自分を助けてくれるって期待してるとかどんなエクストリーム進化オツムよ……。もっと現実をみような、現実を。

 いやまぁそれを潰して入念に心を折るためにここに運ばれてきたんだろうけどさぁ。


「ふーん。まぁこれまでのサービスが気に入らないみたいだから別のサービスをしてやるために連れられてきたんだけどな。きっと気に入るんじゃねぇかな」


 そして話にならないマルールは放置して今度はネトリックの方をみる。俺と目が合うと、がーくがーくぶーるぶると自分の口で言いながら震えだすネトリック。今はハゲ饅頭になってしまってかつての美形は見る影もない。


「どうした、忘れちまったのかよネトリック。お前の一番のファンの顔を」


 わざわざ手の込んだ謀略で殺そうとするぐらい俺をマークしていたじゃないか。しかも、俺はしてやられて戦闘能力失くす羽目になってるしな。なのでにこりと笑顔を向けてやると、絶望の表情と共に牢の隅に逃げ出し、頭を毛布の中に突っ込んで蹲ってケツをこちらに向けながら震え出す。


「やじゃああああああああ!!もう拷問はやじゃぁぁぁぁぁぁっ!!やめちぇにぇ?やめちぇにぇ?いちゃいことしにゃいでにぇぇぇぇぇ!ネトリックはないーなーいのじぇ!!」


 笑顔にトラウマをおっているとかこれは相当にどぎつい責め苦を受けてきているようだ。多分拷問官やネトリックの被害者は喜々とした笑顔でネトリックを痛めつけたんだろうねーわかるよー。しかしこのパニックぷりはどうしたものかなぁと思っていると、傍に来ていたマーヴェラスが話しかけてきた。


「説明するよりも観て頂いた方が速いですな。ネトリック王子は今こういう状態なのですよ」


 パチン、とマーヴェラスが指を鳴らすと蹲り震えるネトリックのケツから脳天までがさっくりと真っ二つになった、なんか草。


「あびゃあっ?!」


 そんな断末魔をあげたネトリックだが、その身体は即座にくっついて元に戻っていく。これが魔族の蘇生魔法、凄い!!つよつよ3秒ルールじゃん。


 マーヴェラスがパチン、パチンと指を鳴らすたびケツから真っ二つと再生を繰り返すネトリック、なんか巻き戻しを多用したおもしろクソコラMAD動画みたいでシュールで笑っちゃいそうになる。


「……シテ。コロシテ……」


 蘇生と回復で傷自体はあっという間に元通りになるが、痛みやダメージはあるのかビクンビクンしながら死を懇願している。


「……と、このようにネトリックは多重にかけられた蘇生魔法によりどれだけ殺しても自動的に蘇生するようになっているのですよ。それはマルールについてもそうですがね。

 日々多くの魔王軍の術者が蘇生回数の重ね掛けをしているので拷問や王子の被害者による私刑による死よりも増える残機の方が多いのです。そして死に続けた事で常に恐慌状態になっているのです」


 わぁ、生き地獄……ってコト?!コンティニューしてでも拷問してやるぜ、もしくはもう何万回殺せるドン!状態とかこれもうわかんねぇな……。

 公共の砂袋(サンドバック)か、まぁやったことがやった事なので因果応報ならぬインガオホー。自業自得の極みなので同情はしないが、ネトリックの安寧の死ははるか遠くにありそうだ。


「ちなみに拷問以外の時間は生命の寿命が尽きないよう、普段は時の経過の無い魔牢獄の亜空間に幽閉しているので寿命で死ぬこともできません」


 そりゃなんともまぁ至れり尽くせりな事で。もうこれ“無限に死に続ける”状態じゃんwwwwwwまじウケるんですけど、いやもう徹底的過ぎてウケるって笑っておくしかないけど魔王軍容赦ねぇなぁ。


「折角だからトール殿も嬲っていきますか?今日はまだ“脳みそクチュクチュあっあっあっの刑”しかされていないのでノルマが沢山残っていましてね」


「いやぁ、服が汚れると嫌だから遠慮しておくよ。ネトリック、マルール。今日ここに来たのはお前達に何でここに連れてこられたかを教えてやるためだ。―――エリオットは魔王の娘アスモディエス嬢と結婚することになったんだよ。今、街はそのお祝いで大賑わいさ。世界中がその婚姻を祝福しているよ」


 エリオットが魔王の娘と結婚する、というのはマルールの方には衝撃が多かったらしく、俺の言葉を聞いた瞬間に顔色が真っ青になりカタカタと震えだした。


「嘘だ!!!!!!!!!!エリオットは私の事が好きなんだ!!幼馴染で婚約者だったんだ、それを、それが、う、ウワアアアアアアアアアアアッ!!そんなの絶対認めない、私は絶対みとめない!!そんなの嘘よぉ、あんまりよぉ、私の気持ちはどうなるのよぉ……!!」


 牢を掴んだままへなへなと腰を抜かし、ついにはわんわんと泣きはじめるマルール。どこまでも被害者仕草なのは素直にやべーなこいつ……と思わなくもないけど元気があるように見えて現実から目をそらすことで自我を保っていたのかもしれない。  これじゃあ結婚式の本番を直視して耐えきれるだろか?……と思ったけど別に耐えきれなくても全然!全く!問題ないし、別にいっか。


「現実みてどうぞ?裏切られ寝取られ命まで狙われた相手に恋愛感情なんか残ってるわけないだろ。まぁじきにわかるさ」


 既に俺の言葉は聞こえないようで、裏切り者ぉ、エリオットの裏切り者ぉ!と地面を拳で叩きながら泣き叫ぶマルールと、痙攣し続けるネトリックを一瞥してから地下牢を出る。ちょうど入れ違いで拷問官が来て、『次は肉削ぎの刑だよぉ』なんて言ってたなぁ。

 あの2人にはエリオットの挙式を、外界から感知されない“特等席”で見せつける手はずになっている。

 最高の復讐は自分が幸せになる事だ、っていうけれどもエリオットはまさにその極致にいる。栄光、栄誉、幸福。そんな全てを手に入れたエリオットの姿と、終わらない拷問の待つ身とのギャップを味わってもらうためにわざわざここまで護送されてきたのだから。いやぁ、魔王軍の拷問官はエグいこと考えるよなぁ。潰すのは身体だけでなく心まで、かぁ。……おぉ、こわいこわい。怖いねェ~~~~!


 地下牢から出て夕暮れの街の喧騒を歩き宿に歩いていくと、エリオットが宿の入り口で待っていた。


「どうした相棒、こんなところで」


「あぁ、トール。少しだけ、時間いいかな?」


 改まった態度でそんな事を言ってくるエリオットを不思議に思いながら、俺はエリオットに促されるまま王都の大鐘楼まで歩いていった。王都が一望できる展望スポットだが、今は営業時間外で特別にいれてもらった俺たち以外誰もいない。


「改めてしっかりお礼を言ったことなかったなって。……ありがとう、トール」


「おいおいなんだよ急に。別にそんなお礼を言われるような事してないだろ」


 言葉と共に頭を下げてきたエリオットの頭を挙げさせて、両手を広げるジェスチャーをしながら苦笑する。


「……そんな事はないよ。トールがいなかったら俺は駄目になっていたと思う。寝取られも、裏切りも、本当に苦しかった。だけどトールがいたから耐えられた。君が俺を支えてくれたから、俺はここまでたどり着けた。こうしてたくさんの人に祝福されての結婚なんてのもトールがこれまで色々な事をしてきてくれたからだってわかってるさ。……挙式を目前にしたら、なんかそういうのがこみあげてきてさ」


「なんだよマリッジブルーってか?そういうのは―――レディがするもんだろ」


 親にするもんだろ、と言おうとしたところでそういえばエリオットは両親を失くしてるんだな、と思って慌てて言い換える。人生において失言をしないようにこういう小さな気遣いが大事なんだよネ。


「……そうか、そういうものなんだろうな。でも俺は、トールに見守られてたってのはやっぱり自覚あるんだ。だからありがとうトール、俺と友達になってくれて。俺を支えてくれて」


「よせやい照れるぜ」


 なんか真剣な顔でそんな事を改めて言われると普通に照れるので、展望スペースの縁に肘を置きながら街の喧騒を見下ろす。王族は根絶やしにされたけれども戦争は終結し、街の人々は今までと変わらず過ごしているし、出来る中では最善にたどり着いたんじゃないだろうか。


「俺は、俺の命の続く限りこの平和を護る為に頑張ってみようと思う。だから―――長生きしてくれよ、トールのいない世界は寂しいからさ」


 そんなエリオットの言葉に苦笑してから頷く。


「そうか、そうだなー。ま、善処してなるべく死なないように頑張ってみようかねぇ」


 今の俺はチートの残り火しかないので元ムキムキマッチョマン今はやつれ姿マンみたいなもので、ともすればあっさり死んじゃいそうではある。

 だけどそんな風に改めて言われると、エリオットが人生全うするまでは生きながらえて傍でみているのも悪くはないかなと思う。

 ……なのでいつだったか、勇者パーティに加わった時の言葉をもう一度エリオットになげかける。


「なぁ、エリオット。俺と出会えて、お前の人生面白くなっただろ?」


「……あぁ!最高にな!!」


 顔を見合わせて2人で破顔し沈んでいく日を2人で見てから、その日は宿屋で遅くまで旅の思い出話を語り合うのだった。いや、結婚式を目前に控えて男2人、密室で何もないはずがなく……っていや本当に何もないよ本当だYO??


 ―――次の日の朝、宿屋のお姉さんに昨日はお楽しみでしたねと意味深な視線を向けられた。何かそれ違うような……?

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